自販機でラーメン? コロナで異変 – 中川寛子

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「ラーメン自販機」「ピザ自販機」「点心自販機」ーー。

コロナ禍で対面販売が難しくなった飲食店がその苦境を打破しようとする試みから始まったのか、今、さまざまな食品を売る自動販売機が各地で話題になっている。その種類もラーメンや点心、ケーキや出汁など多種多様だ。

出汁の自販機(中川寛子)

自販機市場全体としては2000年以降、縮小が続いているようだが、その一方で新たなビジネスのチャンスを生む自販機も登場しているという。自販機に関わって40数年という株式会社ピープルの大川和光氏に話を聞いた。

日本は自動販売機の普及が世界一

最初に自販機の歴史をおさらいしておこう。まず現在のような自販機が登場したのは1800年代後半、産業革命後のイギリスだ(一般社団法人全国清涼飲料連合会『自販機の歴史』より)。当時は飲料、菓子、チケット、たばこなどが売られていたそうだ。

日本に自販機が本格導入されたのはその誕生からしばらく経った1962年。アメリカの大手飲料メーカーが日本に進出したのに伴って使われるようになった。

その後、1967年に100円硬貨が改鋳され、硬貨が大量に流通するようになったことが自販機の普及を後押しする。さらに1974年に温かい飲み物と冷たい飲み物の提供を1台の自販機でこなす日本特有の「ホット&コールド機」が誕生。それが飲料自販機の本格的な普及に繋がったという。

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現在では国内の自販機、自動サービス機(両替機やコインロッカーなど)を含む総台数は404万5800台(2020年。一般社団法人日本自動販売システム機械工業会)。台数ではアメリカが645万台と世界一とされているが(2013年末と少し古いデータだが)、人口や国土面積を勘案した普及率では、治安の良さもあり日本が世界一と言われている。

ただ一部には欧米に比べて多すぎるのではないかという批判もあり、業界では自販機に住所表示を入れたり、災害対応できる機種を導入したりするなどの社会貢献を進めているという。

きつねうどん、味噌汁、ハンバーガー…種類豊富な昭和時代

自販機に関わって40数年という株式会社ピープルの大川和光氏は「昭和時代の自販機は扱う商品の種類が豊富だった」という。その例として見せていただいたのが昭和53年(1978年)に「日本自動販売機械工業会」が開いた自動販売機フェアのパンフレットと、その当時の「富士電機」の自販機カタログ(いずれもコピー)だ。

自動販売機フェアのパンフレット(中川寛子撮影)

前者を見るとトーストサンドイッチ(冷蔵のサンドイッチをホットプレートで調理、焦げ目がついた状態で出てくる)、きつねうどんなどの麺類、カレーライス、味噌汁、ハンバーガーにかき氷、レコードとカセットテープなどを売る、今ではほとんど見ないような自販機が並ぶ。

(中川寛子撮影)

後者のカタログにもハンバーガー、かき氷、アイスクリームにガム、麺類などの自販機が掲載されていた。

自販機減少の背景には保健所・コンビニの存在が影響

特に都市であればどこででも目にする自販機だが、実は560万台あったピーク時の2000年以降、緩やかに減少が続いているのだ。それだけではない。販機の種類自体も減っているという。

ピープル社内に展示してあるさまざまな自動販売機のモデル(中川寛子)

大川氏によると、その背景には主に「保健所」と「コンビニエンスストア」の存在があるという。

保健所に関しては規制の問題だ。「麺類やトーストサンドイッチなど調理式の食品自販機は食品衛生法に基づく飲食店営業の許可が要りますし、牛乳の自販機は食品衛生法の乳類販売業と様々な許認可が必要。設置すればすぐに販売できる缶・ボトル入りの清涼飲料などに比べると設置までに手間、時間がかかり、それが敬遠されて減ってきた部分があります」(大川氏)。

もうひとつがコンビニエンスストアとの競合である。コンビニの少ない時代であればカップラーメンや麺類、冷凍食品のおにぎり等が気軽に買える自販機にニーズがあったが、今ならすべてコンビニで用が足りる。

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「かつては冷凍食品大手のニチレイフーズが自社の製品を普及させるために自販機で販売していましたが、その機械は2010年に製造中止になっており、自販機専用商品の生産も2021年3月には終了しました。残されていた機械も全台撤去されています」(大川氏)。

食品だけでなく、たばこ自販機も減っている。これは2008年に未成年者の喫煙防止策として自販機でのたばこ購入の際にはtaspo等を利用しての成人識別が必要になったのが契機だ。「taspo利用が面倒」と自販機での購買が敬遠され売り上げが減少した。また、以前は条件が揃えばJTから無料で貸与されていたたばこの自販機は、現在購入が必要となっており、「有料なら自販機そのものの設置をやめる」という流れも減少に追い討ちをかけているという。

その結果、自販機を作るメーカーも少なくなった。

「年間何万台と売れる清涼飲料の自販機以外は儲からないと多くの会社が撤退しました」と大川氏。かつてはシャープや東芝、三菱電機や星崎電機(現ホシザキ)、クボタなど多くのメーカーが手掛けていたが、現在は富士電機、サンデン・リテールシステムが主なところだという。

新たな市場開拓に貢献する「ど冷えもん」とは

ところが、ある意味冷え切った市場に今年、新たな自販機が登場した。これまでと違うニーズを開拓し始めている。それが2021年1月末に発売されたサンデン・リテールシステムの「ど冷えもん」である。

