カキは高潮を食い止めている、その理由とは?

GIGAZINE
2021年09月26日 09時00分
動画



カキといえばプリプリに締まった身や濃厚な旨味、そして栄養豊富であることから「海のミルク」とも言われる貝類です。そんなカキが有する「高潮を食い止める能力」について、アメリカのニュースメディア・Voxがムービーで解説しています。

How oysters can stop a flood – YouTube
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アメリカ最大の都市であるニューヨークには、自由の女神像I Love New York(アイ・ラブ・ニューヨーク)のロゴ、タイムズスクエア、黄色いボディのタクシーであるイエローキャブなど、さまざまな名物がありますが……


かつて何にも増して有名だったのは、カキ。ニューヨークは1600年代から1800年代にかけてカキの産地として有名でした。


現代では通りごとにホットドッグスタンドが立ち並んでいますが、当時並んでいたのはオイスタースタンド。


ニューヨーク周辺の海岸線には、およそ22万エーカー(890平方キロメートル)にわたってカキ類が積み重なって形成された海底の隆起である(PDFファイル)カキ礁が分布しているとされていました。


当時はあまりにカキ礁が広い範囲に分布していたため、船舶はわざわざカキ礁を避けて航行しなければならなかったほど。


しかし、現代では船舶は自由にニューヨーク近郊を航行できるようになっています。その理由は、カキがものすごいペースで食べ尽くされてしまったため。


カキが食べ尽くされてしまったのはニューヨーク近郊だけにとどまりません。専門家は1800年から2000年までの200年間で世界のカキ礁の85%が失われたと推定しています。


こうした理由から、カキ礁を復活させるという試みが近年盛んになっています。


その背景には、カキはおいしいというだけでなく、実は「高潮を防ぐ」という重要な役割を担っている可能性があるためです。


近年は地球温暖化の加速によって海面が上昇し続けており、現存する海岸線の半数が海に沈むというかもしれないと言われている状況。海岸沿いの浸食範囲が拡大した結果、地盤が不安定化するだけでなく、被害を受ける家屋が出始める地域もあります。


ここで登場するのがカキです。カキは海の中で文字通り互いにくっつき合って生息しています。


新たに生まれてきたカキの幼生は、海中を移動した後、岩や貝の殻など硬質の基盤に付着します。この現象は英語で「Spat」と呼ばれており、たいていの場合は、付着する基盤は他のカキとなります。


このSpatが何度も何度も繰り返された結果、カキ礁が形成されるというわけです。


時と場合によっては、このカキ礁が海岸線を守る役割を果たします。海岸線に寄せてくる波がカキ礁に直撃した場合、波の一部は押し戻されるため、実際に海岸線に届く波は弱まります。その結果として、海岸線の浸食速度は減じられると考えられています。


当然ながらカキ礁が大きくなればなるほど波を減じる効果が強くなるため、カキ礁のサイズが重要になってくるわけですが、人間が作った防波堤とは異なり、カキ礁は「勝手に上へ上へ育つ」という便利な性質があります。


世界中でさまざまな団体がカキ礁を回復させる試みに取り組んでいますが、この試みは「カキを海に投げ込む」といった単純なものではありません。カキ礁が形成されるためには、土台となる硬質の基盤が必要です。


ニューヨークには食べ終わった後のカキの殻を硬質の基盤として役立てようとする団体が存在し……


バングラデシュなどにはカキが付着しやすいコンクリートの構造物を海岸線に並べる団体が存在します。


このコンクリートの構造物はそれ自身も防波堤として役立つので、一石二鳥というわけ。


「コンクリートの構造物を設置するならばカキのことを考えなくても良いのでは?」と言われてしまいそうですが、カキ礁はサンゴ礁のように海洋生態系の回復にも重要。


その理由は、カキは水質を浄化する働きを担っているため。カキは大量の海水を吸い込んで、海水内に含まれる藻類や窒素やその他さまざまな汚染物質を食べ、きれいな海水に変えて排出しています。その能力は、1匹のカキで毎日50ガロン(約190リットル)の海水を浄化できると言われているほど。


こうしてカキが水質を浄化させた海域では、海草や魚、その他の海生生物もまた復活するというわけです。


科学技術の発展によって、我々の生活自体が1600年代とは根本的に変化したため、海面上昇に対する取り組みは単純なものではなく、かつて行ってしまった過ちを繰り返さないというだけでは足りません。このムービーを公開したVoxは、「カキから学べるのは、たった1つの種の生態系を回復させるだけで、連鎖的に生態系が回復して、よりサステナブルな未来が作れるかもしれないということです」とまとめています。


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