【光Ethernetの歴史と発展】「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみに、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に【ネット新技術】

INTERNET Watch
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/64GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。

「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧

100GBASE-ER2が考慮されていなかったのは、100GBASE-ER4がすでに標準化したからか

 今回は、これまですっかり落としていた「IEEE 802.3cn-2019」について。最終的な規格としては、以下の3つが標準化されている。

  • 50GBASE-ER:50Gbps・1レーン・SMFで到達距離40km
  • 200GBASE-ER:200Gbps・4レーンWDM・SMFで到達距離40km
  • 400GBASE-ER:400Gbps・8レーンWDM・SMFで到達距離40km

 ただ、Task Forceの初期のドキュメントを読むと、当初はこれに加えて以下の2つも検討の俎上に上がっていた。

  • 100GBASE-AR:100Gbps・1レーンDWDM・SMFで到達距離80km
  • 400GBASE-AR:400Gbps・1レーンDWDM・SMFで到達距離80km

 ちなみに、「AR」というのは初出であるが、これは当時の命名規則に80kmに達するものがないため、新たに”Amplified”の頭文字を取ってARとしよう、という提案である。

命名規則一覧。いっそU(Ultra)などとする案もあった気もする。出典はIEEE P802.3cn Task Forceの”PMD naming

 当時のIEEEには、DWDMシステムを利用する規格が存在しなかった一方で、独自規格の中には既にZを使うものが存在した。加えて「I」「O」は数字の「1」や「0」と紛らわしいので、Aを選んだという話であった。

 DWDMについての話は後にして、ちょっと面白いのは「100GBASE-ER2」がないことだろうか。Study Groupまで遡ってObjectiveを見ても、PMDに関して挙げられているのは以下の5つで、当初から100GBASE-ER2は考慮されていなかったようだ。

  • 50Gで40km SMF
  • 100Gで80km DWDM
  • 200Gで40km SMF
  • 400Gで40km SMF
  • 400Gで80km DWDM

 おそらくは、すでにIEEE 802.3ba-2010で100GBASE-ER4がとっくに標準化されており、これを今さら「100GBASE-ER2」にしたところでメリットが薄い(どちらもWDMだからファイバーの数は1対だし、性能そのものは変わらないからアップグレードの意味がない)ため、200/400Gのみを策定した格好かと思われる。

「IEEE 802.3cn-2019」での規格は若干のパラメーター変更

 さて、それではIEEE 802.3cn-2019で定められた3つの規格であるが、「50GBASE-ER」は「50GBASE-FR/LR」から若干のパラメーター変更を行っただけだ。「200GBASE-ER」と「400GBASE-ER」も同様で、「200GBASE-FR/LR」や「400GBASE-FR/LR」からパラメーターを若干変更しただけというかたちでまとまった。

 50GBASE-ERは、到達距離が30km以上で、利用する光ファイバーの減衰量がIEC 60793-2-50のType B1.1/Type B1.3/Type 6で定められた値より少ない場合は40kmまで可能、としている。

「50GBASE-FR/LR/ER」のtransmit characteristics。利用する波長や変調方式などには一切が変更ない。出典はIEEE 802.3cn-2019

 上図のtransmit Characteristicsでは、やはり到達距離が2kmの50GBASE-FRや10kmの50GBASE-LRに比べ、Average launch powerを始め、全ての数値が大きめになっている。Average launch powerの最大が6.6dBmということは4.6mWほどで、これは50GBASE-LR(2.6mW)の倍まではいかないが、結構出力を上げている感じだ。

 ただ、距離が最大4倍なのに出力が倍では追い付かないのが当然で、receive characteristicsを見ると、Average receive powerは4.2dBm(2.6mW)から-3.4dBm(0.46mW)となっており、受信電力がほぼ1/6になると考えられている。当然これは受光素子の感度を猛烈に引き上げてやる必要があるわけだ。ただ、これによってBERが悪化したりはしないという見込みのようで、特にFECの方式が変わったりはしていない。

50GBASE-FR/LR/ERのreceive characteristics。Stressed received sensitivityも-13.3dBm(47μW)まで下げられているのが分かる

 この50GBASE-ERを4対(200G)ないし8対(400G)まとめてWDM化したのが200GBASE-ER/400GBASE-ERであり、当然仕様も200GBASE-FR/LR、あるいは400GBASE-FR/LRに準ずることになる。

 利用する波長は下図の通りで、既存の200GBASE-FR/LRおよび400GBASE-FR/LRと全くいっしょだ。到達距離も50GBASE-ER同様に通常のSMFなら最大30km、低減衰のSMFを使うと最大40kmとなっている。