「ど冷えもん」は4種類のストッカー(陳列ケース)を組み合わせて多彩な梱包形式の商品を販売できる冷凍自動販売機で、屋内、屋外どちらにでも設置できる。これにより営業時間外でも販売ができ、売り上げ増が見込める。

これまでの冷凍自販機はアイスクリーム主体に利用されてきたが、コロナ禍を機に飲食店は効率的なテイクアウトを模索しており、自店で調理・冷凍した食品を24時間、非対面で売れるとなればメリットは大きい。消費者にとっても飲食店の味を手軽に購入できるのは美味しい話である。

そうした飲食店、消費者それぞれにとっての利点が受けて、ど冷えもんは発売から約半年で想定を上回る1000台以上の注文を集めた。最近、ラーメン、餃子、焼き肉などといったこれまでにない自販機の登場がニュースになっているのは、ど冷えもんの登場が背景にあるのだ。同社では8月末に冷凍、冷蔵を切り替えられる「ど冷えもん NEO」を発売しており、今後もしばらくは飲食店などが利用する一味違う食品の自販機が話題になるのではなかろうか。

商品のオリジナリティが自販機ビジネスの肝

ど冷えもん以外でも自販機利用で成功している人たちがいると大川氏は話す。

「コンビニとの競合で売れなくなったと考えると、競合しない、オリジナリティのある商品を売れば良いということになります。実際、そこでしか買えない商品を自販機で販売し、売れているケースもあります」。

たとえば卵。スーパーでは1パック200円以内で買える品だが、質や鮮度が高いものであれば1個30円、40円でも買う消費者はいる。「毎日、自販機内の卵を入れ替えていることが周囲に知れ渡った途端、売れるようになったそうです」。最近は農家が無人販売の代わりに自販機を入れている例が増えているという。

また、実店舗はなく自販機でしか販売されていないが売れている食パン、ケーキもある。大川氏に聞いて、筆者がナイスアイディア!と思ったのは焼き芋をホット、アイスで使える飲料の自販機で販売している例だ。温かい焼き芋、冷やし焼き芋が1台でどちらも買えるのである。

シフォンケーキを販売する自動販売機(中川寛子)

ただし自販機を利用して販売するためにはハードルもある。飲料メーカーの自販機を設置する場合は、場所を提供する側の自己負担ゼロで設置でき全体の売り上げの一部を受け取ることができるが、一方でそのメーカーの商品しか売ることができない。自分たちのオリジナルな商品を売ろうと思ったら自販機を購入する、あるいはリースするなどで自前で用意する必要があるのだ。

自販機を購入する場合、価格は商品によってピンキリだが、農家で野菜、卵を売るような電気を使わないロッカー式の品で40万円~、飲料用の中古自販機で25万円~、特殊自販機で電子マネー対応などになると200万円を超えるものもある。飲料の場合は中古の自販機もあるが、それ以外は中古はほとんどない。

売り方、置き方などに可能性

商品を単体ではなく、コンセプトや社会的意義も含めて自販機で売ろうというやり方も出てきている。2021年7月に銀座にオープンした「スキマデパート」は飲食店4500店以上が利用する農畜水産物の流通・物流プラットフォーム「SEND」を運営するプラネット・テーブル株式会社と、「小さなスペースから世の中を面白くする」を掲げるスキマデパート株式会社が協業したもの。

中川寛子

スキマデパートはコロナ禍で廃棄されてしまうかもしれない食品やまだ世に知られていない食品を使われていない、小さなスペースを活用することで無人販売しようというもので、食品、場所、2つの「もったいない」を自販機利用でレスキューする試みというわけである。自販機の両側には商品についての物語が掲出されており、地方の、知られていない商品を売る手立てとして、地方創生の一環として面白いと思う。

NHKの大河ドラマ「青天を衝け」で盛り上がる渋沢栄一ゆかりの飛鳥山公園(東京都北区)近くにある複合施設「サンスクエア」では北区を本拠地とする企業・学校などが制作している名産品を紹介、販売する自販機が登場し、話題にもなっている。

北区ゆかりの名産品を販売する自販機(中川寛子)

売り方以外では置き方、置く場所にも工夫の余地がある。現在でもある程度の規模がある集合住宅では入口付近に飲料の自販機が置かれているが、それを飲料以外の自販機にしたらどうだろう。

実際、東急住宅リースは2021年9月から同社が管理する一部の賃貸住宅にクックパッドの生鮮食品宅配サービス「クックパッドマート」の商品受け取り場所である生鮮宅配ボックス「マートステーション」を設置している。

中川寛子

宅配ボックスなので自販機とは異なる部分はあるが、集合住宅内でも食料品が売れるという判断と考えると、それが自販機であってもおかしくはない。若い単身者が集住する建物内で日本全国のご当地ラーメンやご当地カレーが売られていたら、売れそうな気がするがどうだろう。ファミリー世帯が住んでいるなら牛乳や食パンなどの朝ごはんセットが売れるかもしれない。もちろん、食品以外にも、おむつやペットフードなどもあり得るかもしれない。

オフィスにオフィスコンビニやオフィスおかん(自販機利用で福利厚生の一環として総菜を販売)などがあるように集合住宅あるいは周辺に住んでいる人たちを対象にした自販機ビジネスは十分あり得る。非対面で24時間利用可の手軽さを生かし、地域、住む人たちの利便性を向上させるビジネスの登場を期待したい。

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