ワクチン接種義務に関する法案

アゴラ 言論プラットフォーム

オーストリアで来年2月1日から新型コロナウイルスのワクチン予防接種が義務化される。それに先立ち、同国ではワクチン義務化に関する法案作成が進行中だ。ミュックイン保健相とエットシュタドラー憲法問題担当相が9日、記者会見で草案を発表した。今後、関係省、専門家たちとの会談を重ねて最終法案をまとめ来年1月には施行する予定だ。

ウィーンで雪が降った日の風景(2021年12月9日、撮影)

バチカンを除くと欧州で全国民を対象とするワクチン接種義務化はオーストリアが最初だ。隣国ドイツでもその動向に注視している。チェコでは60歳以上の国民へのワクチン接種義務化を決定するなど、コロナウイルス感染防止でワクチン接種が現時点では唯一の対策として、ワクチン接種義務化の動きが本格化してきた。欧州以外ではインドネシア、ミクロネシア、トルクメニスタンはワクチン接種の義務化を実施している。

問題は、「ワクチンを強要することは国民の自由を制限する」として、欧州ではやはり抵抗があることだ。シャレンベルク前首相(現外相)が先月19日、ワクチン接種の義務化を宣言して以来、同国では反対者から「ワクチン独裁だ」といった声が聞かれる。

以下、同法案の概要を紹介する。

ワクチン接種の義務化は来年2月1日から始まる。対象はオーストリアに住む14歳以上の全国民(約770万人)だ。例外は妊婦や特別な疾患を有している国民のほか、コロナ感染から回復した国民は6カ月間、ワクチン接種の義務はない。ただし、かかりつけの医師や専門医の診断書が必要となる。出産後、女性はその翌月末からワクチン接種の義務対象に入る。

一方、未接種者は保健省からワクチン接種のリクエストを受ける。必須の予防接種には、最初の予防接種、2回目の予防接種(最初の予防接種から14日以上42日以内)、および3回目の予防接種(事前予防接種後120日以上270日以内)が含まれる。この法案では、米ファイザー・独ビオンテック社、米モデルナ社、英アストラゼネカ社、米ジョンソン&ジョンソン社のワクチンを公認している。

未接種者に対しては3カ月(Inpfstichtage)ごとに600ユーロ(約7700円)の罰金が科せられる。年に2400ユーロ、最高の罰金は年間3600ユーロになる。14歳以上の国民で予防接種を受けていない国民は2月15日、保健当局からワクチン接種の要請を受ける。3月15日以降、ワクチンを受けていない国民は罰金が科せられる。罰則は、地区の行政当局によって発行される。草案によると、罰金によって集められた資金は地元の病院に送られることになっている。ただし、罰金を受ける未接種者の所得が低い場合、罰金額が下がるなど考慮される。

保健省と憲法省は今後、野党の社会民主党(SPO)やネオスと協議を重ね、検討する。そして来週中にも法案が査定のために送られることになっている。野党の中でも極右政党「自由党」は草案作成のプロセスには距離を置いている。キックル党首は、「われわれはワクチン接種の義務化には反対する。ただし、ワクチンの接種には反対しない。個々が判断する問題だ」という姿勢を崩していない。

ネオスのベアテ・マインル=ライジンガー党首は記者会見で、「自分はワクチン接種の義務化には反対してきた。国民の自由な判断を尊重していたからだ。しかし、ワクチン接種の現状やコロナ感染の拡大などをみて、ワクチン接種の義務化を支持することにした。さもなければ、第5、第6のロックダウンが回避できなくなるからだ」と説明していた。

草案作成ではオーストリアで公認されている宗教団体や教育関係者なども参加し、その見解、立場を表明してきた。目的はいかに国民のワクチン接種率を高めるかにあるからだ。

なお、世界保健機関(WHO)のハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は7日、欧州で広がってきたワクチン接種の義務化への動きに対し、「ワクチン接種の義務化はあくまでも最後の手段でなければならない。パンデミック対策で全ての手段が実施された後、それ以外に選択肢がないと判断された場合に限られるべきだ」と義務化には慎重な姿勢を崩していない。

参考までに、オーストリア保健省のサイトには以下のメッセージが載っていた。

「COVID-19ワクチンは、オーストラリア国民でない人も、永住権を持っていない人も、だれでも無料で接種できます。これは、Medicareカードを持っていない、海外旅行者、留学生、移民、難民等も同様です。現在、オーストラリアにいる12歳以上の全ての人のワクチン接種予約を受け付けています」

オーストリア国民は当たり前に思っているかもしれないが、世界を見渡せば、オーストリア政府のオファーは決して当然のことではない。世界では、1回目の接種を受けるために長い間待っている人が少なくないのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年12月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

タイトルとURLをコピーしました