オミクロン株初の死者 英に緊張 – 木村正人

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3回目のワクチン接種を受けるため行列をつくる若者たち(ロンドンのセント・トーマス病院で11日、筆者撮影)

2回接種でもオミクロン株感染は防止できない

[ロンドン発]アフリカ南部から広がった新型コロナウイルスの変異株オミクロンが米ファイザー製や英アストラゼネカ製のワクチンによる抗体を逃れることが英オックスフォード大学の研究で確認された。

ボリス・ジョンソン英首相は13日、ロンドンの予防接種センターで報道陣に「残念ながら、少なくとも1人の患者がオミクロン株で死亡したことが確認された」と報告した。「私はオミクロン株の症状がよりマイルドだという考えは脇に置いておかなければならないと考えている」と楽観論に釘を刺した。公式にオミクロン株感染による死亡例が報告されたのは世界初。

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サジド・ジャビド英保健相 も「オミクロン株はロンドンでの感染の44%を占め、48時間以内に首都での感染例の半数を超えるだろう。オミクロン株の新規感染者は1日当たり20万人とみられる」と述べた。イングランドでは10人がオミクロン株に感染して入院し、ほとんどの人が2回目のワクチン接種を受けていた。

イギリスではオミクロン株による初の死者が報告され、年末までに18歳以上にファイザー製ワクチン3回目接種を終わらせる緊急ブースター作戦を発動した。

ワクチン接種や自然感染による獲得免疫には(1)抗体による液性免疫と(2)T細胞を中心とする細胞性免疫がある。オックスフォード大学のコロナワクチン研究チームはオミクロン株がファイザー製やアストラゼネカ製のワクチン接種によって体内につくられた抗体をどれぐらい回避するのかを調べ、今月11日に査読前論文として公開した。

オミクロン株はスパイク(突起部)タンパク質に少なくとも30個のアミノ酸置換、3つの欠失、1つの挿入がある。30個の置換のうち15個が、ヒトの体内の受容体と結合する部位(受容体結合ドメイン)に集中している。これだけスパイクタンパク質が変異するともとの株に対して設計されたワクチンによって誘発された抗体の効き目が低下する。

ファイザー製やアストラゼネカ製のワクチンを2回接種した人の血清を用いてオミクロン株をどれだけ中和できるかを実験した結果、ファイザー製の効果はもとの株に対してより30分の1に低下し、アストラゼネカ製の場合は検出可能な閾値すら下回った。これは再感染やワクチン2回接種者のブレイクスルー感染が増加する可能性を示唆している。

オミクロン株の重症度は現時点では不明だが、細胞性免疫への深刻な影響はないとみられている。しかし今回の実験で確認された抗体回避によりオミクロン株はデルタ株に代わって世界の優勢株になるのは必至の情勢だ。そうなると必然的に感染者数が膨れ上がり、重症度のいかんにかかわらず医療が逼迫し、崩壊しかねない。

南ア医師会長「軽症だと言っているのに、なぜ信用できない」

オミクロン株の症例がイギリスで初めて確認された先月27日、ジョンソン首相はアフリカ南部諸国からの入国禁止、濃厚接触者の自己隔離、店内や公共交通機関でのマスク着用、3回目接種の対策を打ち出した。今月8日には「指数関数的な感染拡大の無慈悲な論理は入院患者数の大幅増、死亡者数の増加につながる」と在宅勤務などのプランBを発動。

12日には「疑う余地はない。オミクロン株の高波がやって来る」として5段階ある警戒レベルを2番目に高いレベル4に引き上げ、来年1月末までに18歳以上のファイザー製3回目接種を終わらせるという目標を年内に前倒しした。対象となる約4410万人のうち約2356万人しか接種を終えていないため、ワクチンを打つボランティアを再動員した。

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(11日、筆者撮影)

13日、イングランドの予約サイトには希望者が殺到し、予約なしで3回目の接種が受けられるロンドンのセント・トーマス病院には7時間待ちの行列ができた。

世界保健機関(WHO)によると、オミクロン株は12月9日時点で、63カ国で確認された。南アフリカでの予備的な調査結果ではオミクロン株はデルタ株より重症化しにくいことが示唆されており、欧州連合(EU)とアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーで報告された全症例は軽症または無症状だった。

多くのオミクロン株感染者を治療したアンジェリク・クッツィエ南ア医師会会長は英ラジオ番組の司会者に対し「オミクロン株の症例はこれまでの株に比べはるかにマイルド。入院する患者数は増加しているものの、ほとんどの患者が5日以内に回復している。私たちが軽症だと言っているのに、それを信用できないという理由はない」と不満をぶちまけた。

南アではオミクロン株が支配株に

しかし南ア保健省が公表しているコロナの新規感染者数や入院患者数、死者数を見ると、クッツィエ会長と同じように楽観できる人は少ないだろう。それによると、新規感染者数の増加率はこの4週間、前週比で1.5倍、3.4倍、4.8倍、2.4倍と文字通り指数関数的に伸びている。

木村正人

コロナウイルスのゲノム配列のデータソース、GISAIDに南アから11月26日以降に送られてくるサンプルにはデルタ株はなく、オミクロン株ばかりだ。新規入院患者数は直近の3週間、前週比で2倍、2.8倍、1.6倍と激増している。

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死者数の推移はこの2週間で前週比1.9倍、1.8倍に膨れ上がっている。

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南ア医学研究会議(SAMRC)によると、コロナ以外の死因を含む週単位の全死者数も9898人から1万1564人に1666人も増えている。下のグラフからは死者数がハネ上がっていることが一目瞭然だ。

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イングランドでは来年4月までに最大で7万5000人死亡の予測も

公衆衛生と感染症研究の世界的権威であるロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)のモデリング予測では、英政府が新たに導入した在宅勤務やワクチンパスポート提示のプランBよりさらに厳しい規制がとられなければ来年4月末までにイングランドだけで2万5000~7万5000人の死者を出す恐れがあるという。

飲食店の屋内営業制限、一部娯楽施設の閉鎖、集会規模の制限など、コロナ対策を一段と強化しなければ感染爆発の大津波が起きて医療機関がのみ込まれてしまう可能性がある。前出のオックスフォード大学コロナワクチン研究チームは「現在の一価(1種類の株に効果のある)ワクチンから多価ワクチン戦略への転換を検討する必要がある」と提言する。

一方、ファイザーは8日「オミクロン株に対して2回接種だけでは中和抗体価は著しく低下するものの、3回目を接種すれば25倍に回復する。T細胞が認識するスパイクタンパク質のエピトープ(抗原決定基)の80%はオミクロン株の変異の影響を受けていないため、2回接種でも重症化を防ぐ効果が得られる可能性がある」と発表した。

感染爆発が起きて医療が逼迫すればイギリスはロックダウン(都市封鎖)に逆戻りする恐れがある。そうなればイギリス経済は壊滅的な打撃を受ける。オミクロン株の感染拡大と3回目接種の展開のどちらが速いのか。国家の命運を左右する命懸けの闘いが始まった。日本も警戒が必要だ。

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