オミクロン株 米中対立に影響も – 木村正人

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中国はアフリカにワクチン10億回分追加提供

[ロンドン発]南アフリカなどで見つかった新型コロナウイルスの新たな変異株オミクロンに世界中が警戒を強める中、中国の習近平国家主席は11月29日、北京で開かれた中国・アフリカ協力フォーラム閣僚会議でオンラインによる基調講演を行い、アフリカにワクチン10億回分を追加提供することを約束した。

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米デューク大学の調べでは、途上国へのワクチンの寄付を約束しているのはアメリカが最も多く、11億3千万回分(送り済みは21%で2億3452万回分)。次は欧州連合(EU)で1億2441万回分(同0%)。フランス単独で1億2023万回分(同13%、1557万回分)。中国は1億1394万回分(同57%、6500万回分)だ。

一方、北京のグローバルヘルス調査会社ブリッジ・コンサルティングの集計によると、中国はアフリカに対して1億3600万回分の販売と1900万回分の寄付を約束しており、1億700万回分を送り済みだ。ロイター通信は、中国はアフリカにすでに2億回分近くのワクチンを提供していると報じている。しかし、真の数字は「藪の中」で全く分からない。

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世界保健機関(WHO)によると、アフリカでワクチンを2回接種したのは7700万人で人口のわずか6%(10月末時点)。予防接種の遅れが感染を広げ、変異株の温床になりかねない。今回、人口の6割に接種するというアフリカ連合(AU)の目標を支援するため、習主席は6億回分の寄付と4億回分を中国企業とアフリカ諸国の共同生産で提供する方針を表明した。

会議に先立って策定された「中国・アフリカ協力のための2035年ビジョン」で最初の3年間に健康、貧困、農業、貿易・投資促進、デジタル、グリーン開発、能力開発など9つのプロジェクトに取り組む方針を打ち出した。中国企業に100億ドル以上の投資を奨励し、健康プロジェクトのために中国は1500人の専門家を派遣するという。

渡航制限を実施した日本を非難した南ア大統領

南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は会議で習主席に感謝するとともに「われわれの最優先課題はパンデミックを終わらせることだ。アフリカ諸国を含む途上国はワクチンを自ら製造してアクセスできるようになるべきだ。科学に基づかない渡航制限は途上国をさらに不利にするだけで、断固として反対する」と述べた。

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ラマポーザ大統領はこれに先立ち、南アなどアフリカ南部の国々に渡航制限を実施した日本やイギリス、アメリカ、EU加盟国、カナダ、トルコ、スリランカ、オマーン、アラブ首長国連邦(UAE)、オーストラリア、タイ、セーシェル、ブラジル、グアテマラなどの国名を挙げ、「優れた科学は賞賛されるべきで、罰せられるべきではない」と公然と非難した。

オミクロン株を見つけたアンジェリーク・コエツイ南ア医師会会長は英大衆紙デーリー・メールに寄稿し、「特にイギリスの反応には驚かされた。私が見たこの変異株は英政府がとった極端な行動を正当化するものではない。南アでは今のところオミクロン株に感染して入院した人も重症化した人もいない。南アでは新しい規制や封鎖の話はない」と抗議した。

「オミクロン株の陽性反応が出た患者にはワクチンを接種した人も未接種の人も含まれる。高齢者の感染例はまだ報告されていないが、いくつかの証拠が示すように感染しても大半の人が軽症で済む、急速に広がる変異株だと判明すれば集団免疫を獲得するための有用な一歩になり得る。それが本当かどうかは次の2週間で分かるだろう」と付け加えた。

南アをとりなすため29日に緊急開催された先進7カ国(G7)保健相会合はオミクロン株を検出して迅速に他国に警告を発した模範的な行動を賞賛した。しかしワクチンの追加提供など中国のような具体的な発表はなく、世界保健機関(WHO)の枠組みの中で国際的な病原体監視ネットワークを構築することが支持され、ワクチンへのアクセスを確保することが確認されるにとどまった。

11月15~20日、アントニー・ブリンケン米国務長官はアフリカ諸国と協力してコロナや気候変動対策、民主主義を促進するためケニア、ナイジェリア、セネガルを歴訪した。習主席の経済圏構想「一帯一路」に対抗して途上国への40兆ドル相当のインフラ投資を目的とした「より良い世界再建(B3W)」構想を通じていくつかのプロジェクトに投資するという。

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ジョー・バイデン米大統領は12月9、10日にオンライン形式で初開催する「民主主義サミット」に台湾を招待するなど、民主主義国家と中国やロシアなど権威主義国家の対立軸を鮮明にしようとしている。米国務省によると、G7や日米豪印4カ国「クアッド」参加国、アフリカ諸国を含め民主主義の価値観を共有する約110カ国・地域を招待した。

アフリカに眠る「血のダイヤモンド」をめぐり米中の対立は必至

電気自動車やパソコン、携帯電話などのバッテリーに使われるコバルトの70%以上がアフリカのコンゴ民主共和国(DRC)で生産される。価格が高騰して利権を巡り陰謀や腐敗が横行し、コバルトは「バッテリーの『血のダイヤモンド』」と呼ばれる。その一方でコロナワクチンの接種率は2回接種済みが人口の0.06%、1回接種を含めても0.15%に過ぎないのだ。

英北部グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ摂氏1.5度に抑える努力を追求することで197カ国・地域が合意した。米中独などの自動車メーカー6社が40年までにすべての新車販売をゼロエミッション車にする協定に署名した。30年には新車販売の半分近くがEVになると予測される。

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コバルトはまさに「ダイヤモンド」のように輝き始めた。「中国・アフリカ経済貿易関係年次報告書」によると、中国は昨年、アフリカに前年比9.5%増の29億6千万ドルを投資した。アフリカへの直接投資は今年最初の7カ月間で20億7千万ドルに達し、パンデミック前の19年同期を上回っている。

米紙ニューヨーク・タイムズによると昨年の時点で、DRCのコバルト産出鉱山19カ所のうち15カ所が中国企業の所有または出資を受けていた。その一方で、DRCに十分な利益をもたらしていないという懸念から中国の投資家との60億ドルのインフラ契約を見直しているとロイター通信が今年8月にスクープしている。

この20年間で中国とアフリカは政治的・経済的な結びつきを劇的に拡大してきた。アフリカの調査ネットワーク、アフロバロメーターが19~21年に34カ国4万8084人に質問した結果、「自国にとって発展のための最良モデル」として33%がアメリカを、22%が中国を挙げた。

中国の経済活動が自国の経済にどの程度の影響を与えているかを尋ねたところ、61%が「ある程度」または「かなり」と答えたが、14~15年の調査より12ポイント減少していた。習主席の「一帯一路」は減速傾向にあったが、コロナ危機で欧米の動きが止まったスキに乗じて再び増加に転じている。

50年実質排出ゼロを目指す欧米にとってデジタル化と電動化に欠かせない資源の多くがアフリカ大陸に眠っている。かつてシエラレオネなど内戦地域で産出されるダイヤモンドなど宝石類は紛争当事者の資金源となり「血のダイヤモンド」と呼ばれた。新たな「血のダイヤモンド」になったコバルトなどの資源を巡って米中対立が激しさを増すのは必至の情勢だ。

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