お笑い芸人の今田耕司さんは、『M-1グランプリ』『オールスター感謝祭』『バチェラー・ジャパン』など人気番組の司会者も務めています。なぜ各局は今田さんをMCとして起用するのか。フリーアナウンサーの古舘伊知郎さんがその理由を解説する――。
※本稿は、古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
司会者なのに「もわ~ん」とはじめてくれる
『M-1グランプリ』で司会している時の今田耕司君は、上戸彩さんが進行するから、司会に徹しています。
古舘伊知郎『MC論 昭和レジェンドから令和新世代まで「仕切り屋」の本懐』(ワニブックス)
あの番組って、審査員がいっぱいいるし、今田君がわざと司会然としてタキシードを着ているのも含め、レトロ感がありますよね。
審査員を上手にいじりながら、絶妙な仕切りをしています。
今田君がMCの『ファミリーヒストリー』にゲストで出たことがあるんですが、その時も、やっぱり今田君は上手いと感じました。
昔の大橋巨泉さんのように真ん中にどんと座って、「古舘さんのルーツを今日は探らせてもらいますよ」というような、司会者然とした司会の弁は今田君には一切ありません。
なんというか、もわ~んとはじめてくれるんです。
「親族に誰かそういう人いました?」
普通、番組の収録は「10秒前、9、8、7……3、2、はい、キュー」とカウントダウンとともに緊張感が高まりゆく中ではじまるので、それが司会者にも伝播して、
「こんばんは、今夜もはじまりました、○○です」
とちょっとかしこまった感じではじまりがちです。
でも、『ファミリーヒストリー』という番組は己のルーツと出会い向き合う番組だから、テキパキはじめられるより、もわ〜んと穏やかに、さかのぼっていくような感じだと、ゲストとしてはやりやすいんですよ。
他にも、上手いなと思ったのは、司会っぽくないフリをフェイクで入れてくるところ。
プロレスの実況中継をやっていた時、僕のしゃべりは「古舘節」と言われていました。それ関連の話は出るだろうと思っていたけど、それを「あの古舘節って、どこから来たんですか?」と直球で聞かれたら、少なからず僕自身の歴史を話さなきゃいけなくなるじゃないですか。
でもそれだと番組の主旨、ファミリーのヒストリーからずれてしまいますよね。だけどそこは、今田君は上手い。
「古舘さんって、何でも描写できるし抜群に上手いけど」
え、まさか実況の話をストレートにしてくる? と一瞬緊張させておいて、
「あれ、どっから来ているかといったら、やっぱり親戚とかおじいちゃん、おばあちゃんとかに、そういう上手い人がいたってことですか?」
みたいな感じで聞いてくれたんです。
一瞬緊張させて、「親族に誰かそういう人いました?」って包んでくる。ここで司会の逆転が起きるんですよ。僕があたかも司会者のように、
「え? それを今日はこの番組でやってくれるんですよね? 『ファミリーヒストリー』なんだから」と返す。すると、今田さんが、
「もちろんやりますよ」
こんなやりとり、アナウンサー系の司会者なら、絶対に起きません。
滅私状態から急に胸襟開いて自分を出す
もう一つ、今田君の司会で感心したのは、自分を出すべきところではちゃんと出すところです。
番組が中ほどまでいい感じで進んだ時、僕ら世代の司会者であれば、「いやー、おじいちゃんもお父様もこれだけ苦労されて、ずっと外地でやって、何といっても戦争があって、こういういきさつがあったんですね」みたいな、もう1回返すっていう定番があるんですが、今田君はそれを端折る。
「マニラの港に向かう途中、敵方の魚雷が発射されて、これ空砲で船に当たったから、お父さん死なないで済んだんですね。うちの親父もそうなんですわ」
司会を放棄して自分の話をするんです。すると2人で「同じじゃないですか。空砲同士なんだ。だから我々は生まれてきたんだ」って親近感が生まれる。
この出しどころが上手いんですよ。それまでは滅私状態だったのに、急にウワッて胸襟開いて自分を出すから、こっちも出せる。
この人なりの起承転結があるんだなと思って感心しました。