利用する波長は完全に同じ。分散などの問題は大丈夫なのだろうか? 出典はIEEE 802.3cn-2019

 当然ながら信号特性も同じものになる。200GBASE-ERや400GBASE-ERのtransmit characteristicsは50GBASE-ERのそれとほぼ同じだし、receive characteristicsも200GBASE-ERや400GBASE-ERのものは50GBASE-ERのそれとかなり近い。さすがに400Gの場合は8レーンの干渉が大きくなる(&波長分散が広がる)関係か、送信出力が多少落とされ、その分受信感度を高める方向に振っているのは、止むを得ないと思う。

200GBASE-ERのtransmit characteristics。Total average launch powerは全レーンを合計したもの

400GBASE-ERのtransmit characteristics。8レーン合計だとさすがにレーンあたり6.6dBmは厳しいようで、Average launch powerは5.6dBm(3.6mW)に減らされている

200GBASE-ERのreceive characteristics。こちらは50GBASE-ERと同じスペック。4レーンを束ねる関係で、Difference in receive power between any two lanesや、OAMouter of each aggressor laneなどの項目が追加されているのが違い

400GBASE-ERのreceive characteristics。送信側がやや出力を落としている関係で、こちらは受信感度を1dBmほど高める方向になっている

 もう1つ挙げるとすれば、receive characteristicsのDamage threshold, each lanesの数値を見ると、FR/LRが5.2~6.3dBm(3.3~4.3mW)と比較的高めなのに対し、ERでは-2.4~-3.4dBm(0.46~0.58mW)と一桁小さいことだろう。

 それだけ頑張って受信感度を引き上げたから、Damage thresholdが下がっているということだと思うが、その分ちょっと取り扱い注意という感じになっているだろうが、全体としては比較的順当に仕様が定まったと思う。

PAM4ベースの標準化は好意的な一方、DWDMについては議論が行われていない模様

 さて問題はDWDMの方である。Task Force 2回目のミーティング(2017年11月)には、DWDMに関して”Considerations on X00M Gb/s 40-80km interfaces with appropriate support for DWDM systems“なども示された。その後に行われたStraw Pollの結果が以下となる。

【Straw Poll #2】50Gb/s PAM4を利用した到達距離40kmの規格は技術的に見て妥当か?

50Gb/s

  • 賛成:56票
  • 反対:0票
  • もっと情報が必要:6票

200Gb/s

  • 賛成:41票
  • 反対:1票
  • もっと情報が必要:17票

400Gb/s

  • 賛成:24票
  • 反対:3票
  • もっと情報が必要:34票

 この結果を見ると、PAM4ベースの標準化は好意的に受け止められた(400Gはさすがに慎重派が多くなっているが、反対しているわけではない)一方、DWDMについてはまだ議論が行われていない。

 ちなみに、400ZRのスペックなども示されて、DWDM以外にCoherentの方式もあり得る、という技術的可能性は示されたものの、以下のように、Task Forceでの雰囲気は否定的であった。

【Straw Poll #5】200 Gb/sの40kmの規格について、4×50Gb/s PAM4とcoherentの両方にマーケットがあるか?

  • 賛成:0票
  • 反対:23票
  • もっと情報が必要:28票

 明けて2018年1月に開催された3回目のミーティングでは、”Considerations on objectives for Beyond 10km Ethernet Optical PHYs running over a point-to-point DWDM system“や、”Further considerations on objectives for PHYs running over point-to-point DWDM systems“なども示されたが、Straw PollやMotionは行われていない。

 そして、この3回目のミーティングで行われた投票の結果が以下となる。

【Straw Poll #6】Coherent/DWDMに関して、技術的あるいはターゲットアプリケーションに関する情報がさらに必要か?

  • 賛成:35票
  • 反対:5票

 この結果から強いて言うなら、本当に80kmの到達距離の規格が必要かを判断しかねていた感じである。これを受け、2018年に行われた第4回目のミーティングでは、80kmの到達距離はレーンあたりの速度を100Gb/sに増やした上で改めて検討する、というMotionが出て、これが決議されてしまった。この時点で80kmの規格は少なくともIEEE 802.3cn-2019からは落ちる格好となった。

 個人的に言えば、80kmクラスになるともうOIFの400ZRでいいじゃん、という気はするし、それをIEEEに取り込むメリットもあまりないように感じられる。そんなわけで、少なくとも現時点では100GBASE-AR/400GBASE-ARは、幻の規格となったままである。

「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧

【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧

Source

タイトルとURLをコピーしました