欧州EV化戦略にマツダの対抗策は – 森口将之

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欧州での売り上げ比率が高いマツダに”青天の霹靂”

欧州の電動化戦略はついに、EUの行政執行機関である欧州委員会が発言するまでになった。

欧州委員会は2021年7月、「European Green Deal」の一環としての提案で、2035年に乗用車および小型商用車の新車CO2排出量をゼロにすることを義務付けた。言葉どおりに受け止めれば、ハイブリッド車(HV)のみならずプラグインハイブリッド車(PHV)も禁止し、電気自動車(EV)と燃料電池自動車(FCV)のみとする厳しい内容だ。

日本の自動車メーカーでこの影響をもっとも大きく受けるのは、マツダではないかと思っている。新型コロナウイルスの影響がなかった2019年の同社の販売データを地域別に見ると、北米18.6%、欧州19.5%、日本13.6%、中国15.2%だった。米国偏重の傾向が大きい日本の自動車メーカーで、欧州がトップというのは異例だ。

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クルマづくりにおいても、マツダは欧州流を目指してきたと思っている。2010年代に入って導入された「スカイアクティブテクノロジー」と新デザインテーマ「魂動(こどう)」はその象徴ではないだろうか。

スカイアクティブでは、欧州で日本のHVに対抗する環境技術として展開していたクリーンディーゼルに目を向け、独自の発想と技術でクリーンかつスムーズなディーゼルエンジンを作り上げた。

魂動デザインは、肉食系猛獣が疾走する姿をモチーフにした、躍動感あふれるフォルムを骨格としてイメージしたうえで、メルセデス・ベンツやBMWといったドイツのプレミアムブランドのように、全車種に統一感のある造形を与えていった。

ところが、スカイアクティブと魂動デザインが本格的に投入されたのは初代CX-5が発売された3年後、フォルクスワーゲンによるディーゼルエンジン不正事件が発覚。これを機に欧州は一気に電動化にシフトした。

一連の動きが純粋な環境対策ではなく、戦略的意味合いもあることは、以前の記事「トヨタ社長が記者会見で『日本らしいカーボンニュートラル』の実現を訴えた理由」でも触れたとおりである。

しかし、少し前まで欧州で支持されていたディーゼルエンジンの普及に努めてきたマツダにとっては、青天の霹靂だろう。

電力化の動きにマツダが打ち立てた5つの開発方針

電動化への準備を怠っていたわけではない。同社では以前から、基盤となる技術群をブロックとして段階的に積み上げ、優れた技術を効率的に届けていく「ビルディングブロック戦略」を提唱しており、デミオEVを地元の官公庁向けとして少量生産をした後、2020年に初の量産EVであるMX-30を欧州や日本で発売した。

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さらに6月17日には、2030年に向けた新たな技術・商品の開発方針を発表した。2050年カーボンニュートラル化への挑戦などをふまえ、以下の5つの方針に沿って技術・商品の開発を進めるとしている。

1. ビルディングブロック戦略による技術資産の積み上げと、それを活用した高効率なモノ造り
2. マルチソリューション戦略による電動化の推進と商品導入
3. 「事故のないクルマ社会」の実現に向けた「人」中心の安全技術の普及
4. 次世代の移動サービスの基盤となるコネクテッド技術、ソフトウェア技術への挑戦
5. カーボンニュートラル、CASE時代への「人」中心の開発哲学の継承

電動化に関係しているのは1と2だ。

まず1では、内燃機関の一層の進化と電動化技術の拡大を継続すると説明。内燃機関については2019年に発表したスカイアクティブXに加え、直列6気筒エンジンの投入を公表した。

既存の横置きパワーユニットと直列6気筒を縦置きするパワーユニットの両方に対応したプラットフォームを開発し、これをベースとして国ごとの電源事情や環境規制、ユーザーのニーズに応じたマルチソリューション展開をしていくという。

これとは別に2025年以降には、さまざまな車格やボディタイプのEVに適応できる、独自のEV専用プラットフォームを導入するとしている。協業パートナーとともに電動化時代への技術資産を構築していくことにも触れている。HVで実績のあるトヨタ自動車との関係も活用するのだろう。

2については、マルチソリューションプラットフォームを用いてHV5車種、PHV5車種、EV3車種を日本、欧州、米国、中国、ASEANアセアンを中心に2022年から2025年にかけて順次導入予定。専用プラットフォームの商品は2025年頃から2030年にかけて複数のモデルを導入する予定という。

その結果、2030年時点での生産における電動化比率は100%、EV比率は25%を想定しているとのことだった。

翌月、欧州委員会は最初に書いたように、EVとFCV以外の新車販売を禁止するという発表をした。ただし注意したいのは、ここまで極端な電動化戦略を出しているのは欧州ぐらいであることだ。

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