10万円支給は子どもの分断を招く – WEDGE Infinity

BLOGOS

ドラえもんの秘密道具の一つに、「未来小切手帳」がある。

今日発売の漫画雑誌『少年ヨンデー』がどうしても読みたいが、手元にお金がないのび太は、明日のお小遣いの前借をママから拒否される。困ったのび太はドラえもんから未来小切手帳を渡される。

この小切手帳に必要な金額を書いて、サインすれば、なんでも買えるとのこと。しかし、ドラえもんからのび太は小切手で買うのは漫画雑誌だけにしておくよう忠告される。はじめは半信半疑だったのび太も、実際に小切手が使えることを知って、高価なプラモデルや友人にお小遣いを渡したりするなどして無駄に小切手を切ってしまう。

次の日、ママから今月分のお小遣いが入ったはずの封筒を受け取ったのび太だったが、封筒の中にはお小遣いが入ってなかった。その後も、おじさんがやってきてお小遣いをくれたはずなのに、そこにはお小遣いはなかった。

ドラえもんが種明かしをするには、小切手で使ったお金は、使った本人が将来手に入れるお金から差し引かれるとのことであり、小切手を使った金額から計算すると、サラリーマンになったのび太が43歳の夏のボーナスまで1円も手に入らないのだった。

ドラえもんに「品物返して、小切手取り返してこい!!」と怒鳴られつつのび太は今日手に入れたものを全部持ちながら、「うまい話ってないもんだなあ」とぼやくのだった。


(Nuthawut Somsuk/gettyimages)

衆院選は国民の良識の勝利

10月31日に投開票された第49回衆議院議員総選挙を財政の面から総括すると、衆院選という政権選択選挙において、消費税の現状維持勢力が政権の座を守り、消費税減税・廃止を主張した勢力が政権の座を奪えず敗北したのだから、消費税を政争の具とすることに反対する国民の良識の勝利だったと言える。

一方、選挙目当てのバラマキと批判された一時的な給付金の支給に関しては、与野党問わず大なり小なり公約に入れていたので、「バラマキにNo!」の意思表示を示す選択肢は存在しなかった。

ただし、自民党案では、非正規雇用者・女性・子育て世帯・学生など、新型コロナウイルスで困っている困窮者への経済的支援に重点が置かれていたのに対し、公明党案では、「未来応援給付」として、18歳以下に一律10万円(所得制限なし)を給付したいとしていた。

このように、現金給付策については、自民党と公明党ではスタンスが異なり、特に18歳以下への現金給付策に所得制限を設けるか否かを巡り対立が続いていたが、与党間でのすり合わせの結果、年収960万円の所得制限を設けることで合意された。

しかし、給付を受け取る側の国民の間では、公明党の「未来応援給付」は受けが悪かったのも事実である。矢野康治財務次官の『文藝春秋』への寄稿にもあったように、「国民はバラマキを欲するほど愚かではない」こともあるが、その他の理由としては、今回の18歳以下への給付策の①政策目的(景気対策なのか、コロナ対策なのか、社会福祉なのか)、②政策理念(子どもへの給付なのか、子どもを育てる保護者への給付なのか)、③財源負担者(わたしたちなのか、子どもたちなのか)が明確に示されていなかった点にある。

無法状態が続く日本財政

ところで、2021(令和3)年度当初予算では、43.6兆円の国債が新規に発行される予定となっており、うち37.3兆円が赤字国債である。

日本財政の憲法と位置付けられる財政法では、そもそも建設国債のみ例外的に発行が認められており、実は赤字国債の発行は想定されていない。つまり、財政法上存在してはならない赤字国債が実務的に必要不可欠という理由だけで、1975年からバブル期の4年間を除いて現在に至るまで素知らぬ顔で赤字国債の発行が続く無法状態が続いている。

さらに、赤字国債はその償還ルールも不合理である。

建設国債は、社会資本の整備に使われ、社会資本の耐用年数が大体60年であるので、もし建設国債の償還に難儀する場合には、いざとなれば社会資本を売却すれば良いとの理屈がたつため、建設国債は60年で償還すればよいとの60年償還ルールが適用されている。

