スタミナがなかった今年の太平洋高気圧~月イチ天気

デイリーポータルZ

気象予報士、増田雅昭さんに先月の天気の振り返りと今月の見通しを聞きます。

・お盆の頃の雨は梅雨だった
・このまま涼しくならずにもう一度暑い日が来る…?
・牛乳とお天気の関係

など、今年は気象予報士泣かせの夏でした。

牛乳と気温の話

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(対談はじまりに西村さんが席を外す)

林:
西村さん、今日牛乳の集金が来るってさっき言っていたのでそれかな。
増田:
昔玄関のポストの近くに木箱がありましたよね。
林:
あれって何の冷蔵もなく玄関に放置してたんですよね。
小林:
確かに。
増田:
そうですね。
林:
すぐ取るからいいんですかね。
増田:
もしかして、朝晩の気温が低かったからじゃないですか。ちょっと強引かな。

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戻ってきた西村さん

西村:
牛乳の集金で払ってきました。
林:
牛乳って今も玄関に放置されるんですか?
西村:
そうです。今牛乳箱が保温のやつで、凍らす水色のやつあるじゃないですか。あれ入れてくれますよ。
林:
今ちょうどその話をしてました。昔はなんで牛乳を放置していたんだろうって。
西村:
昔は放置してましたよね。朝涼しいから。
増田:
やっぱりそうですよ。これも天気と関係が。
小林:
気候変動みたいな。
林:
朝晩温度が今は下がらないのは都市化と関係あるんですか?
増田:
都市化と関係がありますね。都市部が周辺より気温が高くなるヒートアイランドっていわれますけど、朝晩が特に周辺との気温差が大きくなっています。
西村:
都市化すると気温が上がるというのは、つまり建物がいっぱい建つからということですか。
増田:
それもあります。コンクリートなどが昼間に熱を吸収して蓄積して、建物とか地面とか。それを夜に放出するので夜の気温が下がりにくくなる。
西村:
昨日地理院地図というサイトで明治時代の水があった場所と今の地図を重ねる地図を見ていたんですけど、ほとんどが田んぼなんですよ。もしかして、これって都市化の温度の上昇と関係あるのかな。田んぼのほうが気温が上がりにくい。

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黄色い部分が明治時代の低湿地(国土地理院 地理院地図Vectorより)

増田:
そうですね。たとえば田んぼだったら水分が多いので、蒸発する時に空気の熱が奪われ温度が下がります。今の東京は水田もないですし、土の部分も少なくなっている。なので、気温が上がりやすくなる。
西村:
アスファルトと土の道って違うんでしょうね。
増田:
うち実家が田んぼに囲まれてますけど、風が吹いてくると涼しいですよ、夏の暑いときでも。川も水がいっぱいあるので、川の周辺は都市部の中では涼しいですね。ただ、川が暗渠になっている部分もあり、そのぶんは昔より気温が上がりやすくなっているでしょうね。
増田:
牛乳と気温で言えば、猛暑の時は牛さんが出すお乳が減るので、乳製品に影響が出るというのは言われますね。バター品薄とか。
西村:
天気関係あったんだ!
増田:
要因のひとつに挙げられますね。
小林:
ホルスタインって、ドイツ北部で寒いところなので、乳牛は暑さに弱いと聞いたことがあります。
西村:
高原ですもんね。日本で飼育しているところも。
小林:
涼しいところ。

8月は見込みが外れた

林:
8月の最高気温は36.8℃でした。8月10日でしたね。前回増田さんが8月7日・8日ぐらいから強まるんじゃないかという話でしたが……ちょっと不満そうですね。
増田:
今回は正直大反省ですね。見立てとは違いました。特に8月の半ば、先月お伝えした時は8月7日・8日ぐらいから夏の高気圧がどーんと強まって、晴れ→暑い→晴れ→暑いとどんどん熱が蓄積されていって、お盆近くに猛暑が出るんじゃないかという読みだったんですけど、お盆頃には夏の高気圧がしぼんじゃって、前線が停滞して梅雨みたいになってしまいました。
西村:
雨がすごく降りましたね。
増田:
コンピューターだけ信じてたらこうなるんだなって。
林:
後出しでいうと原因は太平洋高気圧が弱かったということなんですか?
増田:
太平洋高気圧がいったんは張り出そうとしていたんですよ。8月の上旬から。それが全然もたずにシューーっとしぼんじゃって全然だめでしたね。完敗ですよ。
小林:
ちゃんとしてなかったんですね。
増田:
全然ちゃんとしてなかった。台風を導く先生とかいろいろ偉そうなこと言ってましたけど。

