【山田祥平のRe:config.sys】クラウドワープロは、いったいいつまでページにこだわり続けるのか

PC Watch

 ドキュメント作成は、A4縦という紙文書の呪縛にとらわれ続けている。このサイズは、確かに紙に出力したときには使いやすいが、読み書きの作業をPCでやってみると決して使いやすいものではない。にもかかわらず、Googleドキュメントも、Web用Wordも、そして、発表されたばかりのWPS Officeのクラウド版WPS Docsにしても、どれもページの横幅を逃れて文書を作成することができない。

紙への印刷が前提では読む側も書く側もつらい

 春にも同じような趣旨のコラムを書いたが、こういうことは大事なので繰り返し言っておきたい。

 デジタル庁が発足したが、そこで公開されている各種資料のほとんどがPDFだ。以前、デジタル庁設立準備中に公開されたアイデアボックスにWord形式のファイルの公開を求めて投稿した件は多少はかない、DOCX形式も併せて公表されているものも多くなってきてはいるのだが、かつての政府CIOポータル内でのことで、デジタル庁のサイトが新設されてもPDFのオンパレードで元の木阿弥だ。

 元のファイルがあれば、自分の好きな文字サイズ、フォント、行の折り返し位置など任意のフォーマットにして、どんなデバイス、画面サイズでも文書が快適に読める。それが望ましい。DXの規範となるべく、こういことから少しずつ進めてほしいと思う。

 デジタル庁で公開されているドキュメントPDFの多くはPowerPointで作成された横置きプレゼンテーションスライドフォーマットで、文書によってはJJUST PDF 4でPDFが生成されている。同庁の公開文書はセキュリティ制限がないので、プロパティであらゆることがわかる。

 スライドフォーマットのPDFはPCの横長画面最大化表示では読みやすいかもしれないが汎用性に乏しい。十分にディスプレイサイズが大きければいいが、半端なサイズでは読めない。また、文書の構造が論理的に抽出しにくい。これはちょっと困る。

 というのもWindows 11では各アプリのウィンドウ右上の最大化(元に戻す)ボタンが、任意の位置にウィンドウを配置するためのスナップボタンとしても機能する。小さなノートPCの画面であっても、左右半分ずつに別のウィンドウを表示させれば使い勝手は悪くない。ただしそれには、ウィンドウのサイズに左右されないコンテンツ表示の機能が求められる。そこを新しい当たり前にしてほしいのだ。そういうことって神エクセル撲滅などと同様のテーマじゃないだろうか。

汎用性抜群のテキストファイルの限界

 ずっとテキストエディタで仕事をしてきた。職業は物書きなので、成果物のほとんどはテキストだ。つまり半完成品である。愛用の秀丸エディタは、かつて4,000円で購入したが、すでに四半世紀以上前の話だ。それでもバリバリの現役だ。

 その前はワープロアプリの「一太郎」を愛用していたが、作るファイルはテキストファイルだった。非公開のMS-DOSシステムコールINT 2Eh経由で一太郎を起動するjx.exeなんていうコマンドラインランチャーも作った。ページあたり行数を10,000行にし、横の文字数を -w22などと指定して起動するユーティリティだ。つまり任意の横幅を指定して無限大(に近い)行数を持つ用紙に原稿を書くことができた。

 当時は、テキストを書く人、イラストや写真を作る人、エディトリアルデザインする人がいて、ほぼ分業制で、ライターがアプリを駆使して最終納品物を美しく仕上げる必要はなかった。

 ただ、現代においては、テキストだけでは扱うデータをカバーできない。取材で撮影した写真もあれば、参照してほしいURIもある。それらを何でも載せられる皿が必要だ。

 そんなわけで、最近は、一部の原稿をWordを使って書くようになった。書く原稿は、読者の目に触れる最終原稿でない。それぞれ掲載されるメディアに応じて編集者が加工する。だから、文字装飾等はほぼなく、見出しと本文の区別がつく程度で、あとは素材を並べておけばいい。ただ、企画書や提案書などについては最終原稿を自分で作る必要がある。それらについては以前からリッチな文書を作成できる各種アプリを使ってきた。

 Wordアプリで原稿を書くようになって釈然としなかったのは、ページの概念が今なおつきまとっていることだ。たとえばA4縦に印刷することを前提に文書を作る必要がある。テキストエディタは横幅さえ決めれば、どんなに長いドキュメントでも1ページだ。四半世紀以上、それを当たり前として文章を書いてきた。

 Wordの既定値では、本文の文字サイズは10.5ポイントの游明朝フォントだ。これに既定の両脇余白が加わる。もちろん、A4縦に印刷するのが前提なので上部と下部にも余白がある。

 この状態だと1行あたりの文字数は日本語で約40文字、1ページあたり31行、計1200文字といったところだろうか。ただ、多くのPCは横長の画面なので、このプロポーションは文書を作成するにも表示するにも向いていない。

 たとえば13.3型のフルHD画面を持つ典型的なノートPCで、画面表示を推奨の150%表示で使っている場合、Wordのウィンドウを最大表示し、ページ幅を基準に表示させた場合、リボンを非表示にして14行程度を表示できる。情報量としてはA4用紙の上半分というイメージだ。これではちょっと少ないし、余白など無駄な部分も多い。

