潜水艦問題めぐる米仏豪の行方 – ヒロ

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一般の方にはあまりなじみがない「事件」かもしれません。オーストラリアがフランスに発注していた潜水艦建造契約(当初契約額約4.3兆円)を突如キャンセルし、アメリカが原子力によるその秘蔵の潜水艦建造技術をオーストラリアに供与すると発表。フランスは激怒し、フランス外相がアメリカとオーストラリアの大使を召還してしまったのです。

この話、フランス、オーストラリア双方に言い分があるわけですが、結論から言うとフランスはこのキャンセルに対して結局何もできず、オーストラリアは先送りになった潜水艦がいつ、納入されるかわからず、アメリカはバイデン大統領の外交下手と指摘されかねないつまらない結果となりそうです。

背景にあるのが9月15日に発表されたアメリカ、英国、オーストラリアによる安保協力「AUKUS」の創設に伴うものです。軍備増強のピッチが速い中国に対してインド太平洋の軍事的バランスを保つためには地政学的にオーストラリアの軍事的強化が望まれるところ。ところが潜水艦に関して言えばオーストラリアが持つ潜水艦は古く、退役が迫り、早く潜水艦を作らないと軍事力強化どころか潜水艦がなくなるところまで追い込まれていました。

2016年4月にフランスとオーストラリアは新型潜水艦を建造する契約したもののなかなか始まらず、雇用も何も展開しません。おまけに契約金額だけが当初の500億オーストラリアドルから現在は約900億オーストラリアドルに見直されているのです。これはオーストラリアも黙っていられなかったのでしょう。

そこでオーストラリアは打開策を図ります。フランスと契約した通常動力型ではなくアメリカの技術援助により原子力潜水艦にして最新技術を導入するという「悪魔のささやき」にうなづくのです。たぶん、これは今年の6月のG7のサミットの頃から話が始まったのではないか、とされます。

さて、ここから先を推察してみましょう。

まず、アメリカはフランスとの関係修復に向け、バイデン氏、マクロン氏の電話会談が今週見込まれています。次いで24日に日本とインドも加えたQUADがワシントンで開催されるため、モリソンオーストラリア首相がバイデン氏と対面型の会議をします。その際、CNNによれば英国のジョンソン首相も対面型で打ち合わせをすることが見込まれています。

アメリカはフランスの怒りを抑えながら最後は「オーストラリアが決めたこと」で逃げるでしょう。モリソン首相も十分言い分はあるはずで契約書がどうなっているかわかりませんが、フランスが逃した魚は大きかったということになります。本来であれば魚を逃したマクロン大統領も責められるところですが、そもそも同氏の支持率が4割前後で低位安定となっており、フランスの国民感情的にはインド太平洋はあまりにも遠い世界。よって政治家レベルの演技でいったんは収まるはずです。

ただ、私が不思議だな、と思うのはアメリカがいくら戦略的パートナーであるオーストラリアでも秘蔵の原子力潜水艦の造船技術を本当に提供するのか、ということ、オーストラリアにはそんな潜水艦を造船するインフラは全くないため、港づくりから始めなくてはならず、気の遠くなる話をしています。

潜水艦が進水する頃にはバイデン氏は大統領ではないわけでアメリカが政権交代や外交事情が変わった際にもアメリカの踏み込みすぎている「お約束」が反故にされないのか、一抹の不安は残ります。フランスの通常型潜水艦ですらなかなかできない話が原子力となれば2030年代初頭までにできるかどうか、というレベルの話になります。中国が保有する原子力潜水艦は12隻。アメリカの68,ロシアの29に対抗するため更に建造するはずです。今となっては海に囲まれたオーストラリアが無策であったともいえるでしょう。

今回の顛末で最大の注目点はバイデン氏の外交下手がまた出た、ということです。バイデン氏は何やら意気揚々としているように見えるのですが、側近たちはひやひやしながら日々の動向を見守っているとしか思えません。思うに周りが「言動には注意して」と言って「わかっている」と言いながらあれーという失敗をやらかしたり、十分な戦略的思想構築をしないまま行動に突っ走るところが見て取れ、今後「アメリカの大失態」が出てくるリスクは大いに勘案しておいたほうがよさそうです。

では今日はこのぐらいで。

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