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8月の月イチ天気から

林:
結局校内暴力が広まってしまった。
増田:
台風上陸しましたしね。
林:
台風3つぐらい出て。
増田:
一番東京で上ったのが36.8℃。台風が北上してきたことによって、南の海から熱い空気が北上して、ベースが上がって36.8℃までなんとかいったという感じですね。
林:
36.8℃の時の天気図は高気圧バーンって思ったら、これで暑くなるんですね。

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東京で36.8℃が出たときの天気図。低気圧が目立つ

増田:
この低気圧、元台風ですけど、それが東北ぐらいまで亜熱帯の空気を引き上げましたよということですね。
林:
こういう感じで引き上げた。

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低気圧にむかって風が吹く

林:
36.8℃って高気圧が上げたんじゃなくて、台風が引き寄せた。
増田:
見立てが全然違ったんです。

今年の高気圧はスタミナがない

西村:
今年は高気圧の勢力が弱かった感じですかね。
増田:
弱かったしスタミナがなかったですね。7月の梅雨明けのタイミングで強まったが、もたず。8月の上旬に強まり始めたのも、もたず。8月の終わりに強まったのも、もたず。
林:
もたない理由ってわかるんですか?
増田:
熱帯の海の上の大気の活動が普段どおりじゃなかったんです。台風が8月のはじめに3つ来ましたけど、その台風を見てもしっかりした形ではなかったし、南海上が真夏本来の大気の動きになってないまま終わっちゃったっていう感じですね。
普通は夏場なら熱帯の周辺が一番暑くなるわけですよね。そこで上昇気流ができて、ボコボコいっぱい雲ができて、それが渦を巻いたりしたら台風になって、発達して北上していくのが夏のパターンですけど、熱帯の雲がボコボコ湧くというのがあまりはっきりしてなかったかな。
林:
あの3つの台風もきれいなでき方じゃない?
増田:
なんとか台風になったっていうレベルです。雲も大きい渦にはなってないですよね。
林:
台風の目が見えるような台風の形ではないですよね。

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 なんとか台風になった3つの台風
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雲の形もぼんやりしている

増田:
スカスカっていう感じですよね。熱帯の雲が生まれるところでできた上昇気流が高気圧に降りて高気圧を強めるんですけど、その効果が今年は弱かった。

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月イチ天気でよく出てくるこの図のことです

林:
供給源が弱かった。
増田:
と考えるのが今のところ妥当かな。

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お盆の雨は秋雨ではなく梅雨だった

林:
今月は増田さん振り返りに元気がないですね。
増田:
8月10日前後で、お盆のころの前線が見えていたので。これやっちゃったなと思って。そのぐらいから言い訳を考え始めてました。

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林:
これは秋雨前線なんですか? 
増田:
議論があったんですよ。8月上旬の立秋を過ぎてるから秋雨前線じゃないかって声がはじめはありました。
ただ秋雨前線は北から秋の空気が来てできる前線ですけど、今回は冷たい空気がなくて、梅雨と同じ感じ。
台湾や、もっと遠くインドの近くベンガル湾とか、あっちのほうから大量の水蒸気がやってきてる状態で、秋雨前線ってよりは梅雨前線と同じ形だねって気象関係者から声が上がってましたね。
林:
気象関係者が議論する場があるんですか?
増田:
社内で。あとは今だったらSNSで言ってる人もいますし。僕もいつもどおり秋雨前線って言おうかと思ったけど、あれっ今年は形が違うぞと感じて。はじめ秋雨前線って言ってた人たちも、しれっと言わなくなってましたね。
なので雨の降り方が梅雨っぽかったですよね。九州や中国地方などで大雨となって、さらに西で落としきれなかった雨が東日本でも大雨を降らせて。秋雨の降り方と違いますね。
林:
秋雨だとどうなるんですか?
増田:
秋雨だと東日本中心に大雨になりやすく、北から秋雨前線が降りてくるタイミングで激しい雷雨が多いのと、台風が絡んで秋雨前線が動かなくなって大雨になるんですけど、今回のお盆のときはそういう降り方ではなかったですよね。
西村:
西日本ですごい降ってましたね。

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増田:
完全西から流れてきてますよね。遅すぎる梅雨の戻りというか、そんな感じでしたね。
林:
梅雨明けてすごい時間かかってまた梅雨が来るとは。

9月の寒さは秋雨前線です

林:
9月に入ったとたんものすごく寒くなりました。
増田:
これは完全に秋雨前線です。雨が降ってガクッと気温が下がってるでしょ。なんで下がってるかというと、前線の北側に秋の空気があって、雨雲と一緒に南下してきて気温が下がるわけです。梅雨前線ではこういうふうにならないですから。

