FATFがガイダンスを改訂。DeFiやNFT、メタバースの未来を左右しかねないルールとは?【5分でわかるブロックチェーン講座】

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 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

FATFが改訂ガイダンスを公開

 国際金融組織FATFが、暗号資産を含むガイダンスの改訂版を公開した。DeFiやステーブルコイン、トラベルルールに関する規定がアップデートされている。

 各国に対して実質的な絶対効力を持つFATFのガイダンスが改訂された。暗号資産に関しては、以前より指摘されてきたトラベルルールの実現性に加え、適用範囲の見直しが論点となっていた。

 秘密鍵を預からずユーザーのデバイスで管理するセルフカストディ型ウォレットを、トラベルルールの適用範囲にするかどうかの議論が熱を帯びていたが、今回は適用範囲外とされている。

 この点は、DeFiやNFT、さらにはその先のメタバースにさえ悪影響を与えかねない重大な論点だった。今週は、FATFガイダンスがDeFi、NFT、メタバースに与える影響について考察したい。

 またFATFによると、DeFiプロジェクトはプロトコル自体に規制を整備することは困難であるため、実質的な運営者が規制対象になりうるとの見解を示している。NFTについては、基本的に暗号資産には該当しないとしつつも、一部例外として扱われる可能性が高いものもあると主張した。

参照ソース

    Updated Guidance for a Risk-Based Approach to Virtual Assets and Virtual Asset Service Providers
    FATF

新経済連盟がブロックチェーン官民推進に向けた提言を提出

 新経済連盟が、ブロックチェーン推進に向けた提言をデジタル大臣、金融担当大臣、経済産業大臣宛に提出した。主に6つのテーマから構成されている。

 新経済連盟は、内閣官房と共同で2020年9月より「ブロックチェーン官民推進会合」を開催してきた。今回の提言は、この会合での議論をまとめたものになる。提言では、以下の6つが要求された。

ブロックチェーンを国家戦略に
ブロックチェーン官民協議会の設置
世界一デジタルフレンドリーな法整備
NFTに関する事業環境の整備
STO・ICOに関する会計基準の整備
税制改正

 後半の3つについては、より具体性が帯びた内容となっている。国内におけるNFTの取り扱いは、現時点で明確な法規制が整備されておらず、無法地帯となっているのが実態だ。ガイドラインや相談窓口を設けることで、事業環境の整備を求めた。

 6つ目の税制改正については、法人が暗号資産を保有している際に、未実現利益(損失)が課税対象となってしまう点の見直しが提言されている。

参照ソース

    【新経済連盟】「ブロックチェーンの官民推進に関する提言」を、デジタル大臣、金融担当大臣、経済産業大臣宛に提出しました
    新経済連盟

今週の「なぜ」DeFi、NFT、メタバースにとってFATFガイダンスはなぜ重要か

 今週はFATFのガイダンス改訂と新経済連盟のブロックチェーン推進提言に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

セルフカストディ型ウォレットはトラベルルールの対象外
DeFi、NFT、メタバースはすべて匿名性を前提に成立している
セルフカストディ型ウォレットはこれらのインターフェースとなる

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

セルフカストディ型ウォレットはVASPの定義外

 今回のFATFガイダンス改訂において、最も大きな論点になっていたのが「セルフカストディ型ウォレットがVASP(暗号資産関連サービス事業者)に含まるかどうか」だ。これについては、米国を中心とした民間企業のロビイング活動の結果、今回は対象外となっている。

 セルフカストディ型ウォレットがVASPとして定義されると、KYC(本人確認)プロセスが導入されることになる。これは、トラベルルールへの対応を前提としているため、絶対に対応しなければならない処置だ。

 仮に、セルフカストディ型ウォレットにKYCが導入されることになっていた場合、DeFi、NFT、メタバースのいずれも普及に向けて致命的なダメージを負うことになっていたと考えられる。

 なぜなら、DeFi、NFT、メタバースこれらはすべて匿名性を前提に成立しているからだ。

ウォレットはDeFi、NFT、メタバースすべてのインターフェースになり得る

 メタバースが今後どのように普及していくか現時点では明確になっていないが、少なくともDeFiとNFTに関しては完全に匿名の状態で成立している。

 これらの領域に分類されるサービスにアクセスするには、セルフカストディ型ウォレットがインターフェースになっているのが現状だ。セルフカストディ型ウォレットにはKYCがないため、アカウント作成時に現実世界の人物と紐づける要素が何もない。

 DeFiやNFTのサービス使用時には、氏名やメールアドレスなどではなくウォレットアドレスが識別子となる。

 もちろん、AML/CFTなどの問題は解決しなければならないものの、匿名だからこそ利用される側面が決して小さくはないだろう。特にNFTに関しては、単なる売買にとどまらず仮想空間にもう一人の自分を想像できる要素が強い。これは、メタバースにも繋がる感覚だと言える。

匿名であることの重要性

 今回、仮にセルフカストディ型ウォレットがVASPとして定義されKYCが導入されることになっていた場合、DeFiやNFTサービスがすべて実名で利用されることになっていた。これらの先にはメタバースの時代が待っているため、実名でメタバースにアクセスすることになっていたかもしれないのだ。

 こう考えると、FATFという一個人としては無関係にも思える国際組織の意思決定が、いかに他人事ではなかったかということがわかるだろう。見方を変えると、ウォレット、NFT、メタバース…これらはとても密接に繋がっていることがわかる。ブロックチェーンの本質そのものではないだろうか。

 匿名性の重要性は、メタバースやNFTに限らない。メタバースやNFTの場合はもう一つの世界があり、そこでは現実世界とは別の人格があっても良いという感覚はわかりやすいかもしれないが、DeFiにも匿名性は必要だ。

 金融世界の匿名性というと、多くが犯罪利用を促進すると批判しそうだが、それは先進国ボケしてしまっていることに他ならない。既存金融では、本人確認が必須なために犠牲になっている人々が数多く存在する。

 本人確認をすることで低所得であることがわかったり、クレジットカードを持っていなかったり、そもそも本人確認ができない人だっている。こういった人々に金融サービスを届けるには、匿名性がポジティブに働くDeFiしかないのではないだろうか。

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