しかし、赤字国債には建設国債が持つ見合いの資産は存在しないにも関わらず、何故か建設国債と同じ60年償還ルールが準用されている。

つまり、赤字国債で財源を賄うならば、60年償還ルールが適用されるため、今年実施された赤字国債財源の施策は、今後60年かけて返済していけばいいので、それは結局、政策を決定した私たちではなく、残りの人生が長い子どもたちが返済していくことに他ならない。

さらに厄介なことに、消費税増税で財源を賄うにしても実態は同じである。なぜなら、消費税の場合、私たちも確かに負担するのだが、残りの人生の長い子どもたちの負担がやはり多くなるからだ。

このように、赤字国債は元より消費税増税でも子どもたちの負担による財源調達でしかなく、未来小切手帳のように、いまお金を手に入れられたとしても、将来受け取れるはずのお金が消えてしまうのだから、給付を受ける子どもたちにとっては、詐欺同然の行為に等しい。

しかも、政策を決定する立場にある政治家は子どもたちのためを思って良いことをしたと錯覚しているので、いっそうタチが悪い。まさに、ヨーロッパの諺にあるように「地獄への道は善意で舗装されている」のだ。

新型コロナと何の関係があるのか?

そもそも、未来ある子どもたちを応援するのにコロナは関係ない。コロナがあろうとなかろうと未来あるそして社会の次代の担い手である子どもたちを応援するのは、私たち上の世代の当然の責務である。

もし本当に未来ある子どもたちをたまたま今回の給付に間に合ったか否かに関わらず差別なく応援しようと思うなら、2018年現在、児童・家族関係給付の9倍弱ある高齢者関係給付を削減することで安定財源を確保し、一時的な給付ではなく児童手当を拡充するなどして子ども向けの給付を増やす必要がある。

児童手当を拡充せよ

現在の児童手当は中学校卒業までの子どもを養育している保護者に対し、子ども一人当たり月5000円から1万5000円支給される。この児童手当の支給対象年齢を18歳に延長し、所得制限を撤廃することで、18歳までの子ども全員に月1万円(年12万円)の児童手当を配り続けるとすれば、現時点では毎年2.4兆円の予算が必要になる。

例えば、すでにある児童手当の総費用1.2兆円を控除すれば、18歳以下の子どもたちに年額12万円配るには、新たに必要となる財源は1.2兆円に過ぎない。実は、この1.2兆円は、高齢者関係給付をたった1.4%削減するだけで、子どもたちにツケを回さず、一時的ではなく恒久的に、しかも生まれた年や親の所得で子どもたちを分断することもなく、未来ある子どもたちを応援することができるのだ。

その気になればいつでも合意できる程度の金額に過ぎないのだから、さすがにたった1.4%の高齢者向けの社会保障給付を削減できない政治家や、自分たちへの給付削減に首を縦に振らない高齢者はいないだろう。

このように、選挙目当てではなく、本当に未来ある子どもたちを重視しているのであれば、所得制限付きの一時的な給付で子どもたちの〝分断〟を招くのではなく、若者に薄く高齢者に厚い社会保障給付の構造改革こそ実行すべきだと筆者は考えるが、読者の皆さんはいかにお考えだろうか。

シルバーデモクラシーと対峙する政党は出てくるのか

それにしても、所得制限は子どもの分断を招くと批判していたにもかかわらず所得制限を受け入れたということは、選挙のためであれば子どもの分断を招いても仕方ないということだろうか。

筆者の今回の提案の場合、子どもであれば誰も排除しないので子どもの分断を招かず、高齢世代から若者世代のおカネを取り戻すことで世代間格差の是正にもつながるので、真に若者ファーストの政策と言える。来年の参議院選挙で、拡大版児童手当の創設を掲げシルバーデモクラシーに真っ向挑戦する政党は出てくるだろうか。

最期に蛇足ながら、18歳以下に限定して10万円支給する「未来応援給付」にはバラマキ批判がわき上がったにもかかわらず、年齢制限も所得制限もなくマイナンバーカードを保有する国民に広く支給するマイナポイント付与にはそうした批判が出なかったのは、シルバーデモクラシーの弊害が指摘されるわが国の政治のあり方において有権者側の姿勢も明らかにした点で大変意義深い。

Source

タイトルとURLをコピーしました