白昼夢? 昭和レトロなアーケードにハイテクな地獄体験! 大阪の異空間「全興寺」

ロケットニュース24

大阪市平野区。市内の人口ナンバーワン区でありながら、戦時中の空襲を免れ、200年前の家並みが残る古い街だという。この地に大人も子どもも100円で体験できる「地獄」があるのをご存じだろうか。

聖徳太子作の薬師如来をご本尊とする真言宗・全興寺(せんこうじ)。その歴史は古く、寺を起点に街が広がった「平野発祥の地」ともされる。


・全興寺の地獄堂

時代は下って令和のいま、ここにはハイテクな「地獄」がある。


本堂にお参りしてから寺務所でQRコード付のチケット(100円)を受け取る。


入堂の前に「あなたはどこへ行くか 極楽度・地獄度チェック」を済ませておこう。得点によって「極楽行き たいこ判!」から「地獄行き決定!」まで、日頃の行いを判定してくれる。

お堂の入口にQRコードかざすと、自動で扉が開く。緊張感が高まる……!


中は薄暗く、人が2~3人も立てばいっぱいの狭い空間。閉所パニックを起こしそうな暗闇だ。正面からは閻魔大王がこちらを凝視している。


備えつけのドラを叩くと……


映像と音声で「地獄がいかに恐ろしいところか」というお話が始まる。


巨大な赤鬼と奪衣婆(だつえば)の足元には責め苦を受ける人間の姿も! これは私……?


そういえば筆者の地元にもお盆の夜だけ「地獄絵図」を開帳する寺院があった。

地獄の様子がおどろおどろしいタッチで描かれており、想像力豊かな幼女だった筆者は「家族が地獄に落ちたらどうしよう」(あくまで自分ではない)と恐怖で眠れなくなったことがある。人生で初めて「考えごとで寝つけない」という経験をした日だ。

逆によい行いをすれば、地獄に行かなくて済む。写真撮影OKだが、アクリルパネルを超えるとセンサーが作動するので注意。さっそく「ルールを守らない悪い大人」になってしまうぞ。

境内を順番通りに巡ると、「地獄から極楽まで」を体験できる。たとえば地獄の釜の音が聞こえる石や、賽の河原の石積み体験。

仏さまと赤い糸で結ばれた自撮りができる「赤い糸の縁結び」コーナー。手持ちのスマートフォンをセットできる。


地獄があれば極楽もある。「ほとけのくに」と名づけられた地下空間では、ステンドグラスの曼荼羅(まんだら)で瞑想ができる。

そのほかLEDで照らされ、水が波紋をつくる「総ガラスの涅槃仏(ねはんぶつ)」や


気づかなければ通り過ぎてしまいそうな隙間に、ひっそりとある鎮守堂など


決して広くはない境内にユニークな施設が所狭しと詰めこまれており、テーマパークのようだ。境内にはほとんど人の姿がなく、のどかな晴天もあいまって下町ののんびりした空気がただよっている。

北門に向かうと「一願不動尊」という立派な像があり「古刹らしい!」と思ったのだが


足元には雲海を表現したスモークが出ていた。ハイテクである。


・ご住職の思い

人呼んで「お寺のディズニーランド」。どうしてこんなテーマパークのような境内が出来上がったのだろうか? 川口良仁住職に話を聞いた。

「境内の施設は、すべて仏教の教えを「体験」してもらうためのものです。エンターテインメントで始めたわけやないんですよ」

「たとえば地獄堂は、江戸時代からあった閻魔堂を現代的にリニューアルしたもの。もともと仏教は時代や国によって、文字であったり絵であったりと表現を変えて広がってきましたから、それが音や映像に変わったとしても不思議ではないでしょう。時代の流れにのれば、ごく自然なことやと思います」

「現代ではストレス解消法を自分の外側に求める人が多いですが、仏教では平安は心の中にあります。都市部でもっとも静かな場所は地下やから、瞑想のための「ほとけのくに」は地下にあるんですよ」

「多くの人は死後に初めて仏と縁ができると思っていますが、本当は生きているうちに縁を結ぶことが大事です。それを目に見える形にしたのが「赤い糸の縁結び」です。インスタにも載せられますでしょ」

「人は実際に体験したことが一番残ります。観光だけでもだめ。子どもたちには、坐禅や説教を強いられる苦痛な場所としてではなく、ゲーム感覚で楽しみながら仏教の教えを体験して欲しいと思っています」


・昭和レトロなアーケード

ところで、寺院には西門と北門があり、バス停のある大きな通りから徒歩で西門を訪れた筆者は、最後に北門から外に出た。そこには想像もしていなかった光景が!


北門はなんと平野本町通商店街のアーケードの一部になっている。便利な場所にあるお寺だなぁと思ったら事実は逆。寺院のあるところに後から商店街ができたのだ。

タイムスリップしたようなレトロな建物は登録有形文化財!


狭い通路の両側にずらっと並ぶ店舗。シャッターが下りている店も多いものの、あいまを縫うようにドラッグストアや衣料品店や青果店が営業している。人々の息づかいが感じられるようだ。

夕方には賑わうのだろう。筆者が訪れた平日の午後には人通りもほとんどなく、昭和のまま時が止まっているかのよう。ここは本当に現実世界か?

全興寺は「平野の町づくりを考える会」の中心的存在として、地域の文化を守る活動をしている。形あるものを見に来る「観光」ではなく、空気を肌で感じる「感風(かんぷう)」を提唱。観光地化は目指さず、旅人が自分で迷いながら路地を歩き、地元の人に聞きながら探索して欲しいのだという。


・現実だったのか?

後に確認したところ今回ご紹介した境内の見どころはごく一部で、スマホゲーム「鬼ハンター」をはじめとする参加体験、プチ写経などの修行体験、「地獄シリーズ」と名づけられた各種お土産など、濃すぎるコンテンツが満載。

しかし境内には、大都市・大阪であることを忘れるような穏やかな空気が流れ、観光客が大挙するような雰囲気でもない。まさに暮らしに溶け込んでいる寺院だ。

商店街を含めて「白昼夢だ」といわれれば納得してしまいそうな不思議な空間。もう1度訪ねたら、実は存在していないんじゃないか、そんな気さえしている。


・今回ご紹介した寺院の詳細データ

名称 全興寺
住所 大阪市平野区平野本町4-12-21
時間 8:30~17:30(17:00 受付終了)


執筆:冨樫さや
Photo:RocketNews24.

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