ビール1本でも無料配送する酒店 – PRESIDENT Online

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東京や大阪に展開する酒販売店「なんでも酒やカクヤス」は、個人客でもビール1本から無料で配送してくれる。なぜそんなことが可能なのか。ライターの村上敬さんは「料飲店向けの配送と一般家庭向けの配送を組み合わせている。特に料飲店からは当日配達は重宝され、全体の売り上げを押し上げている」という――。

カクヤス王子店外観
撮影=プレジデントオンライン編集部

異質な「縛りなし」の無料配送

新型コロナウイルスの感染拡大以降、自宅でお酒を楽しむ機会が増えている。家飲み愛好家の心強い味方が、東京や横浜、川崎、大阪を中心に169店舗(2021年3月末時点、倉庫含む)を展開する「なんでも酒やカクヤス」だ。

カクヤスは店頭でお酒を販売するだけでなく、自宅まで無料で配達してくれる。いまや送料無料のECは珍しくないが、通常は「お買い上げ〇〇円以上」「お急ぎは有料」というように何らかの縛りがあることが多い。

一方、カクヤスは縛りなし。配達可能エリアなら、「ビール1本から」「最短1時間で」「無料で」届けてくれる。たとえば晩酌の途中に飲み足りなくなったとき、冷えたビールを1本だけすぐに届けてもらうことも可能。冷蔵庫が自宅の外にもう1台あるようなものだ。

ユーザーにとっては大変助かるサービスだが、気になるのは採算性である。多くのECが無料配送に何らかの条件を設定しているのは、採算割れを防ぐため。1本200円のビールでも無料で配達していたら、赤字になってサービスが続かなくなるのではないかと心配になる。いったいどのようなカラクリで、縛りなしの無料配送を実現しているのか。歴史をひもときながら探ってみよう。

配達エリア1.2キロは偶然決まった

「なんでも酒やカクヤス」を運営する株式会社カクヤスグループ(本社・東京都北区)は1921年に創業した。昔は町の酒屋さんだったが、2代目の時に料飲店にお酒を卸す業務用にシフトした。現社長の3代目、佐藤順一社長はバブルの絶頂期に入社して、「六本木に新規オープンするキャバクラには、だいたいうちがお酒を卸していた」という。

一般家庭用の小売を再開したきっかけはバブル崩壊だ。顧客である料飲店の倒産が相次ぎ、キャッシュフローが悪化。1992年、売掛金回収の苦労がないBtoC市場に活路を求めて、当時はやっていたディカウントショップを東京都北区にオープンさせた。その立地が同社の戦略を左右することになる。佐藤社長は当時の事情をこう明かす。

カクヤス・佐藤順一社長(撮影=プレジデントオンライン編集部)

「コンビニ跡地だったんです。郊外の大型ディスカウントショップと比べると、狭くて大量陳列できず、駐車場もない。そのままでは勝てないと思って、大型店がやっていない配達サービスを始めました。配達エリアは、店舗から半径1.2キロ。最初は1キロにしようかと思って地図を見たら、近所の豊島五丁目団地は3分の2しか入らなかった。同じ団地の3分の1のお客様をお断りするわけにはいかない。それで団地すべてが入るエリアとして1.2キロに決めました」

成り行きでエリアを決めたが、結果的には理にかなっていた。1.2キロの場合、1時間に配達可能な件数は4.2件だった。距離を延ばすと面積は2乗で大きくなって移動が非効率になり、配達可能件数は大きく下がる。

一般にピザの宅配は商圏が2キロで、1時間2.6件だ。かといって商圏を小さくすると客数が減ってしまう。注文数を最大化できる商圏が1.2キロであり、いまもカクヤスはこの商圏をベースにして出店を続けている。

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