尾を引く彭帥問題に中国が苦慮 – 舛添要一

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 中国の女子テニス界の世界的スタープレーヤーの彭帥行方不明事件は、まだ尾を引いている。WTA(女子テニス協会)は、中国における大会をすべて中止した。北京五輪の外交ボイコットを検討する国も出てきており、中国は苦慮している。

 慌てた中国政府は、彼女が元気に仲間と食事したり、テニスのジュニア大会で子どもたちと交流したり、自宅でリラックスしている写真や動画を公表した。さらには、IOCのバッハ会長と彭帥がテレビ電話で談笑する写真まで公開したのである。

 2月に開催される北京の冬季五輪を成功させることは、習近平政権にとっては至上命令であり、政権元部の不倫スキャンダルごときでその重要な課題の遂行に支障があってはならないのである。

 新型コロナウイルスの封じ込めに全力を挙げ、感染者が出た町は一気に都市封鎖し、全住民に検査を徹底するなどしているのは、五輪を成功させるためである。コロナならまだしも、セクハラなような問題で世界から非難されることに中国政府は当惑しているのであろう。このような海外の反応は理解しがたいのである。

 そこで、彼女を徹底した監視下に置き、彼女が元気で、何の問題もないことを世界に発信するという手を使ったのである。国際社会から見れば、習近平政権は、香港の民主化を弾圧し、ウイグル人の人権を侵害するなどしてきており、人権という観点からは許しがたいのである。彭帥問題も、そのような人権侵害の一環として捉えられているのである。

 バッハ会長のテレビ電話にしても、中国によるIOCの「政治利用」だとして極めて不評である。北京五輪を成功させるという目的については、IOCと中国は完全に一致しており、中国政府の要請を受けてバッハ会長がテレビ対談に応じたものと考えられる。中国にとっては、人権問題で国際包囲網を形成されるのは想定外だったと思う。

 台湾の国防部(国防省)は、「台湾海峡で軍事衝突のリスクが高まっている」という報告を立法院(国会)で行っているが、アメリカも同じ認識である。ブリンケン国務長官は、台湾を侵攻することは「重大な間違い」で、「台湾関係法」に基づいて、アメリカが台湾への責任を果たすと明言している。まさに、「台湾海峡波高し」という状況である。

 アメリカの議員のみならず、ヨーロッパからも欧州議会議員団が訪中するなどしているが、それはまた中国の怒りを買っている。「中国は一つ」というのが中国の立場であり、台湾問題はあくまでも内政問題で外国からの介入は不当であると主張する。

 習近平は、1985年6月から2002年9月まで、台湾の対岸の福建省で勤務しており、台湾に対する思い入れはことのほか強い。建国100年の2049年までに中国を統一し、世界一の大国とするのが彼の夢である。外交的手段でそれを成し遂げることを追求するが、軍事的手段で統一する選択肢も捨ててはいない。

 中国と緊密な経済関係を維持する日本、これからの対中関係の舵取りはますます難しいものとなろう。

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