菅直人氏の高校無償化発言に指摘 – NEXT MEDIA “Japan In-depth”

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Japan In-depth編集部(坪井恵莉)

【まとめ】

・立憲民主党の菅直人氏が高校無償化について発言。

・「民主党政権時代に高校無償化を実現し、現在も無償化」

・高校の授業料無償化は一部世帯のみで実現されており、不正確。

2021年10月18日、第49回衆議院議員総選挙東京18区立候補予定者公開討論会(主催:一般社団法人武蔵野青年会議所、公益社団法人むさし府中青年会議所、小金井青年会議所)に出演した菅直人氏(立憲民主党の発言を検証する。

10月18日討論会に出席した菅直人氏は、現在およそ半数の学生が利用している奨学金の返済が、利用者の大きな負担となっている現状を問題視し、改善すべきとの考えを表明した。

その際、「民主党政権の時代に、高校無償化まで実現しました。これは実行したんです。現在も無償化になってます。その延長上でいっぺんに全てを無償とは言いませんが、少なくともその今申し上げたような半数以上の人が、大きな借金を抱えているというやり方は変えるべきだ。」と発言した。(動画37:05~37:30頃)

今回は、この「民主党政権の時代に、高校無償化まで実現しました。現在も無償化になってます」という発言について検証する。

発言内容を

①民主党政権時代に高校無償化を実現した

②現在も高校無償化が実現されている

の2つに分け、民主党政権時代と現在についてそれぞれ検討する。

■ 民主党政権時代

高校授業料に関わる政策は「高等学校等就学支援金制度」と呼ばれ、民主党政権時に生まれた。

民主党は2009年第45回衆議院総選挙のマニフェストに「高校は実質無償化し、大学は奨学金を大幅に拡充します」と記述した。

マニフェスト政策各論では「公立高校を実質無償化し、私立高校生の学費負担を軽減する」として以下の具体策を掲げている。

○公立高校生のいる世帯に対し、授業料相当額を助成し、実質的に授業料を無料とする。

○私立高校生のいる世帯に対し、年額12万円(低所得世帯は24万円)の助成を行う。

政権交代を実現した民主党主導の下、2010年3月31日に「高等学校等就学支援金の支給に関する法律(高校無償化法)」が成立、同年4月1日に施行された。これにより、日本で「高等学校等就学支援金制度」が開始された。

高校無償化法の成立によって、公立高校の授業料は無償化され、国費から賄われることとなった。

私立高校や高等専門学校などの授業料については、原則、公立高等学校基礎授業料月額(月額9,900円)を上限として、高等学校等就学支援金が支給される。国は都道府県を通じて、学校に就学支援金に支給し、授業料に充てられる。低所得者層への支援として、250万円未満世帯には基礎授業料の2倍(月額19,800円)、250万円~350万円世帯には 1.5 倍(月額14,850円)が支給された。

公立高校では授業料の無償化が実現されたが、私立高校などでは授業料と高等学校等就学支援金の差額が保護者負担となっていたため完全な無償化とは言えない。

よって、「民主党政権時代に高校無償化を実現した」という旨の発言は「不正確」と判定する

■ 現在

高校無償化政策は自民党政権時代に変更され、2020年7月から現行の制度となっている。新制度では国公私立問わず、所得等要件を満たす世帯に対して高等学校等就学支援金が国から支給される。

支給条件は「市町村民税の課税標準額×6% - 市町村民税の調整控除の額」の算出額によって判定される。そのため、世帯年収だけでなく、家族構成などによっても支給条件が異なる。

支給条件の基準は以下の通り。

・算出額が30万4,200円未満であれば、国公立高校も私立高校も月額9,900円を支給。

・算出額が15万4,500円未満であれば、私立高校授業料実質無償化の対象となり、月額33,000円を支給。

▲表 所得基準に相当する目安年収 出典:文部科学省

民主党政権時の旧制度からの変更点は大きく2つある。

1つ目は、所得制限を加えた点だ。旧制度では公立高校の場合、世帯年収に関わらず授業料が免除された。これに対して、現行制度では公立、私立に関わらず高等学校等就学支援金には一定の所得制限が設定されている。

2つ目は、私立高校への授業料支援を拡充した点だ。旧制度では、高等学校等就学支援金の支給額が原則として月額9,900円、最大でも月額19,800円(年収250万円以下の世帯対象)に留まっていた。

文部科学省が行った私立高等学校等初年度授業料等の調査によれば、令和2年度における私立高等学校(全日制)の初年度生徒の平均授業料は43万3,991円で、私立高校の授業料負担が依然として大きいことが課題だった。現行制度では支給の最大額が月額33,000円(年間39万6,000円)まで引き上げられたほか、対象となる世帯も大幅に拡大した。

都道府県によっては、国からの支援金に加えて独自の支援金を給付している。例えば東京都は「私立高等学校等授業料軽減助成金」を支給しており、在学校の授業料を上限に、国からの支援金と合わせて最大46万7,000円の助成が受けられる。

制度変更により、私立高校でも授業料が実質無償となる世帯が生まれたものの、支給条件を満たしていなければ一部負担、あるいは公立高校でも全額負担となる場合がある

よって、「現在も高校無償化が実現されている」という旨の発言は「不正確」と判定する。 

■ 判定

菅直人氏の発言内容を

①民主党政権時代に高校無償化を実現した

②現在も高校無償化が実現されている

の2つに分け、民主党政権時代と現在についてそれぞれ検討を行った。

いずれにおいても、高校授業料支援のための制度導入は認められるが、授業料無償化の実現は一部世帯に留まっている。正確な部分と不正確な部分が混在していることから、今回の発言は「不正確」と判定する。

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