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9月に入って寒くなってからの天気図

西村:
前線が。
林:
これが秋の空気なんですね。
増田:
なので北の高気圧は秋のカラッとしている高気圧ですね。南の海にあるのが夏の高気圧なので小笠原とか伊豆諸島は蒸し暑い。この天気図だと、鹿児島も蒸し暑いと思いますよ。33℃、34℃いくはずです。

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天気図の前線の位置で温度がガラリと違う(気象庁ホームページより

林:
どこかで前線の前後で温度がガラッと違うって話を聞きました。
増田:
あさチャン!って番組じゃないですか(笑)。温度差が南と北で大きいのが秋雨前線の特徴で、梅雨前線は温度の差はあまりない。秋雨前線は温度の差がはっきりしているので、雨が降ると面白いように気温が下がる。
ほんとはもっと暑い夏のあとに秋雨前線が来ると、一気に涼しくなって気持ち良いんですけど。
暑くて暑くてたまらない!プシュー!うめー!みたいな。今年はそういう感じはなかったですよね。

9月下旬に台風がらみで熱くなるのではないか

林:
このまま寒くなるわけではないんですよね。
増田:
アップダウンしながらだんだん気温が下がっていきます。
西村:
また暑くなることもある。
増田:
10日前後とかにはまた関東から西では30℃超えてますよ。
林:
また太平洋高気圧がぐぐっときますか?
増田:
完全に夏みたいな感じではなくて、9月の半ばぐらいまでは秋雨前線が本州のあたりをうろちょろしてます。その中でちょっとだけ北へ上がったタイミングで暑い空気が入ってきて、30℃ぐらい行くかな。でも晴れも長く続かない。前線ちょっと下がれば涼しくなる。
西村:
2〜3日曇って雨が降ってが続く感じ。
増田:
ただ9月の後半にもう一回暑くなるタイミングがあると思うんですよ。このまま秋へ一直線ではないので、30℃とか超えるタイミングがあると思いますし、あとは台風ですね。今年はあまりにも静か。
西村:
8月に3つぐらいきて、その後しーんとしてますね。
増田:
9月半ばまでは台風が見えてないので、9月後半からもしかすると急にボコボコボコってくるんじゃないかな。
西村:
9月なら全然ありますよね。
増田:
10月まではまだまだ発生しますから。
林:
今年の台風の発生数は…12個。
(編集注:対談日は9/2その後9/6に13号、9/7に14号が発生しました)

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今年の台風発生数(気象庁ホームページより

増田:
平年よりちょっと少ないぐらいですね。あと12〜13個できてもおかしくない。
増田:
9月の後半に暑くなるんじゃないかっていうのは、台風とリンクするんじゃないかと思います。台風が熱帯でできて、上昇した空気が下降して高気圧を膨らますメカニズムが9月の後半にあらわれてくるんじゃないかな。
林:
高気圧の活動が盛んになる陰には台風がいる。
増田:
だいたい夏~秋は毎度「台風が来るかも」という話になってしまうんですが、今月こそはそういう気がしますね。

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年齢によって天気予報に期待しているものが違う

林:
増田さん、この前雨が降ったのをお詫びします!ってTwitterに書いてましたが、増田さんが雨にしたわけじゃないからいいんじゃないですか。
増田:
お盆の頃の雨が続いていて、ようやくその長雨が終わって、「今日は洗濯日和です」ってわざわざ言ったら、ザーって降ったんです。よけいなこと言わず、「晴れ間が出ます」くらいにしておけば良かった、と。

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「『晴れ間が出ます』くらいにしておけば良かった」

増田:
ちょうど家に帰る時にうちの周りもいっぱい干してあって。一軒一軒謝りたいような気分でした。
西村:
洗濯物の責任を全部負わなくていいんですよ。
増田:
気象予報士は天気だけ言っておけばいいんだという声もあるんですけどね。
林:
そういう責めの姿勢は大事ですよね
増田:
小林さんどっち派ですか?生活のこと言ってほしい派ですか?
小林:
生活の方もちょっと言ってほしいですね
増田:
年齢が高くなるほど、不要だっていう方は多い気がしますね。
小林:
自分で判断するからってことですか。
増田:
若いほど、そういうこと言ってくれるのが嬉しいって割合が増えますよね。
西村:
年齢で受け取りの意識が違っているっていうのは面白いですね
増田:
昔の天気予報はそこまで言わなかったのが多いので、年配のかたはそれに慣れてるんでしょうね。あとは自分の経験値がどんどんあがってるから言われなくても分かるというのもあるでしょうし。逆に今の若い世代は生活情報を言うのが当たり前の天気予報で育ってるから言ってくれるのが嬉しいのかも。
林:
アプリで雨が降るとかピンポイントでわかるみたいに、今日は洗濯する日ですって出ると考えなくていいから楽ですね。
増田:
でしょ。そう思って洗濯日和って言ったらザーだったんです。
林:
コインランドリー行けばいいんですよ
増田:
次の日、そうポイント出せばよかった。コインランドリー日和。
小林:
ステマ感がありますね。
林:
雨が降ってもいいわけですからね。
小林:
予報士いらないですね。

