五輪外交 欧米に同調できぬ日本 – WEDGE Infinity

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米国のバイデン大統領が来年2月に迫った北京冬季五輪の〝外交的ボイコット〟を検討している。日本政府は、同調を求められる可能性が強いとあって困惑、戸惑いを隠せない。

米国の顔を立てれば日中関係は再び悪化する。それを嫌って対中関係を優先させれば日米関係の軋轢は免れない。欧米と中国との板挟みにあった天安門事件直後の〝悪夢〟を彷彿とさせる。

中国政府高官から性的関係を求められたと告発した女子テニス選手が消息不明と伝えられる問題も米政府の態度を硬化させている。日本政府としては、アメリカが穏便な手段をとることをひたすら祈りたい心境だろう。

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米国、以前からボイコット検討

バイデン大統領の発言は11月18日。カナダのトルドー首相との写真撮影の席で、記者団から「北京五輪の外交ボイコットを支持するか」と聞かれ、「それは、われわれが考慮していることだ」と、明確に認めた。

大統領の発言は、わずかにその一言にとどまったが、バイデン氏自身がこの問題に触れるのははじめて。しかも、習近平国家主席とのオンライン会談の翌日というタイミングもあって、〝あてつけ〟の印象を与えた。

北京五輪の外交ボイコットについては、米国内では早い時期からとりざたされてきた。

春先に国務省のプライス報道官は「北京の目に余る人権侵害、新疆でのジェノサイド(集団殺害)について、インパクトのある行動をとるよう同盟国と協議している。北京五輪も協議を続けるべき問題だ」(2021年4月6日の定例記者会見)と述べ、検討が始まっていることを明らかにした。

この時はホワイトハウスのサキ報道官が、「(北京五輪への)われわれの方針は不変だ。同盟国と話し合ったこともない」と翌日、軌道修正したが、政府内で検討されているのは既定事実と受け取られている。

米、英、カナダと欧州連合(EU)は21年3月に、新疆ウィグル自治区当局者の資産を凍結するなどの制裁を発動した。EUが制裁に加わったことによって主要7カ国首脳会議(G7)参加国では日本だけが同調を避けた格好になっている。

テニス選手失踪事件も影響

ウィグルの人権状況に改善が全くみられないなかで、表ざたになったのが、元副首相から性的関係を強要されたと告発した女子テニス選手、彭帥さんが消息不明になった事件だ。

この問題については、日本のメディアでも詳細に報じられているので重複は避けるが、中国側は彭選手が国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長とテレビ会談する映像を公開、「政治問題化しないよう求める」 (外務省の趙立堅報道官)と沈静化に躍起だ。

しかし、ホワイトハウスのサキ報道官は今月19日、「深刻な懸念」を表明し、その所在について「独立した検証可能な証拠を示してほしい」(11月19日の記者会見)と要求した。英国など欧州各国も同調、日本の林芳正外相も懸念を表明している。

日本、対中制裁では過去も慎重

バイデン大統領による「外交ボイコット」発言を受けての岸田文雄首相は歯切れが悪く、明確さを欠いた。

首相はバイデン発言の翌日、「それぞれの国で立場や考えがある。日本は日本の立場で考える」、「国益をしっかり考えながら判断していく」と述べるにとどめた。松野博一官房長官も「日本の考えはまだ決まっていない」と述べたが、いずれも苦しい胸の内が伝わってくるようだ。

こと中国への強硬手段となると、日本は欧米各国と簡単に歩調を合わせることのできない事情を抱える。過去にも苦しい思いをした経験がある。

1989年6月4日の天安門事件がそれだ。

米国、欧州は、各国歩調による強い共同制裁を主張したが、日本はこれに同調するのを避けた。

事件直後にフランスで開かれたアルシュ・サミット(主要国首脳会議)で、宇野宗佑首相(当時)はこうした議論を展開した。

「日中関係には欧米諸国とは同一視できない特殊な面、戦争を含む過去の歴史的関係などがある」(2020年に公開された1989年6月20日の外交文書)という理由からだ。

当時、日中間には長年の懸案だった天皇陛下(現上皇)のご訪中という問題があった。失敗は絶対に許されない日本側としては、対中関係の悪化は何としても避けたいところだった。

中国への新規円借款などは延期したものの、継続案件には手を付けず、新規の第3次円借款8100億円についても90年7月に供与を開始した。天皇訪中は国交正常化20周年に当たる1992年10月に大歓迎の中で行われた。

EUが中国への武器禁輸の制裁をいまなお継続しているのとは大きな違いだ。

日中関係の構図は当時と変わらず

こうした過去の経緯を振り返ってみると、北京五輪への外交ボイコットをめぐって日本は、当時と同様の状況に置かれているようにも見える。

欧米各国とは異なった事情をかかえるという構図は、地政学的にみて天安門当時と変化はない。政治的には来年日中国交正常化50周年を迎える。大きな節目の年にもかかわらず、延期された習近平国家主席の来日日程も決まっておらず双方での祝賀ムードは著しく盛り上がりを欠いている。

そうしたなかで、日本政府が中国に強硬な方針を取ることに慎重になるのは当然だろう。

しかし、一方では尖閣諸島付近での中国公船の領海侵犯、遊弋(ゆうよく)は恒常化、南シナ海の領有権主張と人工島の建設などで東南アジア各国の反発、警戒を招いている。中国の国力、軍事力は天安門事件当時とはけた違いに巨大で、脅威も比較にならないほど大きい。

日本だけが中国に宥和的な方針を取れば、世界の反発は日本に向かい孤立化してしまうだろう。

林外相がさきの電話協議で王毅外相から訪中招請があったことを明らかにたことで自民党内の警戒感が高まっている事情もある。岸田首相が簡単に方針を決めることができないのは十分理解できる。どう決めるにしても苦しい決断になるだろう。

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