裁判官 迷惑YouTuberに名助言 – 阿曽山大噴火

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裁判傍聴芸人の阿曽山大噴火です。今回傍聴したのは9月10日と10月28日に東京地裁で行われた松尾光高被告人(26)の有印私文書偽造・同行使、建造物侵入の裁判。

東京都杉並区で開催された成人式で、入場券を忘れた際に提出する再交付申請書に架空の氏名や生年月日、住所を記入して会場へ侵入したと報じられた事件です。

個人的には未だにYouTubeを定期視聴するクセがないもので、このニュースが報じられるまで被告人の名前は知りませんでしたが「ミッツチャンネル」という名前で動画を配信していた、それなりに名の知れたYouTuberなのですね。YouTuberが何か事件を起こすと大きく報じられることがありますが、これも大々的に報じられたニュースの1つになります。

まずは9月10日の初公判。人定質問で裁判官から名前や生年月日の確認です。

裁判官「職業は何をやっていますか?」
被告人「YouTubeを…」
裁判官「起訴状には、映像配信業と書いてありますけど…」
被告人「あ、はい」
裁判官「間違いないね」

数年前だと仕事を訊かれて「YouTubeの広告収入で生活しています」と答える被告人に対して「それは職業なの?」と首を傾げる裁判官を何人か見てきましたけど、今は起訴状に映像配信業と書いてあるんですね。

起訴されたのは2件です。1つ目は、今年の1月11日16時34分、杉並公会堂で開催された「令和2年度成人祝賀の集い」に被告人がタカハシケイスケという架空の成人になりすまして再交付申請書に虚偽の内容を記載し、偽造。それを職員に提出して行使した件。2つ目は、同日16時35分、杉並公会堂2階大ホールに侵入した件。

被告人は罪状認否で「間違いありません」と罪を認めていました。

検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学卒業後に映像配信業を営み、インターネット上に公開した動画の閲覧数に応じて広告収入を得る生活をしていたそうです。

犯行当日。被告人と友人は、杉並区だけが東京都内で唯一成人式を開催していると知り、撮影して動画を配信すれば閲覧者が増えると考えて成人式が行われていた杉並公会堂へ。

被告人は受付で「入場券を忘れた」と伝えて、再交付申請書にウソの名前と生年月日と住所を記載して成人式会場に入ったとのこと。会場内ではカメラを回し、その模様を編集してインターネット上に投稿して公開。その動画を見た人の通報により犯行が発覚したというのが事件の流れになります。

犯罪行為の動画を誰でも閲覧可能な状態にしていたら、逮捕されやすくなりますよね。自ら証拠をアップしているわけなので。それくらい罪の意識が低かったか、そこまで大それた行動ではないと思っていたのでしょう。

珍しい事件ですが単純な内容だし、被告人も罪を認めているのでこのまま結審までやるのかと思っていたら弁護人の方から証人請求です。どうやら被告人は成人式の受付で身分証を出していなかったそうで、受付を担当していた女性の言い分と違うようです。そのため受付の女性を証人尋問して確認したいらしい。

もちろんこの日は法廷に来ていないので、後日呼んで話を聞きたいという訳です。そんな請求を聞いた裁判官は、

裁判官「私の量刑感覚だと、そこをお聞きになってもならなくても重くなるとは思えないんですけど……検察官のご意見は?」
検察官「弁護人の先生の意図はわからないんですが、短時間でコチラもやらざるを得ない…と」
裁判官「立証責任を負う者としてってことですよね。…それでわざわざ裁判所に来て頂く…ん〜、違和感がない訳でも無いんですけど双方が言うのであれば、次回証人尋問にしますか…」

無罪主張とか否認しているなら呼ぶのは当然だけど、偽造の身分証は起訴状でもないし、判決を下す裁判官も「重くなるとは思えない」とまで言っているし。なんだこれは…。ということで、初公判は10分程で閉廷しました。

被告人以外にも成人式に入ろうとした部外者がいた

写真AC

続いて、10月28日に行われた第2回公判。法廷に入ると、成人式で受付を担当していた女性が検察官の近くの傍聴席に座っていて、証言席に移動して証人尋問スタートです。まずは検察官から。

検察官「お仕事は何をしてますか?」
証人「フリーランスでイベント運営を請け負っています」
検察官「本件犯行日は杉並区の成人式で受付を担当していた訳ですが、入場できるのはどんな人でした?」
証人「杉並区に在住の新成人」
検察官「保護者の入場は?」
証人「コロナ禍ですのでご本人様のみとなっておりました」

