Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/64GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
「800Gbps/10km Reach SMF」の課題に対する諸提案
前回に続き、「800Gbps/10km Reach SMF」では、SiFotonicsのRang Chen Yu氏とSource PhotonicsのFrank Changによる、”Feasibility of 800G LR4 and 800G ER8 with PAM4 IMDD“というプレゼンテーションも行われた。
まず、冒頭に出てきたCDペナルティに関するグラフが、上の図だ。これは、5月のミーティングでHuaweiが示したものの再掲であるが、色分散は-21.5ps/nm(これは波長1270nmの場合)から11ps/nm(これは1330nm)で、トータル32.5ps/nmほどになると推定される。
この分散を、波長を横軸にとって改めて示したのが以下の図。この色分散をどこまで許容できるかが最大の技術的課題だとしている。
4波長を用いて色分散を抑える
さて、まず提案の1つ目は以下の通り。「LR4」向けには、1304.58/1306.85/1309.14/1311.43nmの4波長を使うことで、色分散をトータル31ps/nm程度に抑えられるというものだ。
これは、分類としてはLWDMに属することになるが、実際はLWDMとDWDMの中間くらいだろうか? 波長が接近しているため、WDMで利用するMUX/DeMUXがコスト面ではやや厳しいことにはなるが、CWDMを使った場合に比べれば遥かにマシ、という判断であろう。
この3つの、DSP側から見ての判断が以下の図。LWDMの場合でも21タップ以上のFFEをDSPで構成しないといけないので、そもそも実現可能性があるかどうか分からないとし、現実問題として今回の提案が(コストは掛かるにしても)最も実現可能性が高いとしている。
800G DSPを新規に起こすのではなく、既存の400G向けDSPを2つ並列
次が受信感度、というか送信出力側の問題。以下の図は『200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?』で紹介した、Huaweiによる200GレーンのPAM4とPAM6の比較からの抜粋結果である。
そこでの内容は、EMLとMZMという2種類の発光素子での比較を示したものだが、ここで送信出力を1dB引き上げることで、受信感度側のマージンを増やすという提案が行われた。
到達距離40kmとなる「ER8」への提案
ここまでの提案は、到達距離10kmのLR4に関するものだが、これとは別に到達距離40kmとなる「ER8」についても提案が行われた。
面白いのはDSPに関しては、新規の800G DSPを起こすのではなく、既存の(400G対応)DSPをPiggyback方式、要するに400G向けDSP×2構成にすることで、開発コストを抑えることを想定しているあたりだろうか。100G×4はもう標準化に向かって進んでいるから、これを流用することでコストを抑えたいという動機は理解できる。
以下の図は、IEEE P802.3cu Task Forceの2019年5月のミーティングで行われたプレゼンテーション”Further study of 400G with 4*100G PAM4“からの抜粋であるが、チャープ効果(ここでも触れたように、時間経過で周波数が変化する現象)が起きると、急速に色分散のペナルティ(というか、TDECQペナルティ)が増加する点が問題としている。
MZMを採用すれば40kmの距離もカバーできる
これに関して、実際のシリコンでの結果は? というのがOFC 2021で発表された論文”Silicon Photonics Applications for 5G and Data Centers“のデータとなる以下の図。
その内容はタイトルにもあるように、400GのトランシーバーをSilicon Photonicsを利用して製造し、その特性を調べてみたというものだ。
比較の条件は、片方(Sample #1)がSilicon Photonicsを利用したMZM方式の100G ER1のトランシーバー、比較対象用のSample #2が100G Lambda MSAで規定された「100G ER1-40」のスペックに準拠した従来型トランシーバーである。
グラフ中にあるEYE Patternは、そのSilicon Opticsを使って「400G-DR4」を実装し、PAM4変調を行った後の波形を示したものであり、きちんとEye Heightが取れていることがアピールされている。
論文中には細かな記載がないが、上のグラフの説明には”We have also tested transmission dispersion tolerance with our internal developed silicon photonics MZ modulators PIC, as shown in Fig. 2, which show good margin vs. 100G ER1-40 specification by 100G Lambda MSA.”とあり、100G Lambda MSAの100G ER1-40と比較しても、MZMを利用した場合にはマージンが多い(分散ペナルティが低い)とされ、MZMを使う限りにおいては40kmの伝達距離も十分にカバーできる、というのがグラフで意図したところだろう。
ただ、先ほども出てきたように、ITUで定められた色分散の計算式を利用した場合、-60~-37ps/nmというと、実際には1308~1310nmということになり、ここに8波長を通すとなるとおよそ0.29nmおきとなる。
これは、DWDMの0.8nmおきを超える波長密度であり、さすがに実現可能性が低すぎる。そこでもう少し色分散のリミットを広げ、1302~1310nmの間に8波長というかたちとすることで、現実的な実装ができるとしている。
「Link Budget」その有効性は?
Link Budgetについては、100G Lambda MSAの「100G-ER1-40」をそのまま流用する、という方針が示されている。
もっとも、「100G-ER1-30/40」の場合は周波数帯として1308.09~1310.19nmを使うとされ、今回の800G LR8では1302nmあたりまでカバーする必要があるので、発光素子的にこれに対応できるのか? というところはやや疑問だ。
さらに、WDMのMUX/DEMUXは1.2nmごとの波長を扱う必要があるため、かなり高価になりそうだ。もともと40kmという長い距離に対応する製品は高価になりがちなので、それでも許容範囲と判断されたのかもしれない。
ちなみに、このプレゼンテーションに関するStraw Poll/Motionは特に実施されていない。