【山田祥平のRe:config.sys】新生REALFORCEの誕生で何がどう変わったのか

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 東プレがREALFORCEを刷新、マスターシリーズR3キーボードの発売を開始した。静電容量無接点方式の究極のキーボードだ。実に20製品をラインアップ、あらゆるニーズに応えようとしている。2017年の第2世代製品R2から約4年、いったい何がどう変わったのか。

原点回帰を指向するREALFORCEのキーボードレイアウト

 個人的に2002年から初代REALFORCEのユーザーだった。でも、2017年当時、16年ぶりのモデルチェンジだったR2世代への移行はパスした。理由はスペースキーが長くなって変換キーと無変換キーの位置がキー1個分両外側にずれたからだ。一般的なOADGキーボードでは、変換キーは「M」キーの真下、無変換キーは「C」キーの真下にある。ホームポジションから親指を降ろせば無理せず容易に届く位置だ。

 だが、R2では変換キーが「<」キーの真下、無変換キーが「X」キーの下に位置がシフトしたのだ。キー一個分、そのことについてはR2の発売時にレビューして書いた。

 どんなに邪悪なレイアウトであったとしても、必要悪かもしれなくても、まがりなりにも「標準」だ。そこから大きく逸脱することによる弊害もある。冒頭の写真は上がR3世代、下が初代レイアウト、そして、過去レビュー冒頭の写真はR2世代のものだ。

 もう、REALFORCEは使えないと思った。タイプ時フィーリングの極楽感は至上の存在だっただけに悲しかった。現時点では2007年に入手した「REALFORCE 108UH SA0100」を使い続けている。USB接続になりWindows関連キーが追加された109準拠のモデルだ。

 当面は初代とR2世代が併売されるということだったので、万が一何かあったときに買い替えればいいと高をくくっていた。ところが、そのうち市場からR2が消えてしまった。長く使うものだし、欠かせない存在であるだけに、二度と同じものが手に入らなくなってしまったという事実にショックを受けた。比べなければわからない程度だが、さすがに10年間以上使って、少しずつヘタリ始めているのがわかっていただけに後悔してもしきれなかった。あとのまつりである。

 だが、突如発表されたR3シリーズを見て驚いた。キーレイアウトが初代REALFORCEにほぼ回帰していたからだ。さっそく入手して使ってみたが、初代よりはほんの少し外側だが、今、こうして原稿を書いているうちにすぐに慣れた。R2世代はそうはいかなかったのだ。やっぱり変換キーと無変換キーはここになくちゃ始まらない。

 とはいえ、R2世代からREALFORCEを使い始めたユーザーはどうなるのか。最長4年間は使い続けた彼らはそのレイアウトに慣れ親しんでしまっただろう。R2シリーズの日本語配列モデルは2021年10月29日で生産終了となった。たった4年間で彼らの未来の受け入れ先がなくなってしまったことになる。予備を確保するなら今のうちに流通在庫を狙うしかない。

 標準を変えるというなら変える側も、それを受け入れる側も覚悟と強い意志が必要だ。だからこそ、その責任の重さを十分に考えてほしい。

あらゆるニーズに応える姿勢

 はなから少し厳しいことを書いたが、R2世代をパスし、その将来を憂いていた立場的には大歓迎のリフレッシュだ。

 まず、Bluetoothに対応し、4台を切り替えて使えるハイブリッドモデルが用意された。今後はこのハイブリッドモデルがメインになるのだろう。USB接続の有線でも使えるので、Fnキーコンビネーションで切り替えて5台のホストへの接続ができる。

 Bluetooth接続時の電源についてはバッテリーでの運用だ。しかも、単3形電池2本という汎用性は素晴らしい。10年間は当たり前のように使うキーボードだ。これが充電式の内蔵バッテリだと確実にバッテリの寿命が先にくる。愛用、そして決して安くはないキーボードなのに、バッテリが劣化しただけで文鎮になってしまうのは悲しい。

 しかも乾電池は、装着していなくても、USB接続用のためのバスパワーさえ供給していればワイヤレス機能は生きる。この仕様を選んだ担当者には敬意を表したい。

 製品としては、Windows PC用にテンキーレスとフルキーボードが用意され、色はブラックとスノーホワイトの2色展開だ。また、接続はハイブリッドのみならず、USB接続のみのモデルも用意されている。ハイブリッド機はUSB Type-Cポートが装備されているが、USB接続機はType-Aプラグを持つケーブルが直付けされている。配列は日本語キーボードだけだ。

 各キーの刻印はスノーホワイトモデルでは昇華印刷、ブラックモデルはレーザー印刷になる。ただ、USB接続モデルはスノーホワイトモデルでもレーザー印刷だ。

 このスノーホワイトという色だが、かなり白がまぶしく感じる。存在感を主張しすぎている印象だ。キーボードはたとえタッチタイプで使っていても頻繁に視野に入ってくるのでその存在感主張が最初はうっとおしく感じるかもしれない。

