山火事の影響で「オーストラリアより広い範囲でプランクトンが異常発生」したことが判明

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オーストラリアでは2019年から2020年にかけて大規模な山火事が発生し、人間や動植物に甚大な被害が及びました。山火事の影響は陸地にとどまらなかったようで、衛星が記録したデータなどを基にした新たな研究により、南アメリカとニュージーランドの間に広がる南極海北部で「オーストラリアより広い範囲で植物プランクトンの異常発生が起きた」ことが判明しました。

Widespread phytoplankton blooms triggered by 2019–2020 Australian wildfires | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-021-03805-8

EXPERT REACTION: Smoke from 2019/20 bushfires spawns phytoplankton bloom larger than Australia – Scimex
https://www.scimex.org/newsfeed/smoke-from-201920-bushfires-spawns-phytoplankton-bloom-larger-than-australia

Gigantic Plankton Bloom Larger Than Australia Spawned by Intense Bushfire Blazes
https://www.sciencealert.com/australia-bushfire-smoke-spawned-a-plankton-bloom-larger-than-the-entire-continent

オーストラリアでは2019年9月から数カ月間にわたり、高温と乾燥による大規模な山火事が発生しました。この山火事による被害や、生じた煙が風にのって海側に広がっている様子を捉えた衛星写真は、以下の記事で確認できます。

数カ月にわたりオーストラリアで続く山火事の凄まじい被害の記録、なぜこれほどまでに壊滅的な被害をもたらしているのか? – GIGAZINE

by matthew abbott

タスマニア大学Center of Excellence for Climate Extremes(CLEX)などの研究チームは、衛星データや地上での測定データを利用して、山火事の煙が移動した経路を追跡しました。その結果、南極海北部で2019年12月~2020年3月にかけて発生した植物プランクトンの急増が、山火事の煙によって引き起こされたものであることが判明しました。植物プランクトンの異常発生が起きた範囲は非常に広く、オーストラリア大陸を上回る面積にわたっていたそうです。

タスマニア大学の生物海洋学者であるPete Strutton氏は、「この地域における植物プランクトンの異常発生は、過去22年間の衛星記録では前例のないものであり、約4カ月間続きました」とコメント。12月~3月は通常、植物プランクトンが最も少ない季節だそうですが、山火事の煙がその傾向を逆転させてしまったと指摘しています。

植物プランクトンの異常発生を引き起こした原因となったのは、山火事の煙が成層圏の風にのって陸地から遠く離れた海まで運ばれ、煙に含まれている鉄が海に降り注いだことだと考えられています。植物プランクトンは光合成を行うために鉄を必要とするため、煙のおかげで海洋中の鉄分濃度が上昇した結果、植物プランクトンが異常発生したとのこと。研究チームの推定では、山火事によって海洋中の鉄分濃度は通常の3倍になったそうです。

タスマニア大学の博士課程に在籍するJakob Weis氏は、オーストラリアの山火事による植物プランクトンの増殖は非常に素早く、火災の発生から数日~数週間ほどでプランクトンの量が変化したと指摘。また、期間中は常に一定の割合で煙が降り注いでいたというわけではなく、たとえば2020年1月8日の山火事で発生した煙は、1月に降り注いだ鉄やすす粒子(ブラックカーボン)の25%を占めていたとのこと。


また、植物プランクトンは光合成を行うため、今回の異常発生によって大量の二酸化炭素を吸収しました。オーストラリアの山火事では7億1500万トンもの二酸化炭素が大気中に放出されましたが、南極海で異常発生した植物プランクトンは、山火事で放出されたのとほぼ同じ量の二酸化炭素を吸収したと研究チームは推定しています。

しかし、植物プランクトンが吸収する二酸化炭素の量は光や温度の条件で変動する上に、何らかの形で二酸化炭素が再び放出された可能性もあるため、山火事の影響を相殺したかどうかは不明だそうです。

Strutton氏によると、今回発生した植物プランクトンの異常発生は、「サハラ砂漠全体を数カ月間にわたり中程度の草地にしたのと同レベル」の二酸化炭素吸収効果をもたらしたとのこと。「この研究は、オーストラリアからのエアロゾルが数千キロも離れた場所に与えた可能性がある大きな影響を示しています。世界の海洋監視システムがなければ、私たちはこれを知りませんでした」と、Strutton氏は述べています。

スウェーデンの自然歴史博物館で博士研究員を務めるChris Mays氏は、植物プランクトンの異常発生はその他の動物にとって致命的となる可能性があると主張。「1回の異常発生で数え切れないほどの動物がたった数日で一掃されてしまい、淡水湖や沿岸地域に動物がいない『デッドゾーン』が残る可能性があります」と述べ、植物プランクトンの異常発生は生態系に深刻なダメージを与える可能性があると警告しました。


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