書き出し小説大賞第225回秀作発表

デイリーポータルZ

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

基本キャッシュレスの世の中ですが、たまに現金を使わざるを得ないときもあって、そうすると逆に財布の中が小銭でパンパンになったりしませんか? そんな小銭で膨らんだ財布を見せながらひと言──ほら、見て、僕の中のモンスターがこんなに大きくなったよ!
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご招待しましょう!

書き出し自由部門

屋上はさみしい。夜空をエイの群れが泳ぐ。 

タカタカコッタ

屋上にいるのに水の底にいるみたい。本の表紙になりそうなビジュアル。

紅葉の裏側に冬支度を見た。

いずも

眩しい紅葉に紛れて、あの人の骨を燃やした。

鯨谷いさな

タバコを買いに出て意外な寒さに、ホットコーヒーを買い足す夜。

高田

紅葉には美しさと寂しさと、激しさがある。

君の不在を教えられるようで、雑に洗濯物を積む。

正夢の3人目

除虫菊の丘に、初夏の風が吹き抜ける。

タカトウリョウ

2人から3人になる日、空は高く、深く広がった。

みよおぶ

店長代理に告られてから、前髪を気にするのをやめた。

九部通り

女性はこういう経験を積んで成熟していくんだな。勉強になりました。

挽きたてのコーヒー豆と、少しばかりの借金を乗せて、キッチンカーは旅に出た。

さくさく

青信号で踏み出したその一歩が、つんのめってダンスのステップみたいになった。雨の日の青信号ダンス。

葱山紫蘇子

私の平泳ぎは進まない。前にも後ろにも進まない。

劇団斎藤

いくら欲しいかと言われれば、いくらでも、である。

ウウタルレロ

なるほど。「いくら」と訊かれた時点で相手の策に嵌っていたのか。

世界は明日、塩ラーメンと戦う。

七寒六温

みかんを剥きながら小学生が飛び出してきた。

井沢

検尿コップを持ったまま3階まで来た。

人馬一体勘

ダンジョン?

ビジネスホテルが炎上しようと、報道ヘリが墜落しようと、犬が交尾を止めない。

昼行灯

救急車の音で目で目が覚めた。救急車の中に居た。居てどうすんねん。

高田

我に返る一瞬の心理を描写。
 

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続いては規定部門。今回のテーマは『椅子』でした。たくさん並べましたので、座り心地を比べて下さい。

書き出し規定部門・モチーフ『椅子』

バス停にある、誰かの好意で置かれたイスに座っている婆さん。

八王寺義昭

誰の頭にも浮かぶ平和な光景。冬の光が合う。

蛍光灯を取り替えるためだけの椅子を取りに行く。 

いずも

君が座ると、合皮のそれは不気味な鳴き声を上げた。

桃とペンギン

テレキャスターを振り下ろす。観客が沸く。車椅子席の姪っ子に、俺は親指を立てて微笑んだ。

タカトウリョ

父の形のソファを捨てた。

みよおぶ

四つん這いの男が叫んだ。私の下で。

ももんがもん

板張りの間に置け。畳が痛む。上様はそうおっしゃった。

柳下産業

浦島太郎は、浜辺で椅子がいじめられているのを見つけました。

もろみじょうゆ

定番のパロディだけど、椅子にすると海外の不条理文学みたいになる。

「昨日助けて頂いた椅子です」全裸の男が正座したまま話しかけてきた。 

prefab

おばあちゃんは金を取り出すふりをして、腰掛けてた手押し車からトカレフを取り出し、受け子を正面から迷いなく撃った。

葱山紫蘇子

頼むからさ、図工室の椅子みたいな顔するのやめてよ。

花惑

私のイスだけ切り株だ。

モンゴノグノム

椅子からずり落ちたまま、男は返答をした。

ワイヤレス芥子

滑走路に並んだ椅子が次々と空へ飛んでいった。

Airda

椅子とりゲームの椅子になりたい。あれくらい、真剣に奪い合われたい。 

小野芋子

いざ椅子になったら怖いだろうな。一斉に尻が飛んでくるんだもの。

縁側の座椅子に深々と座り、いつも先生の見ていた景色を知る。

正夢の3人目

舞台袖から、審査員席に迷い込んでいる母が見えた。

午前0時

空気椅子探偵は今、推理どころじゃなかった。

八重樫

腰掛けたまま、辞表を提出した。

morin

取りに来させた(笑)

舞台の上に一脚の椅子を残し、会場は暗転した。

タカタカコッタ

遠い国からやってきたイスは、和室に鎮座する足のないその椅子に面食らった。

みらこ

座椅子はむしろ座布団が進化したものだと思う。

けたたましく揺れるロッキングチェア。踊る暖炉の炎。弾けた銀杏。

寂寥

宇宙戦艦の椅子は誰かの噛み跡だらけだった。

g-udon

椅子の下に何か落ちている。秋刀魚だ。

劇団斎藤

理由を知りたい気もするし、ここで終わって欲しい気もする。意表をつく良作!

何度頼んでも椅子ではなく上海蟹が出てきた。

ミミズグチュグチュ

椅子の回転速度が早すぎて、課長が線にしか見えない。

もんぜん

コイツは椅子。島流しを共にする相棒だ。

きたかぜコンロ

射し込んだ夕日に照らされながら、今、椅子が崩れ去った

ウロボロス

誰が座るものだと言った?

ウチボリ

奴隷面接の第一声。

 それでは次回のモチーフを発表します。

次回モチーフ
『大作感』

次回は書き出しだけでいかに大作感を出すか、に挑んで頂きたい。いくつもの時代をまたぐ歴史モノ、全宇宙を舞台にしたSFモノ……そうした「つくり」の大きさじゃなくても、重厚なストーリーを想起させる書き出しは可能だと思います。
「この物語は~」と先に全容に触れたものとか「○○を見るといつも思い出す~」のような定番のテンプレををアレンジしたものでもオッケーです。全何巻にも及ぶ大長編を書き出しだけで表現してください!
締め切りは11月26日正午、発表は28日を予定しています。下記の投稿フォームから応募下さい。力作待ってます!

最終選考通過者

山鳥 大西ダイナマイトヒサト ぽんちき あのヒト KESHI 南極行太郎 轆轤輪転 野焼き メリーベル たくぼん モリダイ 気まぐれ猫 うにねこ 砂鋏  おなかまるたろう 吉田髑髏 高田 ナツヲ 穂波花月 八代黎理

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