大改革の実現こそが時代の要請 – 青山社中筆頭代表 朝比奈一郎

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本エッセイ執筆時のわずか数時間前に、自民党の第27代総裁として岸田文雄氏が選出された。ほどなく、第100代の内閣総理大臣に選出されることはほぼ確実である。

こう書くと何か劇的な瞬間に立ち会っているかのような錯覚に陥るが、結論から書けば、実は何の感興も湧いてこないというのが残念ながら偽らざる気持ちだ。読者諸賢は如何であろうか。

3日前の27日(月)に公開された拙稿(JB Press:衆院選を見据え総裁選の熱狂演出する菅・安倍両氏の戦略眼の凄み)に書いたとおりだが、ほぼ予想通りの展開で決選投票にもつれこみ、また読み通りに結果として岸田氏が選出されたから、という「予定調和」だけが原因ではない。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/67084

改めて、「時代の要請」を正しく想像し、そして、その「時代の要請」に応えるだけのビジョン・政策の方向性を打ち出す候補者不足(与野党を問わず日本全体として)を痛感するからである。

こう書くと、怪訝な表情をする方が少なくないと思う。確かに、今回、自民党は良くやった。幅広く、様々な政策をぶつけ合い、やはり自民党には人材がいる、という気持ちを人々に持たせた。

絶妙なタイミングで菅氏が退陣(総裁選不出馬)を決めて、激しく候補が乱立する総裁選をアレンジし、また、自民党支持層の3~4割を占めるとされる保守派の動きを出すべく、安倍氏は当初は泡沫候補扱いされていた高市早苗氏を推して全面バックアップをした。結果としては「さすがの幅広さよ」と思わせるだけの候補者を自民党は右から左まで4人揃えて、連日討論会を催し、結果、総裁選は盛り上がった。

コロナ対策、経済政策、エネルギー政策、年金のあり方等々、様々な政策について論戦が交わされ、候補者たちは、自説・政策を開陳しあった。「時代の要請」を踏まえ、ビジョン・具体策を出し合ったように見える。

このまま行けば、国民的人気の高い河野氏が選出された場合ほどではないにせよ、恐らく11月の来るべき衆院選でも、岸田自民党は手堅く勝利を収めるであろう。意中の候補者が総裁にならなかったとしても、「みんなで選んだ」感に浸って満足している自民党支持者は、上述の保守派をはじめ、かなり選挙に足を運ぶのではないか。

しかし、改めて問おう。現在、本当のところ、「時代の要請」は国民に正しく想像・共有されているであろうか。そして、その「時代の要請」に応えるだけのビジョン・政策の方向性は打ち出されているであろうか。そうしたイメージをしっかり持たせるのが政治の一つの役割だとすると、現状とても十分とは思えない。

ここで、まずは「時代の要請」ということについて考えてみたい。

結論から書けば、日本には今、「大改革」が求められていると考える。これはもう、必要なものは必要としか言いようがない、というのが正直なところであるが、少し客観性を持たせるため、約10年周期、約80年周期の2面で考えてみたい。

まず、10年周期の方だが、実はここ40年ほどを振り返るだけでも、日本では、大きな経済的ショック→政治の大変動の繰り返しが約10年単位で起こっていることが分かる。

1980年代の終わりから90年代初めにかけては、バブル景気がはじけ、日本新党が大躍進をして熊本県知事がアッという間に総理大臣になるという事態が発生した。

90年代終わりから2000年代初めにかけては、山一證券・拓銀・長銀などが次々につぶれてメガバンクの大再編なされた。つまり、いわゆる金融危機が発生し、その直後に「自民党をぶっ壊す」と叫んだ泡沫候補のはずの小泉純一郎氏が総理大臣になって長期政権となった。

2000年代の終わりには、リーマンショックが発生して、選挙での政権交代が起こった。民主党政権の誕生である。

約10年単位で発生する危機に際して、①日本新党と細川政権、②小泉政権、③民主党の各政権のいずれも威勢良く改革を唱えた。特に小泉政権は長期政権化するなどして、一定程度国益を達成したと言って良い。しかし、いずれも何ら本質的な改革は進められなかった、時代の要請に即した大改革は出来なかった、ということは論を待たない。物騒な表現を使えば、まだまだ「出血」が足りない。

そして、2010年代を過ぎて2020年代に入ったところでコロナショックが発生した。本来であれば、そろそろ、少なくとも、かつての民主党政権誕生のような「選挙による政権交代」程度の政治の大変動は起こってもいいタイミングだ。しかし現状、その気配はない。

コロナ下の現在、結果としての感染者や重症者、死者は、諸外国に比べて相対的に少なく済んでいる。が、これは、たまたまの僥倖や国民一人一人のモラルの高さによるものであり、コロナという脅威を前に、わが国の危機管理システムは機能不全を露呈したと言っても過言ではない。人口当たりベッド数は相対的に非常に多いにも関わらず、諸外国に比べてかなり少ない患者数でも、わが国では病床ひっ迫から来る医療崩壊の危機に瀕した。

本件一つとっても、例えば医療制度の大改革は本来急務であるはずだ。しかし、繰り返しになるが、その機運はない。

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