総裁選:自民党の弱点は「ジェンダー」

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自民党総裁選、候補者が出揃った。18日に行われた日本記者クラブ主催の候補者討論会はなかなかの見応えで、自民党の底力を見せつけられた印象だ。

しかし、女性や子ども、社会的弱者へのアプローチを「一丁目一番地」と明言した野田氏を除いて、他の3人の候補者はジェンダー問題をスルー、まるで眼中にない。と、この点はいつもの自民党、ジェンダー平等と多様性を重点政策の一つに打ち出した立憲民主党を安堵させたに違いない。

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私が若い頃、「女、子どもの出る幕ではない」と言われて、女性の声が軽視され、また女性が投げかけた課題が棚上げされることがよくあった。さすがに今どき、こんな侮辱的な言葉遣いはしないものの、女性軽視の観念は社会の至る所に根強く残っている。ジェンダーに鈍感な自民党の姿勢はその典型例だろう。

ジェンダー平等は、瑣末な問題どころか、日本が目指すべき国家像の一つである。理由は2つある。まず、先進国の経済成長の必要不可欠な条件になるからだ。

2018年5月に経済協力開発機構は、北欧を事例にジェンダー平等が経済成長に貢献するというリポート( “Is the Last Mile the Longest?: Economic gains from Gender equality in Nordic Countries”)を発表した。

リポートによると、デンマーク、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの過去40年から50年にわたるジェンダー平等政策の推進は、女性の就労率を上昇させ、結果的にこれら国のGDPを押し上げてきた。女性就労率の上昇がもたらした成長率は、一人当たりのGDPに換算すると、10%から20%に相当するという。

女性就労と経済成長の関係については、国際通貨基金が2012年10月に日本への提言としてすでに報告書(“Can Women Save Japan?”)を出していた。同書は、日本が女性の常勤雇用率を日本とイタリアを除くG7の国々のレベルにまで引き上げると、日本のGDPは4%、北欧レベルでは8%の上昇が見込まれると提言した。

2012年12月に発足した第二次安倍政権は成長戦略の柱の一つに「ウィメノミクス」(のちに「すべての女性が輝く社会づくり」に改称)を掲げた。安倍氏はIMFの提言を踏まえ、女性活用を日本経済再浮上の切り札の一つにした。だが、保守的なジェンダー観に変更はなく、女性を利用はしても、ジェンダー平等には頬被り的な姿勢が見え隠れした。それが当の女性たちにそっぽを向かれ、歓迎されなかった理由だと思う。

女性が社会で活躍するためには、個別政策の羅列では不十分だ。人びとの考え方や価値観にジェンダー平等の観念を吹き込み、それを社会通念にする必要がある。

たとえば、選択的夫婦別姓は、以前の投稿でも論じたように、単なる呼称の問題ではない。自分の社会人としての存在基盤にかかわる問題である。自民党の反対派の「通称使用で十分だ」という主張は、女性が労働市場の戦力になるときには通称使用を認めるが、家庭では伝統的な女性の役割を果たすために夫の姓を名乗ることを求める、ご都合主義の極みだ。

二つ目の理由は、ジェンダー平等が今や人類が実現すべき普遍的な価値になっていて、その欠落は先進国としての日本の立場を貶め、国益を損傷しかねないからである。ジェンダー平等はキリスト教に由来する欧米発祥の観念だとして、その普遍性を疑問視する声もある。しかし、欧米由来といえば、近年日本外交が普遍的価値と定義する、自由、民主主義、基本的人権、法の支配も全く同じである(「拡がる外交の地平」)。

自由や民主主義、人権に比べるとジェンダー平等の浸透度はまだ低いかもしれない。だが、性別、性的指向性、障がいなど個人の努力ではどうにもならない属性に基づく差別を拒絶し、ありのままの自己が受容される社会を否定する人はいないはずである。

イギリスの政治学者アン・フィリプスは、女性の抑圧を伝統文化だと正当化する主張に対し、こういった主張をするのは大体が女性の抑圧によって利益を享受する男性であり、彼らは文化を盾に自分たちの特権を擁護しているだけだと論破した。ジェンダー平等を苦々しく思うのは女性や弱者の抑圧や差別による利益の既得権者、ごく少数の限られた男性であり、大多数の男性には福音をもたらすはずだ。

今回の東京オリンピック・パラリンピックでは、森喜朗氏など複数の大会関係者がジェンダー平等を蔑ろにする発言によって辞任に追い込まれたばかりか、国際社会にジェンダーに無知、無神経な国という印象を与えて日本のイメージを著しく傷つけた。

多様な背景をもった人びとを受容する寛容な国家の構想は、カーボンニュートラルと並ぶ成長戦略になり得ることを忘れてはならない。

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