軍事機密をピーナツバターサンドにはさんで売ろうとした夫婦が逮捕

GIZMODO

すごく香ばしそうなピーナツバターサンドです。

ZDNetなどの報道によれば、米海軍のエンジニアとその妻が、原子力潜水艦に関する極秘データを外国政府に売ろうとしていたとして逮捕されました。FBIがその罪状を記した裁判文書によれば、米海軍原子力技師のJonathan Toebbeとその妻Diana Toebbeは、軍事機密入りのSDカードをピーナツバターサンドイッチにはさんで「外国政府」に引き渡し、その対価として暗号通貨を受け取っていました。彼らの失敗は、パンの耳を切らなかったこととか、ピーナツバターサンドにジャムを入れなかったこととかじゃなく、「外国政府」がじつはFBIの捜査官だと気づかなかったことでした。

海軍のエンジニアが情報を持ち出し

42歳のJonathan Toebbeは、2017年に現役から外れていましたが、現役中には海軍原子推進力計画に参加し、原子力潜水艦に関する膨大なデータにアクセス可能でした。裁判文書によれば、Toebbeが売ろうとしていたデータは、原子力戦艦の原子炉の設計要素や運用パラメーター、性能特性といったかなりセンシティブで詳細な情報だったようです。 Toebbeは現役を退いてからも2020年12月までは予備役で人事官として残っていたので、2000年3月に更新したセキュリティ許可も有効でした。本人のLinkedInのページもまだ残ってるくらいです。

上の文書によれば、2020年12月、「COUNTRY1」(とある国)にいるFBIの司法担当官が、その国の当局からある小包を受け取りました。COUNTRY1いわく、その小包は2020年4月、COUNTRY1と極秘にコンタクトしようとする謎の人物から送られてきたものでした。小包に入っていたのは「技術的詳細と操作マニュアル、性能報告書を含むデジタルメディアファイルと、そのプリントアウト」、それに機密情報を売りたいという主旨のレターと、返信方法を書き込んだSDカードです。

そのレターの発送日はたまたま4月1日のエイプリルフールでしたが、レターにはこんなことも書いてありました。

あなたの言語への下手な翻訳を謝罪します。このレターを軍事情報当局に転送してください。この情報はあなたの国にとって大きな価値があると信じています。これはウソではありません。

FBIのおとり捜査

でも「COUNTRY1」はこの情報取引のオファーを受け入れず、8ヵ月後ではありますが、FBIに連絡したので、Toebbeはだます側からだまされる側になってしまいました。FBI捜査官は「COUNTRY1」の関係者になりすまし、2020年12月、小包の中で指定されていた暗号メールサービス・ProtonMailのアカウントとコンタクトを取りました。 ちなみにこの「COUNTRY1」がどの国なのかは公表されていません。

裁判文書によると、小包の送り主=Toebbeは暗号通貨のMoneroで10万ドル(約1100万円)相当を要求し、それを支払えば「私があなたに渡すキーで暗号化された、セキュアなクラウドストレージアカウント」にデータをアップロードすると提案しました。それに対しFBIは、データを入れたSDカードを、「中立的な交換場所」に置いてほしいと回答しました。

すると送り主が、メールの相手が本当に「COUNTRY1」なのかどうか疑念を示しました。そこでFBIは2021年5月末、ワシントンD.C.にある「COUNTRY1」関連の建物にメッセージ代わりの旗を掲揚し、疑念を払拭しようとしました。さらに送り主を信用させるため、Moneroで1万ドル(約110万円)相当の支払いもしました。その結果、送り主とFBIは6月26日にウェストバージニア州の某所でSDカードを受け渡すことで合意したのです。そして6月26日、FBIが張り込む中、Toebbeは指定された受け渡し場所に近づき、SDカードを置き去っていきました。それは厳密には、半分に切ったピーナツバターサンドイッチにはさまり、ビニール袋に包まれた状態の、SanDisk製SDカード・16GBでした。その間、妻Diana Toebbeは見張り役を務めていました。

計約1100万円を支払い

Toebbe夫妻とFBIの間ではその後もやり取りが続き、FBIはToebbe夫妻にMoneroで2万ドル(約220万円)を支払った上で、「サンプル」の暗号解除キーを転送するように伝えました。その後7月にもSDカードの受け渡しがあったんですが、そのカードは「ジップロックの透明袋に入って、バンドエイドの包みの間にはさんだ状態」でした。そのSDカードの中のメッセージでは、合計500万ドル(約5億5000万円)相当のMoneroを要求したとされます。具体的には、データ数千ページ分を50分割したパッケージがあって、それら1パッケージあたり10万ドルを要求しているので、10万 x 50 =500万ドル、という計算です。ToebbeはFBIへのメッセージのひとつで、支払いが罠ではないことを確認するためにその支払い方にしたいと以下のように説明していました。

取引ごとに支払うことは、安全策という面もあります。あなたのレターにあったように、米国のセキュリティ部隊は怠惰なので。彼らは予算も限られています。エージェントを捕まえるためには1万とか2万ドルが彼らの通常の活動です。10万ドル超え? 彼らは提案はするかもしれませんが、そんな高額は実際には払わないでしょうね。最近の報告で、これが米国がよく使う作戦だと確認できています。気を悪くしないでほしいんですが、あなたのこれまでの気前の良さは、まさに私を罠にはめようとする敵と一致してもいるのです。

あなたの上司がこの方法に納得できるなら、我々は一度に複数パッケージを取引できます。安全のために、私はこの仕事を完了するために50回別々の取引をしないことを強く希望します。

結局FBIは今年8月、3回めの取引暗号解読キーを入手するためにさらにMoneroで7万ドル(約770万円)支払い、支払った合計額は10万ドル(約1100万円)になりました。そのときのSDカードは、チューインガムの包みに入っていました。何かとそこらへんにあるものに入れてきますね。

いろいろと謎

これまでに渡されたデータの中には、30億ドル(約3300億円)かけたバージニア級原子力潜水艦の設計図も入っていました。ZDNetいわく、それは2060年までは現役でいると想定されています。そこで使われている技術は、最近の米国とフランスの間のバトルの火種になったものでもあります。米国とイギリスが、オーストラリアの原子力潜水艦開発支援の契約にサインしたんですが、その前にフランスもオーストラリアと巨額の契約をしてたので、何なんだよってなって、フランスは米国とオーストラリアから大使を引き揚げるくらい激怒してました。でもオーストラリア当局は「前々から、ディーゼルを使うフランスの潜水艦について懸念を伝えていた」と主張しています。…となると、もしかしてこのへんの国が「COUNTRY1」?とも思いますが、そこはまだわかっていません。

Baltimore Sunによれば、Toebbe夫妻の近所の人たちは、パトカー15台以上、FBI捜査官25人以上を含む警察の集団がToebbe氏の家にガサ入れするのを目撃していました。FBI捜査官は近所の人に聞き込みをし、白いミニ・クーパーを漁り、シートからGPSコンピューターまで全部ひっくり返していったそうです。New York Timesによれば、Toebbe夫妻はワシントンD.C.郊外に住む一見ごく普通の夫婦で、周囲からの信頼も厚かったそうです。

そんな普通の人たちが、スパイ映画の序盤で片付けられる犯人みたいな行為に手を染めてしまったのはどういうことだったのか、ピーナツバターは粒ありだったか粒なしだったかなど、詳細の解明が待たれます。

Source: ZDNet, アメリカ合衆国司法省, LinkedIn, Baltimore Sun, New York Times

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