背任事件に絡み、田中英寿・日大理事長の自宅に家宅捜索に入る東京地検の係官ら(10月7日/時事通信フォト)
日本大学の元理事らが大学に計約4億2000万円の損害を与えた背任容疑で逮捕された問題。捜査は今も続けられ、その過程で田中英寿・日大理事長に不正な現金が渡った疑惑まで浮上しているが、組織を揺るがすスキャンダルの発覚で懸念されるのが、来年度入試への影響だ。
学生数7万人を超える“マンモス私大”として知られる日大は、16学部87学科を持つ全国有数の大規模総合大学で、入試の志願者数もケタ違い。毎年10万人を優に超える受験生を集めてきた。
アメフト騒動よりも根深い「闇」
だが、そんな日大人気に陰りが見えたこともある。記憶に新しいのが、2018年に起きたアメフト部による「悪質タックル問題」だ。
大学ジャーナリストの石渡嶺司氏がいう。
「体育会系クラブの度を超えたタテ社会やパワハラ体質が明るみになったことで、日大のイメージはガタ落ちしました。メディアが長期間にわたって過熱報道を繰り返したことも影響して、翌年(2019年)の入試では志願者数が約1万5000人減り、同じ首都圏中堅クラスの『日東駒専(日大、東洋、駒沢、専修)』の中で独り負けとなりました」
それからわずか3年で発覚した今回のスキャンダル。受験生や保護者にしてみたら、身近な学生が関与したアメフト騒動に比べれば、個別の理事が手を染めた背任事件に過ぎないのかもしれないが、実はもっと根が深い。石渡氏が続ける。
「事件のカラクリのひとつとして、学生の教育用品や保険などを扱っている事業会社の『日本大学事業部』が関わっていることは相当にイメージが悪い。しかも、その会社を経由させることで、教材などの値段がつり上がっていたのでは? との疑惑まで飛び出し、そうなると『悪い理事がいたんだね』という話では済まなくなります」
補助金カットで起きる“日大離れ”
これまで事業会社(大学出資会社)によるビジネスモデルを容認してきた文部科学省も、まさか裏金づくりの隠れ蓑に悪用されるとは思いもしなかっただろう。
そのペナルティーとして、文科省は全国の私大で2番目に多い90億円(昨年度)を交付していた日大への補助金を一旦保留すると発表した。背任事件の行方にもよるが、「来年度の補助金の大幅カットは免れない。場合によっては不交付の可能性もある」(大学関係者)という。
しかも、その決定が下される見込みなのが、来年の1月。受験生が一般入試の志望校を最終的に決める最悪のタイミングだ。
「補助金の減額や不交付になれば、大学のメンツが潰れるだけでなく、受験生や保護者から『日大に入って大丈夫?』という“信用不安”を招く恐れもある。
補助金がカットされたからといってすぐに日大の経営がおかしくなることはありませんが、少なくとも来年の入試はアメフト騒動のときと同程度かそれ以上の“日大離れ”が起きるかもしれません」(石渡氏)
志願者数が回復したワケ
日大はアメフト騒動で減らした志願者数を2020年にすぐ取り戻しているが、その要因は決して日大人気が回復したからではない。
「センター試験に代わって導入された『大学入学共通テスト(2021年導入)』への不安から、受験生全体に難関大学や学部を避ける傾向が強まっていたため、現役合格の“安全パイ”を狙って日大を受験する人が増えた」(大手予備校関係者)
今後の入試動向を見ても日大の志願者増に直結しそうな要素は少なそうだ。
「コロナ禍によって、ただでさえ地方から首都圏の私大を受ける受験生が減っているうえ、東洋大学のように時代に合った情報系・国際系学部などを新設する大学が増える一方で、日大が近年新設したのはスポーツ科学部や危機管理学部など特殊な学部ばかり。志願者数が一気に膨らむことは考えにくい」(石渡氏)
パワハライメージ定着の末路
何はともあれ、日大は教育機関として一刻も早く信頼回復に努める必要があるが、どうやらその道のりは遠そうだ。
「大学側は背任事件の原因究明と再発防止をHPで表明しているだけで、田中理事長は辞任せず、学長の記者会見などもいまだに開かれていません。
理事長を取り巻く組織体制は、長らく昭和的なパワーゲームがまかり通っていたようですし、アメフト騒動に続いてこのまま『日大=パワハラ』のイメージが定着してしまえば、大学ブランドにさらなる傷がつき、それに比例して志願者数が減っていき、じわじわと経営が厳しくなる……という悪循環に陥りかねません」(石渡氏)
日大には110万人を超えるOB・OGも広く社会で活躍しているが、「最近は出身大学を聞かれて『あの日大です』と答えなければならないほど肩身が狭い」(広告会社勤務のOB)という声は多い。
果たして日大はブランド失墜の泥沼から這い上がることができるか──。
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