本人以外に式典出席は許されない異例の成人式だったようです。

検察官「入場できるかどうかはどうやって確認していました?」
証人「受付で入場券を確認していました」
検察官「入場券を持ってない人は?」
証人「再交付申請書に住所、名前、生年月日を書いてもらっていました」
検察官「本人確認は?」
証人「学生証や保険証、免許証、パスポート、マイナンバーカードです」
検察官「それらを持ってない忘れた人はどうしましたか?」
証人「学校名を訊いて、住所を訊いて、答えられれば入場券に名前を書いてもらって入場して頂くと」

ここまでは当時のルール、マニュアルの確認です。

検察官「この日は人数制限していたこともあって成人式は4回にわけられていましたが、4回目が始まる時に何がありました?」
証人「開始直前にブツブツ言っている人が受付に来て、成人なんだから早く入れてあげないと、と対応してしまって…」

そのブツブツ言っている人はもちろん被告人です。

検察官「その時、本人確認の書類は見ましたか?」
証人「覚えていないです…」

多分、取り調べでは「免許証を確認しました」とか答えているのでしょう。その確認でわざわざ証人尋問を行っている訳ですからね。

検察官「入場した後に被告人は会場内を撮影して、その動画をYouTubeにアップしているんですけど、それについて言いたいことはありますか?」
証人「突撃動画で広告収入を得ている方が他にもいらっしゃると思うんですが、その承認欲求を違うところに向けた方がいいと思いますし、一度ネットに上げたものは保存した人がいれば削除も難しいですし、動画を見て真似る人もいるかも知れないし、安易にやればこうして罰せられるものだとわかって欲しいです」
検察官「あと、今日の出廷についてはどう思っていますか?」
証人「本人確認を怠ったのはあるんですが、私にも今日仕事があって、休まなくてはいけなくなって…。検察官にも『行かなきゃダメなんですか?』と連絡したんですけど…ん〜…わざわざ、ここに来た時間を返して欲しい」

特に声を荒らげる感じではないけど、優しい声のまま怒っているのだろうなと。

続いて弁護人から。

弁護人「身分確認はしっかりしてくれと言われていたんですか?」
証人「マニュアルには書いていました」
弁護人「担当の人には言われていないんですか?」
証人「言われてはいないです…受付の基本なので」
弁護人「松尾さん以外にも入場券を持っていなくて、そこで帰した人っていたんですか?」
証人「いました。数名だったと思います」

なんと新事実!入れなかった人もいたんですね。一体何者なのやら。そこは裁判官が後で訊くのだけど。

弁護人「彼の入場は16:30。受付に人は少なかったですか?」
証人「はい」
弁護人「時間も無いし早く入れてあげなきゃと?」
証人「はい。まさかそんな変な人が来るとは思ってなかったので」
弁護人「彼は世田谷在住の26才です。知っていれば入れてなかった?」
証人「はい」

これは遠回しに、証人がちゃんと仕事してれば被告人は侵入できなかったのにねーと言いたいのでしょうか。仮にそうだとしても初公判で裁判官が言った通り、判決が軽くなるとかではないでしょう。

次は裁判官から。

裁判官「断った人が数人いたと。それは記載がおかしかったんですか?」
証人「お酒を持っていた記憶です」
裁判官「入場資格があったけど断ったんですか?」
証人「いや、区が違うとかだったような。中野区のヤンチャな方がいらしてたりとか」

てっきり他のYouTuberとか雑誌記者が潜入しようとしていて、それを止めたのかと早合点。隣の区なので成人式に入れるだろうと思った人だったのかも知れませんね。しかもお酒の持ち込みとは。それは入場を断られて当然です。

裁判官「受付としては基本的に人を入れてあげようという前提で動いていて、何人かはじいたと?」
証人「そうです」
裁判官「結果として被告人を見逃してしまった訳ですが、原因はどこにあると思いますか?」
証人「4回目で終わりかけということもありましたし、まさかそんな人がやって来ると思っていなかったし、落ち着いた時間で気を抜いていました」

これで証人尋問終了。証人に仕事を休んでもらって行うほどの内容だったのかは、初公判での裁判官の言葉を借りるなら違和感しかないですね。

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