疑惑を説明しない横浜市長に指摘 – 郷原信郎

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横浜市長選挙に出馬表明していた山中竹春氏の「市長としての適格性」に根本的な疑問を持つことになったのは、山中氏に対抗する形で立候補の意志を一旦表明していた私の下に、直接、間接に山中氏を知る人達から、彼の専門性、パワハラ体質、経歴詐称の疑いなどの様々な問題についての情報提供があり、「絶対に横浜市長にしてはならない人物」であるとの真剣な訴えがあったからだった。医療情報学、データサイエンスの専門家、医師など様々な立場の人達からも、山中氏に関して公表されている資料から、その能力・資質等に対する根本的な疑問の声が寄せられていた。

コンプライアンス顧問等として、長く横浜市のコンプライアンスに携わってきた私の最大の関心事は、市長選挙によって、市民や地域社会の要請に応えられる横浜市政を担う市長が選ばれることだった。立憲民主党推薦の山中氏が有力候補となったことで、横浜市のコンプライアンスに重大な支障が生じることが懸念された。それを阻止するめの最も効果的な方法は、自分自身が立候補することではなく、特定候補の当選阻止をめざす「落選運動」(公職選挙法が規定する「当選を得しめない目的で行う活動」(142条の5等)を行うことだと考えた。

そこで、立候補意志を撤回して落選運動に転じることを、8月5日の記者会見で明らかにし、その後、ブログ、YouTubeでの発信、インターネット上でのチラシのアップ、インターネット広告などの手段で、山中竹春氏と小此木八郎氏の当選を阻止する活動を行ってきた。

新型コロナ感染爆発の影響で「反菅政権」の世論の高まりの中で、選挙戦が進むにつれ、山中氏優位の情勢が強まる中、山中氏の落選運動に特に注力した。しかし、8月22日に実施された選挙は、山中氏が他候補を大きく引き離して当選という結果に終わった。

落選運動での山中氏に関する指摘は、大別すると、経歴や専門性に関するウソと、自己の要求に応じさせるための恫喝の疑惑に関するものだった。山中氏側が説明責任を全く果たさず、黙殺し続けてきたこともあって、それらに関する指摘は、残念ながら、多くの横浜市民には届かなかった。

それだけに、市長に就任した山中氏が、就任後に、ウソ恫喝の疑惑にどう向き合い、どう説明するのかは、「山中市長」の信頼性の根本から問うものとなった。

しかし、市長に就任してから約3週間が経過した今も、山中氏がウソ恫喝の疑惑に真剣に向き合っているとは到底言えない姿勢をとり続けている。そのことを、新聞、テレビの大手メディアは、ほとんど報じようとしない。

本稿では、まず山中氏のウソについて、経歴詐称の全体像を明らかにし、それに関する市長会見での説明の「さらなるウソ」を指摘する。山中氏の恫喝については、「横浜市大理事長らへの不当圧力問題」の事実解明を求める横浜市会への請願審査が9月24日の常任委員会(政策・総務・財務委員会)で行われる予定となっているほか、山中氏自身を被告発人とする強要未遂罪の告発状が横浜地検に提出され、受理に向けて審査中だが、これらについての市長会見での質問への対応についても述べることとしたい。

山中氏の正確な学歴・経歴と、「詐称」の中身

現在までに判明している山中氏の横浜市大教授に就任するまでの正確な学歴・経歴は、以下のとおりである。

1991年4月 早稲田大学政治経済学部入学

1996年3月 早稲田大学政治経済学部卒業

1998年3月 早稲田大学理工学部数学科卒業

2000年3月 早稲田大学理工学研究科(修士課程)修了

2000年4月 九州大学医学部助手

2002年7月~2003年9月 アメリカ国立衛生研究所(NIH)に留学

2003年11月~2004年6月 アメリカ国立衛生研究所(NIH)ビジティングフェロー2004年7月 財団法人先端医療振興財団 研究員

2005年1月 国立病院機構九州がんセンター 臨床研究部腫瘍統計学研究室 室長2012年3月 国立がん研究センター東病院臨床開発センター先端医療開発支援室長2013年4月 国立がん研究センター 生物統計部門 部門長

2014年4月 横浜市立大学医学部 教授

一方、山中氏が、横浜市大教授就任後に、研究者の経歴・業績等を紹介する外部サイトであるresearchmap(リサーチマップ)や大学の研究室ホームページの個人ページに掲載した学歴・経歴は以下のとおりである。山中氏は、横浜市のプロジェクト学外での講演、シンポジウム等の学歴・経歴でも、ほぼ同様の記載をしている。(太字は上記と異なる部分)

