「4本足のヘビ」として知られていた化石が実はヘビではなく別の動物である可能性が浮上

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by Dave Martill, University of Portsmouth

2015年、ブラジル北東部の1億1000万年前の地層から発掘された化石が、世界初の「4本足のヘビ」の化石だったとの研究結果が発表されて大きな話題を呼びました。ところが、Tetrapodophis(テトラポドフィス)と名付けられたこの化石を分析した別の研究チームは、この化石が4本足のヘビではなく、トカゲの近縁種であるドリコサウルスの一種であると主張しています。

Full article: Tetrapodophis amplectus is not a snake: re-assessment of the osteology, phylogeny and functional morphology of an Early Cretaceous dolichosaurid lizard
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14772019.2021.1983044

4-legged ‘snake’ fossil is actually a different ancient animal, new study claims | Live Science
https://www.livescience.com/four-legged-snake-controversy

イギリス・ポーツマス大学などの研究チームは、「4本足のヘビ」の化石を発見したとの論文を2015年に発表しました。この化石はブラジル北東部にある1億1000万年前の地層から数十年前に発掘されたもので、論文の共著者でポーツマス大学の古生物学教授を務めるデヴィッド・マーティル教授が、学生を引率して訪れたドイツの博物館で見つけたとのこと。化石は全長約20cmの体に長さ1cmほどの足が4本生えていましたが、「これはヘビではないか」と考えたマーティル氏らの研究チームは顕微鏡などで分析を行い、各部の特徴などから「これは4本足のヘビである」との結論を下しました。

世界初、4本の足を持つヘビの化石を発見 | Nature ダイジェスト | Nature Portfolio
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v12/n10/%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%88%9D%E3%80%814%E6%9C%AC%E3%81%AE%E8%B6%B3%E3%82%92%E6%8C%81%E3%81%A4%E3%83%98%E3%83%93%E3%81%AE%E5%8C%96%E7%9F%B3%E3%82%92%E7%99%BA%E8%A6%8B/67992


テトラポドフィスと名付けられたこの動物は、古代のトカゲが足を失って現代のヘビに進化する過程に存在すると考えられています。4本の短い足は移動するために使われたのではなく、獲物や交尾相手をつかむために使われたとマーティル氏らの研究チームは推定しています。これまでにも「後ろ足を持つヘビ」の化石は発見されていたものの、4本足のヘビはテトラポドフィスしか発見されていません。

ところが、カナダのアルバータ大学で生物科学科教授を務めるマイケル・コールドウェル氏らの研究チームは新たな論文で、「この化石は4本足のヘビではない」と主張しています。コールドウェル氏らの研究チームは、ドイツの博物館に展示されている標本について、「2015年の研究が無視したもの」についても顕微鏡で分析したとのこと。

テトラポドフィスとされる化石は、以下のように1つの化石が「頭蓋骨の大部分および前足、肋骨の一部を含むもの(A)」と「頭蓋骨および右の前足を除くほぼ大部分を含むもの(B)」の2つに分割されています。コールドウェル氏は、「元の著者によって完全に無視されたものの1つは、頭蓋骨の反対側です」と述べており、2015年の研究は「A」に存在する押しつぶされて粉々になった頭蓋骨に注目した一方、「B」に存在する「頭蓋骨の型」には注目しなかったと指摘しています。


頭蓋骨だけでなく反対側の型にも着目したコールドウェル氏らの分析では、顎や歯の形状といった特徴はヘビよりもトカゲに近いものだと判明したとのことです。


また、コールドウェル氏らはテトラポドフィスの体についても、ヘビよりトカゲに近い特徴を持っていると主張しています。たとえば、テトラポドフィスの化石にはヘビがはい回って移動するのを助ける椎骨の安定化システムが欠如しており、陸生動物ではなく水生動物であることを示す真っすぐな肋骨が存在するとのこと。

以上の点から、コールドウェル氏らはテトラポドフィスが「4本足のヘビ」ではなく、約1億4500万年前~6600万年前に生息していたトカゲの近縁種「ドリコサウルス」の一種である可能性が高いと主張しました。今回の論文の共著者であり、ハーバード大学比較動物学博物館の博士研究員を務めるティアゴ・シモンイス氏は、ドリコサウルスはヘビと密接に関係した種であり、2015年の研究チームがテトラポドフィスをヘビだと思ったのは不思議ではないと指摘しています。

一方、依然としてテトラポドフィスは「4本足のヘビ」であると主張する研究者もいます。アメリカ・メソジスト大学動物学博物館で准研究員を務めるブルーノ・オーガスタ氏は科学系メディアのLiveScienceに対し、テトラポドフィスは他のトカゲやヘビには見られないユニークな特徴の組み合わせを持った素晴らしい化石だと主張。「化石の反対側に残った型」に着目した今回の研究については、実際に化石が残っているわけではないため、信頼できる情報源にはならないとの見方を示しています。2015年の論文の共著者であるマーティル氏も、テトラポドフィスが最も原始的なヘビであるとの主張を支持しているとLiveScienceに語りました。

なお、今回の論文ではテトラポドフィスの化石が違法にブラジル国外へ持ち出された可能性が高く、ブラジル連邦警察がこの件について調査を始めたことも記されています。サンパウロ大学の研究者でもあるオーガスタ氏は化石がブラジルに返還されることを支持し、「化石がブラジルの公的な研究所に戻されることが重要であると述べる点について、私は著者に同意します」と述べています。

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