書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。
書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。（ロゴデザイン・外山真理子）
今回の規定テーマ『風流』について考えていて気づいたこと。食べ残しの弁当は『侘び』、賞味期限に過ぎた弁当は『寂び』。
それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう！
書き出し自由部門
秋の半袖に雨が冷たい。
紅井りんご
季節と袖丈を、敢えてズラすことで秋を体感させた。高度な袖テク！
7さい、りんごで始まらないしりとりを知った。
花惑
うまく行かなかったときは全て柔軟剤のせいにした。
いそうろう
悪魔に魂を売ってしまった。人前で蓋の裏を舐めたのだ。
いずも
単なる行儀の悪さを、悪魔との契約にしてしまうかっこよさ！
幸子の体を隠しているベーコンを、一枚いちまい剥がしていく。
昼行灯
７畳半の暗闇で、奴の気配を感じ取った。
DANDANだんばこ
青い瞳の底で金魚が泳いでいた。
桜草
交換日記が2冊目になった僕たちの2年目。
こんどう巨神兵
このまま交換日記の関係で終わっていいのか？
「あ、いいな」を皆に伝えて笑われてるあの子。僕はそれ、わかるのに。
正夢の3人目
妥協した大好きだから言葉にしないと不安なの。
正夢の3人目
正夢くんの作品を読む度に、感受性の強い中年が平穏に暮らせる社会について考えます。
バーベキューに行けるような人間になるために、山に籠もって三年が経った。
もんぜん
東京で5000人を超えた日、元カレから連絡が来た。
七世
道場破りのえくぼがキュートだ。
モンゴノグノム
夕方になって、番長が電柱から降りてきた。
タカタカコッタ
もう化粧を濃くするぐらいしかすることがない。
井沢
化粧が濃い人の心理であり、真理。
結局俺は「親戚にいて欲しいおじさん」にしかなれない
メスゴリラ師匠
私が思い浮かべる染五郎とあなたが思い浮かべる染五郎は、別人だ。
伊勢崎おかめ
便意が、全てを淘汰していく。
にかしど
僕の場合は、淘汰というより凌駕。
つづいては規定部門。今回のモチーフは『風流』でした。伝統に囚われない、現代の侘び寂びが集まりました！
規定部門・モチーフ『風流』
思い出したように風鈴が鳴る。
人馬一体勘
いま鳴った風鈴は、５分前に鳴る予定だったかもしれない。
風鈴が群れをなして南の空へ飛んでいく。遠ざかっていく音が、夏の終わりを告げる。
amanatz
知らない人の銅像、読み取れない石碑、朽ちかけた順路の看板。
八王寺義昭
ビニール傘から見る夏の月は蕩けていた。
モンゴノグノム
子どもが寝ている部屋の静かさを味わっている。
鯨谷いさな
まずい秋刀魚もある。
suzukishika
美味さには満足があり、不味さには趣きがある。
夕方に鳴る錆びた自転車のブレーキ音。
インターネットウミウシ
漫画が並んでいる。途中の一巻だけ、最初の巻のとなりにいる。
ウウタルレロ
なんの花かわからない花びらが池の隅に大集合しはじめた。
モンゴノグノム
拍手が小さくて遅い。
モリダイ
君の頭、僕の眼鏡が反射する。
海蛍
空きテナントの床に影がまっすぐ。
昼行灯
足の小指の爪が無くても、ペディキュアをほんの少し。
ろっさん
俺が風流と思えば風流。一連の作品からそれが本質のような気がしてきました。
何にでも「エモい」と言う彼女が突然「風流」と言うようになった。
みよおぶ
閉店のメロディに追い出され、空いっぱいの満月。
紅井りんご
これなんかは「エモめの侘び」だと思う。
焼き網が熱くなるのを待つだけの時間。
午前0時
「けっこうなお手前の、抹茶ラテフラペチーノでございました」
さくさく
両手に「侘び・寂び」プレートを握りしめて、師匠は静寂に耳を澄ませた。
鐘の音なら「侘び」カラスの声なら「寂び」
鹿威しが鳴り、デスゲームがはじまった。
葱山紫蘇子
にじり口からゾンビが入ってきた。
葱山紫蘇子
茶室パニック！武器が茶筅のみ！
それでは次回のモチーフを発表します！
次回モチーフ
『もうひとつの顔』
次回のモチーフはもうひとつの顔。主人公が見せる別の一面がテーマです。
ベタな例で言うと普段は平凡なサラリーマン、でもその正体はスーパーヒーローってパターンです。もちろんヒーローである必要はなく、逆に悪党だった。また普段は怖面の上司なのに内面は乙女だった、見た目は癒し系女子なのに実はサイコキャラというようなギャップもありです。ミステリアスで魅力的なキャラを創造してください。
締め切りは９月２４日、発表は９月２６日を予定しています。下記の投稿フォームからご応募下さい。力作待ってます！
最終選考通過者
ビールおかわり prefab 石けん スズメ ウチボリ 寂寥 彩 eat_sushi 節度亜図夢 七寒六温