1995年 早稲田大学 政治経済学部 経済学科

2000年 早稲田大学大学院 理工学研究科 数理科学専攻

2000年 九州大学医学部附属病院 医療情報部 助手

2002年-2004年 米国国立衛生研究所 NIH/NIEHS リサーチフェロー

2004年-2005年 先端医療振興財団 臨床研究情報センター 研究員

2006年-2012年 国立病院機構九州がんセンター 臨床研究部 室長

2012年-2013年 国立がん研究センター東病院 臨床開発センター 室長

2013年-2014年 国立がん研究センター 生物統計部門 部長

2014年 横浜市立大学 医学部 教授

山中氏が学内・学外に表示していた「学歴・経歴」と、正確な学歴・経歴との相違点は、(1)早稲田大学政治経済学部の卒業年次が、正しくは1996年なのに、リサーチマップでは、1995年と1年繰上げられている、(2)1998年早稲田大学理工学部数学科卒業の記載が欠落している、(3)早稲田大学大学院 理工学研究科の(修士課程)の記載が欠落している、(4)2002年~2004年のアメリカ国立衛生研究所(NIH)への留学期間全体が、「米国国立衛生研究所 NIH/NIEHS リサーチフェロー」とされている、の4点である。

「学歴・経歴詐称」と「博士号取得」の関係

これらの詐称は、いずれも、山中氏の「博士号取得」に関連すると考えられる。

多くの理学系研究者の学歴は、学部卒業後修士課程2年、博士課程3年在籍し、博士号を取得するというものだ。しかし、山中氏の学歴は、上記のとおり、それとは異なる。政治経済学部を(1年留年して)5年で卒業した後、学士入学で理工学部数学科に2年間在籍し、その後理工学大学院の修士課程を修了したというものだ。九州大学医学部の助手となった時点では博士号は取得しておらず、その後、米国NIH留学中の2003年10月に、早稲田大学で「博士論文」の認定を受け博士号を取得した。大学院博士課程で取得する「課程博士」ではなく、「論文博士」だ。

ところが、山中氏は、学部卒業年次を1年遡らせて「1995年 早稲田政経学部卒」とし、「1998年 数学科卒」を除外し、「2000年 大学院修了」と表示して「修士課程」を除外することで、「学部卒業後、大学院に5年在籍」という、一般的な理学系研究者と同じ外形の学歴になっている。それに加え、博士号「取得後」に、正式な連邦職員として採用される「NIH リサーチフェロー」として勤務していたように詐称することで、「大学院博士課程を修了し、博士号を取得して、米国NIHに正式職員として採用された」という輝かしい経歴を装ってきた。

このような学歴・経歴の偽装に関連するのが、横浜市大の医学部臨床統計学教室のホームページの教員の経歴の記載の経緯だ。

研究者が学歴を記載する場合、

「△年 〇〇大学院〇〇研究科 博士課程修了 博士(〇〇学)」

と記載するのが一般的だ。横浜市大データサイエンス学部の教員も、ほとんどが、「博士課程修了」と記載した学歴を、ホームページ用の記載用として提出したはずだ。ところが、実際の同学部ホームページでは、同学部の教員の学歴の記載は、すべて、

「△年 〇〇大学〇〇学部卒業 ◇年 〇〇大学大学院〇〇研究科〇〇専攻修了」

と、学部卒の年次と大学院修了の年次のみの記載に単純化されている。

このような記載の単純化は、教授就任後の山中氏の指示によるもののようだ。山中氏は、上記(1)の「政経学部の卒業年次の1年繰上げ」を行い、(2)の「理工学部数学科卒」を記載せずに、「学部卒業の5年後に大学院を修了」であるかのように装うことによって、学歴を他の「博士課程修了者」と全く同じ外形にしているのである。

「NIHリサーチフェロー」を詐称することの意味

そして、そのような「博士課程修了・課程博士の偽装」を、一層補強することとなるのが、大学院終了の2年後の2002年からの「NIH リサーチフェロー」の詐称だ。

米国国立衛生研究所NIHにおけるリサーチフェローというのは、「博士号を取得し、期間限定で更新可能な任命を受けているNIHの職員」であり、博士号取得が必須のポストだ。2002年の時点では、山中氏は、博士号を取得しておらず、実際には、2002年の渡米時は、単なる留学生(NIHリサーチャー)であったのだから、「2002年 NIH リサーチフェロー」は全くのウソである。しかし、「リサーチフェロー」と詐称することによって、その時点で、博士号を取得していたこととNIHの正規職員であったことを装える。実際に、山中氏は、横浜市大内部でも、「博士課程で博士号を取得し、NIH リサーチフェローとして雇用されていた」と認識されていた。

山中氏にとっては、「1995年 早稲田大学 政治経済学部卒」として卒業年次を1年遡らせ、「1998年 理工学部数学科卒」を記載せず「2000年 早稲田大学大学院 理工学研究科 修了」とすることで、1年留年していたこと、博士課程を経ていないことを隠し、「2002年-2004年 NIH リサーチフェロー」の詐称で、他の研究者と同等以上の経歴を装うことができたのである。

市長選出馬に当たっての「学歴・経歴詐称」への対応

しかし、山中氏が2014年に横浜市大教授に採用される際に提出した履歴書(市会議員に開示済)では、早稲田政経学部の卒業年次も、数学科の学部卒業も、正確に記載されており、学歴・経歴に詐称はない(「NIH 研究員」が雇用契約のある研究員を意味するとすれば、厳密には正確な記載ではないが)。また、市長選に出馬することになった後の学歴・経歴の記載は、選挙公報の記載も含め、明白な虚偽の記載はない。

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