 また、スノーホワイトモデルのキートップに昇華印刷された文字は、くっきりはっきりと黒々としていて、キーのまぶしい白と印刷の黒のコントラストがかなり高い。特に、ハイブリッドモデルではBluetooth制御用にFnキーコンビネーションとして割り当てられるキーの手前面に各機能の刻印があり、これも視野に入ってしまって少し目障りだ。

 ただ、USB接続モデルはスノーホワイトでもレーザー印刷で、かつ、文字色もグレーに近いので、そうした印象はなく控えめで奥ゆかしい。個人的にはこちらのほうが好みだ。ハイブリッドモデルも、この配色の方がよかったんじゃないかと思う。オプションでフルキーキャップセットも用意されるようだが、刻印は昇華印刷のみだ。このレーザー印刷版も欲しいところだ。

 さらに、REALFORCEはキー打鍵時の荷重に特徴がある。今回のラインアップでは全キー30g、全キー45g、そしてキーによって30、45、55gと異なる荷重が設定された変荷重の3モデルが提供される。変荷重は、小指など力の弱い指が担当するキーは軽く、親指などが担当するキーは多少重くといった意図によるものだ。その恩恵として、とにかく指が疲れない。

 それとは別に、キーについては静音スイッチのものとそうでないモデルがある。人間の聴覚感度が高い周波数成分(2,500~5,000Hz)を抑えたもので、これはR2世代の途中に取り入れられたものだ。非静音スイッチとの違いはちょっと叩き比べてみればすぐにわかる。圧倒的に静かだ。ただしUSB接続モデルには静音スイッチ搭載モデルがない。

 今回の20製品という壮大なラインアップだが、Mac用や英語配列のものがなかったり、R2にはあったアイボリーモデルもなく、特定の装備を組み合わせたモデルが存在しなかったりもする。これらは順次ということになるのだろうか。

 たとえば、今のところスーパーホワイトのUSB接続モデルで変荷重というモデルが存在しない。そしてスーパーホワイトのハイブリッドモデルはすべて昇華印刷だ。さらにUSB接続モデルには静音スイッチのモデルが存在しない。個人的には、最初に使ったPS/2接続の初代RELAFORCEが変荷重だったので、スーパーホワイトのハイブリッドで変荷重、レーザー印刷の静音スイッチモデルがあったらいいなと思うのだが、今のラインアップではかなわない。

 とはいえ、ここまで多彩なオプションの組み合わせを、すべてSKUとして揃えるのはたいへんだ。PCのようにBTOができるようにする検討を願いたい。

愛と哀しみの(無)変換キー

 REALFORCE R3シリーズの価格帯は2万3,980~3万4,980円だ。

 1,000円ちょっと出せば普通にそこそこのフルキーボードが買えてしまうし、廉価なキーボードとは使い勝手は別次元とはいえ、できることは同じだ。だからべらぼうに高いと感じるかもしれない。

 だが、キーボードは、PC用の周辺機器としては陳腐化しにくく、PC本体を代替えしても、キーボードはそのまま使い続けることができる。PCでの作業を飛躍的に快適なものにするもっとも基本的なデバイスだ。極上体験のために多少の投資を奢ってもバチはあたらないし、日常的に長時間キーボードを叩き続けるユーザーとっては、疲労とストレスを軽減するための大事な投資でもあり、効果もてきめんだ。10年間を超えるリッチな体験を3万円前後で手に入れられるのだから、投資としては、類をみないくらいに費用対効果は高い。

 もう1年早く発売できればもっとよかった感はあるが、コロナ禍で在宅時間が増え、ノートパソコンに大画面モニターディスプレイや外付けキーボードをつないで使うユーザーも増えたようだ。つまり、ニーズも高まっている。業務用キーボードともいえる製品だが、B2Bに加えてコンシューマー市場を積極的に狙おうとしている東プレの姿勢も感じられる。

 新たなる旅立ちとなったREALFORCEだが、発売されたばかりの第3世代R3シリーズは、これからの10数年間、あるいはもっとつきあうことになるであろう頼もしい相棒だ。たった4年間でR2シリーズの終焉を宣言することになったのだが、今回の長いようで短かった回り道を経てのレイアウト変更は、英断ではあったが東プレにとっては悩みに悩んでの選択だったと想像する。

 無変換キーと変換キー、そんなキーはどうでもいいと思う方もいるかもしれないが、IME制御の要となるキーだけに、どんなキーボードでも同じ位置にあってほしい。これは「マスト」だ。

 量販店に陳列されているノートPCのキーボードをじっくりと観察してみよう。そのレイアウトがあまりにもまちまちなのに驚くはずだ。GIGAスクール施策などで、これから初めてPCを使うユーザー層が、それぞれまちまちなキーレイアウトに慣れ親しんでしまうことが、将来のPCハードウェアにとって不幸な結末を迎えないようにしてほしいものだ。東プレの判断が、PCメーカー各社の再考を促すきっかけになればいいのだが。

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