 そこで愛用しているのがWordアプリのWebレイアウト表示だ。この機能を使って文書を表示すると、ウィンドウはレスポンシブルになって、横幅に応じてリフローし、ウィンドウ右端で文字が折り返されるようになる。また、ページの区切りも表示されない。まるでテキストエディタのようなシンプルな編集画面が得られる。

 このモードで印刷レイアウト表示とほぼ同じサイズで文字が表示されるように表示倍率を設定してウィンドウを最大化してしまうと、1行当たりの文字数は約80文字となる。この文字数は「読む」には幅が広すぎる。横書きの文章の1行文字数が多すぎると、人間の視線は行末から行頭への移動で、注目していた行を見失いやすい。だから半分程度の40文字以下がいい。必然的にウィンドウのサイズは半分になる。

 そんなわけで、WordアプリのWebレイアウト機能は、個人的に欠かせない機能として重宝している。文書作成作業に資料の参照等は欠かせない。だから、画面全体を1つのアプリのウィンドウに占有されるよりも、適度なウィンドウサイズのウィンドウを複数並べて支障なく使えることが重要なのだ。これはディスプレイが大きければ大きいほど大事なことだ。

 表示編集画面が印刷イメージと異なることを気にする方もいるとは思うが、今の時代、画面で文書が読まれる確率を考えると、どんな印刷をされても、そして、どんなウィンドウサイズで読まれてもつじつまがあうように文書を作ることの方が大事なのではないか。

 Webレイアウト機能は、Wordアプリの下部、ステータスバー右端のズーム用スライダーの左側にボタンがある。表示メニューのリボンにもコマンドがある。騙されたと思って、一度クリックしてためしてみて欲しい。Wordに抱いていた概念がガラッと変わると思う。ぼくは、この機能にAlt+Ctrl+Wを割り当てている。Alt+Ctrl+Pが印刷レイアウトに切り替わるNormal.dotの既定ショートカットだが、なぜかWebレイアウト切り替えのショートカットは未定義だ。だから、WebのWを割り当てた。視認性向上のためにフォントもメイリオに変えた。

今欲しいのは画面に応じたコンテンツ表示の当たり前

 さて、こうして印刷イメージを無視しながら文書を作るようになると、異なるデバイスでその文書がどのように見えるかが気になってくる。

 まず、スマホだ。スマホでA4縦の印刷イメージが表示されてもうれしくない。6型よりひとまわり大きい程度の画面サイズにA4縦の文書を全体表示しても読み書きするのは無理だからだ。スマホを横にして画面幅基準で合わせても無理だ。

 そこはよくしたもので、iOSやAndroidなど用のWordやOfficeアプリには、モバイルビューと呼ばれる機能が実装されていて、スクリーンサイズに合わせ、WindowsのWordアプリにおけるWebレイアウトと同様の表示ができる。Googleドキュメントも同じ挙動を示す。これはとても便利だ。ただ、ピンチ操作での拡大縮小ができないのが残念だ。

 その一方で、同じモバイルOSであっても、タブレットなどのひとまわり大きな画面を持つデバイスでは、このモバイルビューが使えない。ChromebookでAndroidアプリを使っても同様だ。Windows 11でAndroidアプリが使えるようになると聞いたので、ちょっとは期待しているのだが、たぶん、タブレットと同じ扱いになるのだろう。

 さらに、各種アプリのクラウド版を使ってみると、冒頭にあげたGoogleドキュメント、WPS Officeなどに、ウィンドウサイズが自在になる右端で行を折り返す表示モードがないことがわかる。クラウド版なのに用紙の呪縛から逃れられていないのだ。

 確かに、実物大のWYSIWYGで文書を作成するのは気持ちがいい。でも、それは、誰もが文書を印刷して読むということが前提にあるからだ。だから書くときもそうしたい。そしてそのためにはワープロアプリを大画面で使わざるを得ない。

 ワープロアプリのいいのは、テキストデータをはじめ、異なる種類のデータを、見かけ上、1つのファイルに埋め込んでしまえることだ。似たようなフォーマットとしてWebページがあるが、Webページそのものは、異なる大量のファイルの集合体なので、管理がやっかいだ。でも、ワープロアプリなら、少なくとも見かけのファイルが1つですむ。Markdownへの移行も考えたのだが、ファイル管理の煩雑さであきらめた。

 たぶん、Wordのデフォルトが印刷レイアウト表示というのは、変えられないだけなのだと思う。Microsoftほどの企業が、いつまでも紙を前提にしているはずがない。変えてしまうと世の中が大混乱してしまうからなのだろう。Googleだって同じだと思う。

 けれども、新しい時代には、新しい時代の創作ツールが必要だ。本当は、今こそ、新しい当たり前としてのワープロが求められているのではないか。それが今こそキラーアプリとして登場してほしい。Officeアプリなら本当はOneNoteがそうならなければならなかったのだろうが、どうも志は半ばだ。

 一般的なワープロアプリにこだわらずに、Webで提供されているページ作成ツールには、ページの概念もなく、また、WordPressなどでページを作るときにも、レスポンシブなテーマを選んでおけば、ウィンドウの横幅に左右されずに編集ができるし、表示も同様にウィンドウサイズに依存しないものができる。そういうことができる環境がローカルアプリとしても欲しい。

 文書の汎用化は、リッチ化という点では相反する面もあり退化も求められる。でも、DXを叫ぶ前に、こうしたことを徹底しておかないと、印刷された文書をFAX送信するだけでデジタルというようなことがもう一度起こりかねない。

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