山口FGのCEO解任劇 背景に画策か – 大関暁夫

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地方銀行第6位の山口FGで起きた「山口の変」

中堅地銀の金融持ち株会社山口フィナンシャルグループ(山口FG)で、事件がありました。

新年度の役員制が承認された株主総会後の臨時取締役会で、トップの吉村猛CEOがその職を解任されるという驚きの事態となり、「山口の変」として世間の注目を集めているのです。

山口FGは、2006年に山口銀行(山口)ともみじ銀行(広島)との経営統合による地方銀行の金融持ち株会社として発足。その後、新たに設立した北九州銀行(福岡)をも傘下に置き、総資産ベースでは地銀第6位となる有力地銀グループです。

椋梨敬介社長は会見で、吉村CEO解任に関しては「社内調査進行中」と多くを語ってはいないものの、「吉村氏が社内合意を得ないまま新規事業をすすめた」と、その理由の一端を述べています。

一部報道では、2018年に業務提携した消費者金融大手アイフルとの個人リテール専門銀行の共同設立を、外資系コンサルタント会社のアドバイザリーの下、吉村氏の独断で計画し、事前協議なく役員会に上程され、役員会が紛糾し保留になったのだといいます。

解任劇の発端となった内部告発文書は”怪文書”か

それだけであれば急な解任劇には至らなかったのかもしれませんが、この役員会と前後して吉村氏と日銀出身のコンサルタント会社代表との癒着関係を指摘する内部告発文書が役員会メンバー間で出回わり、さらにこの文書がネットメディアの報じるところとなって、「解任すべし」の動きが加速したのだといいます。

その内部文書の中身ですが、ネットメディアが報じているものを見る限り、当該コンサルティング会社への支払いが多額に及んでいることに加えて、吉村氏と過去の山口銀行がらみの不祥事との関わりや、吉村氏自身の女性問題をことさらスキャンダラスに伝えるもので、なにやら怪文書的な印象も否めません。

内部情報の取り上げ方からは、管理内部事情に詳しい幹部社員が書いたものとの印象が強く、吉村氏周辺の人間が”何らかの理由”から「吉村おろし」を画策したのではないか、と感じられたところです。

地銀界における「改革推進派の雄」だった吉村CEO

“何らかの理由”を探るためには、吉村氏とはどのような人物であるのか、その点を確認していく必要があるかと思います。

吉村氏は、中堅地方銀行には少ない東大卒のエリートで、早くから経営トップに可愛がられ企画畑を歩みつつ現場支店長を含め順調な出世を重ねてきたようです。

2016年にFGのトップに就任。ちょうど日銀のマイナス金利政策がスタートした時期で、地銀経営が大きな変革期を迎えたタイミングでもありました。

吉村氏はこのような環境下で、金融庁の地銀に対する強い改革要望に応えるように積極的に地域活性化の一環として新規事業への取り組みをすすめ、地銀界において「地銀改革推進派の雄」として知られるようになります。

事業的には、本業関連でもある地域におけるコンサルティング事業を手始めに、地元の特産品を全国に販売する「地域商社やまぐち」、地元企業向けに人材紹介・斡旋をする「YMキャリア」など金融以外のグループ企業を次々と立ち上げています。

農業法人「バンカーズファーム」では地元名産のワサビ生産を後押しする事業に、金融機関が本格的に乗り出したものとして、全国的に注目を集めるに至りました。

問題は、この「地銀改革推進派の雄」としての姿が周囲にどう受け止められていたのか、そこが気になるところです。

大半の地方銀行は長年、金融当局の保護政策の下で、地域における「お山の大将」として殿様商売を続けてきたのであり、その風土はと言えば事なかれ主義の銀行文化と相まって至って保守的と相場が決まっています。

保守的な考え方を持つ幹部からすれば、コンサルタント指導の下で儲からない仕事にばかり新規投資をしている社長と映っていたのかもしれません。これが”何らかの理由”の正体ではないかと、私は思います。

コンサル会社への支払いは”法外”な金額といえるのか

内部告発文書には「コンサルティングを受けて成功した新規事業がない」という旨の批判的な記載があるわけですが、地域活性化を目的とした新規事業がいきなり収益を稼ぐのはなかなか難しいのが現実です。

ただ山口FGは今年3月の日本経済新聞調査で、中核の山口銀行が収益力では堂々地銀トップに輝いています。すなわち吉村体制下の銀行の本業経営では着実に成果を上げていて、その中で金融庁の方針に沿った新たな手を打ってきたと考えれば、新規事業で収益の垂れ流しをしていたわけではないと言えると思います。

加えて内部告発文書にある「他のコンサルとは比較にならないほどの金額を支払っている」との件で、それをもってコンサル会社代表の元日銀職員と癒着関係にあるとしているのは、やや飛躍が過ぎる気がします。

外資系コンサルタント会社のコンサルティング料が高いのは常識の話であり、新規事業のプロジェクト運営であれば月額数百万円超レベルの出費になるのも法外とは言えないでしょう。

ここで言う「他のコンサル」がもし国内の中堅コンサルティング会社を指しているのなら、この比較は全く的外れなものとも言えるでしょう。

「地銀改革」を保守的な風土が阻害することを危惧

断っておきますが、吉村氏を擁護するためにこの文章を書いているわけではありません。吉村氏が新規事業をすすめるにあたって、周囲とのコミュニケーションが不足していたのは事実でしょう。

さらに、特定業者との癒着や不当な組織の私物化により会社に損失を及ぼしているようなことがあったのなら、厳しく糾弾されるべきであることに異論はありません。

しかし、私が懸念しつつこの文章を書いている理由は、地銀の保守的な体質が地銀改革の進展を阻害するようなことがあってはならないということです。

すなわち、仮に吉村氏の行動に瑕疵があったとしても、それをもって吉村氏が地銀改革の一環として手掛けてきた数々の地域活性化事業を推しすすめる手を、保守的な風土ゆえに緩めることになっては絶対にいけないと思うのです。

「山口の変」が示唆する保守的風土排除の難しさ

その観点から強く思うのは、山口FGは本件についての事実関係を内部調査に着手した旨の発表をしています。

しかし、本件は内部告発に端を発した問題であり、調査内容を吉村氏とコンサル会社代表の癒着問題にとどめることなく、内部告発に至った経緯や吉村体制下での新規事業の正当性評価を含めて、外部の第三者機関の調査に委ねる必要があるということです。

一般論として、伝統的とも言える地銀の保守的な風土が、日本各地で地銀改革進展の障害になっていることは間違いありません。

「山口の変」が地銀改革のひとつの手本とも言われてきた山口FGの改革姿勢をつぶすようなことになるなら、全国の地銀改革が一層難しい局面に追い込まれる可能性も否定できません。

地銀改革において、「保守的風土」という見えざる敵を排除することの難しさを、「山口の変」は示唆しているように思います。

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