アメリカ最大の公共図書館システムが延滞料の廃止を発表、「罰金は時代遅れ」との声

GIGAZINE
2021年10月06日 20時00分
メモ


by melanzane1013

2021年10月5日に、公共の図書館システムとしてはアメリカ最大の規模を誇るニューヨークの3つの公立図書館システムが共同で、貸し出した本の延滞料を廃止することを発表しました。これにより、ニューヨーク市民は資料を延滞しても延滞料を請求されたり利用カードがブロックされたりしなくなります。

One Fine Day: New York City’s Three Public Library Systems Eliminate Late Fines | The New York Public Library
https://www.nypl.org/press/press-release/october-5-2021/one-fine-day-new-york-citys-three-public-library-systems

New York Public Library ends all late fees : NPR
https://www.npr.org/2021/10/05/1043412502/library-fees-eliminated-new-york

日本のほとんどの公立図書館は延滞料を徴収していませんが、アメリカやイギリスなどでは返却期限を超えて資料を借り続けた利用者には、罰金として延滞料が課されることがあります。ニューヨークの公共図書館にも、20世紀初頭の設立当初から罰金制度が導入されており、15ドル(約1600円)以上の延滞料が発生した場合は利用カードが使えなくなっていました。2021年10月の時点では、約40万人のニューヨーク市民が利用停止に該当する状態で、その半数以上が世帯所得の低い貧困層とのこと。

by Peter Miller

こうした現状を踏まえて、ニューヨーク公共図書館は10月5日に、ニューヨーク市内にあるブルックリン公共図書館とクイーンズ公共図書館と共同で、延滞料を廃止することを発表しました。これに伴い、これまで延滞料が課されていた全ての利用者のアカウントから、延滞料の履歴が削除されました。

発表によると、3館は延滞料を廃止した公共図書館システムとしてはアメリカ最大とのこと。またニューヨーク市も、図書館の延滞料を廃止した自治体としては国内最大になるそうです。

ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は、「今回の発表は、多くのコミュニティの中心である公共図書館が、誰もが利用できる場所になるための大きな一歩です。罰金をなくすことで、より多くのニューヨーク市民にサービスを提供し、成長と成功のチャンスを与えることができます」とコメントしました。


ニューヨークの図書館が延滞料の徴収をやめたのは、もとから少額の延滞料では経済的に余裕のある人に資料の返還を促す効果がない一方で、最も図書館を必要としているはずの貧困層の人が図書館から締め出されてしまっている現状があるからです。例えば、世帯収入の中央値が5万ドル(約550万円)以下の地域にあるニューヨーク公共図書館の分館では、図書カードが利用停止になった人の数が他の分館の6倍に上っているとのこと。クイーンズ公共図書館やブルックリン公共図書館でも、カード利用停止者の数が最も多い地域はいずれも世帯所得の中央値が他の地域より低い傾向が見られました。

この傾向は17歳以上の利用者に特に顕著で、カードがブロックされた利用者の約30%が子どもや10代の若者だったとのこと。また、2017年に実施された調査では、カードがブロックされた青少年利用者のうち80%が、低所得者層に該当していたそうです。

延滞料には貧しい人を学習から遠ざけてしまうという弊害があった一方で、新型コロナウイルスのパンデミック対策として1年間以上にわたり延滞料金の徴収を停止したことで、延滞料がなくても図書館の運営に大きな支障が出ないことが分かりました。

こうした点から、ニューヨーク公共図書館のアンソニー・マークス館長は「パンデミックは、私たちが『二都物語』の世界に生きており、最も弱い立場にある市民が取り残されつつあるという現状をこれまで以上に明確にしました。すべての人に知識と機会を与えるという当館の使命を全うするには、時代遅れで効果がない延滞料の問題は避けて通れません。延滞料は、それを払える人には無意味なのに、低所得の市民にとっては本へのアクセスを妨げる障害となるからです」と話しました。

なお、アメリカでは以前から延滞料を撤廃する動きが広まっており、2019年にはシカゴやサンフランシスコの図書館が延滞料を廃止しました。こうした取り組みの結果、シカゴでは本の延滞が増えるどころか、逆に返却数が激増したと報告されています。

図書館の本の延滞者に対する罰金を廃止したら本の返却数が激増した事例 – GIGAZINE

by Teresa Grau Ros

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