マツケン目玉の紅白に未来あるか – 渡邉裕二

BLOGOS

BiSH、DISH//、Awesome City Club、millennium parade × Belle、まふまふ…。

年齢層の違いはあるのかもしれないが、このアーティスト名を聞いてピンとくる人がどのくらいいるだろうか?

いずれも大晦日恒例「第72回NHK紅白歌合戦」の初出場の面々である。冒頭で記したアーティスト以外にも今年はKAT-TUN、Snow Man、平井大、上白石萌音、布袋寅泰らが初出場となった。その一方で昨年出場したSuperflyやLittle Glee Monster、JUJU、BABYMETAL、瑛人、さらにMr.Childrenらは落選となった。

相変わらず曖昧な出場者の選考基準

例年のことだが出場者の選考基準についてNHKは「世論の支持」「今年の活躍」、そして「番組の企画・演出」を3本柱にしていることを力説する。

ちなみに「世論の支持」とは、NHKが全国7歳以上3553人を対象に行った「ランダム・デジット・ダイヤリング」方式(コンピューターで無作為に数字を組み合わせて番号を作り、電話調査する方法)による世論調査と、さらに7歳以上8000人に対して行った「Webアンケート調査」を基にした客観的なデータだとしている。

また「今年の活躍」については、CDやDVDの販売と共に、インターネットでのダウンロード、ストリーミング、ミュージックビデオの再生回数、有線放送やカラオケなどのリクエスト、そしてライブやコンサートの実績だと言う。

それが「視聴者のニーズで選んだ」と言う“根拠”となっているのか「幅広い層の皆様にお楽しみ頂きたい」(一坊寺剛チーフ・プロデューサー)と意欲を見せているのだが、さる音楽関係者は、

「最多回数出場者だった五木ひろしが事実上のリストラを言い渡されるなど、演歌系の出場者数は年々、減少し続けています。しかし、演歌系を減らすことが世論なのでしょうか? 確かに『時代の流れ』と言われたら、納得せざるを得ませんが、それを一言で『世論』とくくってしまうのはNHKの都合、身勝手だと思います。

テレビ東京は『紅白』放送の裏で『第54回年忘れにっぽんの歌』(後4時〜後10時)を放送しますが、そうそうたる演歌歌手が6時間にわたって登場することで逆に人気を高めています。しかも、事前収録の音楽番組でありながら、ここ10年の視聴率も平均7〜8%(昨年は7.4%)と落ち着いている。出場歌手で毎年、右往左往しているNHKに対して独自路線を貫くテレ東らしい番組ですが、視聴者の「『年忘れにっぽんの歌』の方が安心して楽しむことが出来る」と言う声も無視できないと思います」

と首を傾げるが、「世論」を盾にするNHKの選考基準に「選考基準がサッパリ理解できない」と疑問を投げかけるのは音楽評論家で尚美学園大学副学長の富澤一誠氏である。

「出場者のリストを見た時、一瞬『何だこれは…』と思いましたね。テーマにしても今年は『カラフル』と言うことで、NHKでは『2021年の最後の夜は世の中を少しでもカラフルに彩りたい』とアピールしていますが、テーマと出場歌手が全く一致していない。

出場基準を世論とか今年の実績なんて言うから分かりにくくなるわけで、単にNHKの企画・演出で決定したと言ってしまえば分かりやすいのだと思いますよ」

今年の紅白「目玉」は誰だ?

確かに、出場者のラインアップを見てもワクワク感が全くない。一部のメディアは「デビュー15周年でKAT-TUNが異例の初出場」とか、ネット民の間からは、ニコニコ動画で人気のまふまふが話題になっていると言われるが、どれもこれも決定打に欠ける。結局は、

「今年の『紅白』の目玉は誰?」

となるが、前出の音楽関係者によれば、

「水面下では女性6人組クループのBiSHだと言われています。彼女たちの人気は型にはまらないスタイルなのですが、ファンの間では下ネタが話題になっています。それもあって生放送の『紅白』で何を言い出すのかとヒヤヒヤ感を演出していますが、ちょっと無理がありますね。となると、現時点では特別出演の松平健かもしれません。あとはMVP受賞の大谷翔平の出演なども交渉しているようですが、どう見ても苦肉の策です」

松平健の出場は2004年以来2回目となるが、今回も「マツケンサンバⅡ」を披露することになっている。

「東京五輪の開会式では、SNS上で『マツケンサンバ』待望論が沸騰しました。ネットの中での勝手な盛り上がりで、単なるワイドショーネタだったのですが、目玉となるものがなく五輪絡みの演出にこだわるNHKが飛びついた格好です。ただ、松平は『年忘れにっぽんの歌』にも出演しますからね、これが目玉というには、ちょっと寂しい感じもします。

流行語大賞にもノミネートされた『うっせぇわ』が社会現象化したAdoや『ドライフラワー』が上半期の各チャートで1位を獲得した優里、さらには話題の藤井風など、当初目玉とされてきたアーティストからは交渉過程で話が合わなかったり、断られたりしましたからね。

今後、サプライズの発表はあると思います。おそらく韓国アーティストのBTSと交渉していると思いますが、紅白の出場歌手で盛り上げるわけでなく特別出演で盛り上げることになります。『紅白歌合戦』というコンセプトからは完全にズレてしまっているのかもしれません」(スポーツ紙の放送担当記者)

視聴率40%台を死守したいお家事情

もっともNHKは、そんなことを言っていられない。とにかく前年に引き続いて視聴率40%台を死守することで頭がいっぱいなのだ。

共同通信社

「放送現場には『紅白』の若返りとか、マンネリからの脱却などという声があるのですが、一方で、いまだに制作現場には『紅白』イコール『国民的音楽番組』と言う勝手な思い込みがある。確かに、70%以上の視聴率だった時代もありますが、そんなのは芸能プロダクションに忖度したメディアが、扱う理由として騒いでいるだけで、もはや単なる年末のNHK音楽番組に過ぎません。40%の視聴率というのは異常な高視聴率であることは確かですが、今年の『紅白』は35%を割り込む可能性もあります。もちろん、受信料をアピールする『皆様のNHK』にとって『紅白』は重要なコンテンツであることも事実です。受信料の中から、この時代に3億円以上もの巨額な制作費を投じるわけですから」(NHKウォッチャー)

今年は東京・渋谷のNHKホールが改修中のため、有楽町の東京国際フォーラムホールAからの放送となる。入場は制限されるというが「有観客」を予定しているとも。そこで富澤氏が言う。

「この際、出場者の選考も含め『紅白歌合戦』と言うタイトルも変更すべきでしょうね。そもそもジェンダーフリーを意識して今回から司会を『紅組司会』『白組司会』とは呼ばないわけですから。だいたい『歌合戦』にもなっていない。だったら、来年からは『NHK歌謡祭』なんてタイトルを変更してもいいでしょうね。『ザ・NHK歌謡祭』なんかいいじゃないですか?」。

昭和、平成、令和と続き、72回という世界の放送史でも例を見ない歴史的な音楽番組となった「紅白歌合戦」だが、どこからともなく「終焉」と言う不穏な空気が漂い始めてきた――。

渡邉裕二
芸能ジャーナリスト

芸能ジャーナリスト。静岡県御殿場市出身。松山千春の自伝的小説「足寄より」をCDドラマ化し(ユニバーサルミュージック)、その後、映画、舞台化。主な著書に「酒井法子 孤独なうさぎ」(双葉社)など。

記事一覧へ

タイトルとURLをコピーしました