スーパー読者メロポンさんが8月の天気を読み切った

8月のクイズ:
8月の東京の最高気温。小数点以下1桁までおこたえください。

林:
8月のクイズの正解は正解が36.8℃でした。
林:
一番近いのは0.1℃違いのひしやももたろうさんとメロポンさん。

ひしやももたろうさん
回答:36.9℃
コメントなし

メロポンさん
回答:36.7℃
コメント
今日(2021/08/06)現在、天気図上に台風が3つもあり、うち10号が日本に接近しています。このことから太平洋高気圧の勢力が弱いのかなと思っています。
太平洋高気圧の勢力が弱いと、あまり暑くならないのではないかと考えました。
ただ、8日・9日あたりは、北上してしまった台風に向かって暖かい南風が吹き込んでやや気温が上昇すると考え、36.7℃と予想させていただきました。
8月の後半になって太平洋高気圧の勢力が強くなっても、「時すでに遅し」という感じがします。

西村:
メロポンさんは理詰めで。
増田:
これまさにさっきの話ですね。
小林:
本職の方かな。
林:
確かにこの人本職っぽいですね。
西村:
太平洋高気圧の勢力が弱いって。
林:
暑かったのも台風に向かっての南風で上昇するって、さっきの説明と同じ。
増田:
あと怖いのが8月の後半に太平洋高気圧の勢力が強まって一回35℃超えたんですよね。時すでに遅しと、詳しすぎる。ここまで予想するのはすごい。読み切ってる
西村:
今日増田さんがしゃべったことが要約されてる。
増田:
いつかここに入っていただいて。
小林:
入っていただきたいですね。
増田:
いつのまにか僕が聞き役に回っているかも。
林:
コロナで経済活動が控えられた結果、上がらないと予想している方がいますが関係あるんですか。
増田:
去年コロナで人が街からかなり減った時は若干あったんじゃないかってレベルですけどね。
林:
中国の空気がきれいになったなんて話もありましたね。東京は意外と空気がきれいだからあまり変わらない。
増田:
昔より東京は空気がきれいになっているんですよね。そのぶん降り注ぐ紫外線が強くなった。空気が汚れていたときは紫外線を邪魔してくれていたのが、きれいなった分ダイレクトに降り注いでいるわけですね。
林:
そうなんですね。そんなこと誰も教えてくれなかった!

9月のクイズ 東京の最高気温です

9月のクイズ:
9月の東京の最高気温。小数点以下1桁までおこたえください。
応募はこちらから
(締め切り:9月10日 23:59)

林:
難しそうですね。
増田:
難しいですね。今年は。
林:
上旬じゃなくて下旬に暑い日がありそうだから締切の日の最高気温を書けばいいわけじゃない。
西村:
確かに難しいな。
増田:
過去のデータだと、各年の9月の最も高い気温は…
2020年9月4日 35.1℃
2019年9月9日 36.2℃←台風が過ぎた翌日に高温
2018年9月8日 33.0℃ 
9月の東京の最高気温記録は1984年9月3日の38.1℃です。2000年 9月20日にも37.8℃というのがありますね。今年はここまではなかなか。
林:
今月が36.8℃ですから、35.8℃と予想します。1℃下がるぐらい。
西村:
33℃ぐらいで33.5℃。あまり暑くならなそう。
増田:
9月の後半ですからねー。
林:
9月の後半に35℃なんてないか。でも面白いからこれで。
小林:
やっぱり面白いほうを。
増田:
9月後半に35℃超えってあるかな~?まぁ9月の後半だとなかなかないですが、常に天気の記録は更新を狙っているという格言がありますからね。
小林:
狙っていないと思いますけど(笑)

改めて今月のクイズです。締切は今週金曜日いっぱいです。 

9月のクイズ:
9月の東京の最高気温。小数点以下1桁までおこたえください。
応募はこちらから
(締め切り:9月10日 23:59)

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