GⅠない夏競馬 白毛のソダシ躍動 – 村林建志郎

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クロノジェネシスが完勝した宝塚記念から早2カ月。夏競馬もいよいよ終わりを迎えようとしている。

夏競馬とはなんぞや?と思う読者がいるかもしれないが、JRAは6月最終週の宝塚記念が終わると、舞台をそれまでの東京、中山、阪神、京都から全国の様々な競馬場に移す。北は札幌から南は北九州の小倉まで、各地で未勝利戦や新馬戦などが開催されるのだが、この約2カ月間のことを夏競馬と呼んでいる。

夏競馬期間はGⅠが開催されないのだが、競馬の見どころはGⅠだけではない。本稿では、2021年の夏競馬を簡単に振り返ってみようと思う。

無観客開催だった福島競馬場 理由はコロナではなく…

写真AC

夏競馬の初週に福島競馬場で開催されるGⅢのラジオNIKKEI賞は、2018年に2着と好走したフィエールマンや昨年の勝ち馬バビットなど、後にGⅠに出走する馬が登場することもあり、注目を集めている。

かつて同レースでのフィエールマンの豪脚に惚れた私は、今年もテレビの前で意気揚々と発走の瞬間を待ちわびていたわけだが、その前に一つ気になることがあった。

スタンドに観客がいないのだ。

依然として競馬界は新型コロナウイルスの影響を受けているが、観戦に際しては事前抽選の方針を採ることで、上限を設けながらも観客の動員を続けていた。緊急事態宣言が発令されているわけでもない福島で、いったいなぜ無観客なのか?と私は首をひねったのだが、答えは中継のアナウンサーが教えてくれた。地震の影響だ。

さかのぼること約半年前の2月13日。東北地方で福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が発生し、福島競馬場はスタンドの一部が損壊。その復旧工事に時間を要することから、夏の福島は無観客開催になったという。たしかに春の福島開催は中止となり、福島牝馬ステークスも新潟で代替開催されていた。とはいえ、季節をまたいでもなお爪痕が残る地震とは…改めて災害の恐ろしさを感じる。

ちなみに今年のラジオNIKKEI賞は、丸山元気が騎乗したヴァイスメテオールが勝利。稍重や不良馬場で勝ち星を積み上げるこの馬、しっかり覚えておこう。

2歳馬が続々とデビュー 来年のクラシック主役は

夏競馬といえば、なんといっても新馬戦だ。6月から始まっている新馬戦は夏競馬においても間断なく開催されているが、私が新馬戦から目を離せない理由は、新馬戦が来年のクラシックを見据えた戦いでもあるからだ。

たとえば2017年にヘンリーバローズと上がり3F32秒台という凄まじい大接戦を制したワグネリアン。このデビュー戦に私は衝撃を受けたわけだが、ワグネリアンは翌年日本ダービーを勝利。自分はこのダービー馬がデビューした時を知っているんだなあと感慨深い気持ちになったことをよく覚えている。

共同通信社

今年の夏も、多くの有力な2歳馬がそのキャリアをスタートさせた。

8月8日に新潟6Rでデビューしたステルナティーアは、GⅠ6勝馬ロードカナロアを父に持ち、全兄がマイルチャンピオンシップの勝ち馬ステルヴィオという血統の牝馬だが、新潟の長い直線を猛然と駆け抜け、上がり3F32.7秒で勝利。騎乗した福永祐一がレース後、「非常にレベルの高い馬。初戦としては満点をあげられる内容」と振り返ったように、実に眩しい未来を予感させるレースだった。

7月18日に小倉2Rの未勝利戦で勝利したコナブラックは、父があのGⅠ7勝馬キタサンブラック。今年はキタサンブラックが産駒デビューした年でもあったのだが、コナブラックが見事にキタサンブラック産駒の初勝利を手にした。

そのコナブラックのデビュー戦で勝利したのがダノンスコーピオンという馬だ。2頭のデビュー戦は6月に開催されているのだが、このレースの発走前に私はあるツイートに注目した。

元騎手の安藤勝己氏のツイートなのだが、この「阪神5R」というのが、ダノンスコーピオンらのデビュー戦のことなのだ。普段からアンカツさん(こう呼ばせていただきます)のツイートを拝見している私としては、「G1級」「ゆくゆく伝説の」などという言葉を使われては今後が楽しみにならざるを得ない。こうして原稿を綴っている今もうずうずしている。

オークスで初黒星の白毛馬ソダシ GⅡ札幌記念に登場

夏競馬がクライマックスに差し掛かる8月後半、北の大地に猛者が集うレースが札幌記念だ。

札幌記念は夏競馬で唯一のGⅡであり、秋へ向け多くのGⅠ級の馬がしのぎを削る、いわゆる“スーパーGⅡ”といっても差し支えない。広大な北海道大学の隣に位置する札幌競馬場が、一年で最も熱くなるレースだ。ちなみに、中継を見るとかなりの確率で札幌駅にそびえるJRタワーが小さく映るので、札幌出身の私はそこで強烈なノスタルジーに襲われる。一刻も早く帰りたくなる。

今年は主役が2頭いた。

まずはソダシ。去年から今春のクラシックにかけて競馬界を沸かせ、阪神ジュベナイルフィリーズと桜花賞を制し名実ともにスーパーホースとなった白毛のGⅠ馬だ。8着に敗れ初黒星を喫したオークス以来、約3カ月ぶりのレースとなる。

共同通信社(写真は去年の阪神JF)

もう一頭はラヴズオンリーユー。5歳の牝馬で、同世代にグランアレグリアやクロノジェネシス、カレンブーケドールなどがいるとんでもなく強い世代の筆頭である。2019年のオークス以降GⅠ勝利から遠ざかっていたが、今年4月に約2年ぶりにGⅠで勝利。本格化の様相を呈している馬だ。

他にも2018年有馬記念の勝ち馬ブラストワンピースや2017年マイルチャンピオンシップの勝ち馬ペルシアンナイトなど、GⅠ馬4頭という豪華な顔ぶれとなった。

レースはトーラスジェミニが引っ張ったが、3コーナー付近でソダシが早くも先頭にたち、その外にブラストワンピースがつける展開。4コーナーでペルシアンナイト、さらに外からラヴズオンリーユーが仕掛けて追い上げるも、先頭を譲らなかったソダシが勝利。3カ月の休み明けで見事なレース、個人的には完勝だったのではないかと思う。昨年の札幌2歳ステークスでレコード勝ちしており馬場に慣れているとはいえ、ただただあっぱれな白毛馬だ。

ここを皮切りに秋華賞に臨むとすれば、サトノレイナスやアカイトリノムスメなどのライバルと再び相まみえることになりそうで、私の楽しみはまた一つ増えた。

ちなみに、札幌に住む私の知人が同レースの事前抽選に当選、現地で観戦していたようなのだが、果たして馬券は当たったのだろうか。いまだに連絡がないため、恐らく外れたのだろうと私は踏んでいる。

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まもなく終わる夏競馬 そして近づいてくる秋の足音

本稿を執筆している8月23日時点で、夏競馬は残り2週となっている。あとは札幌2歳ステークスや新潟記念などを残すのみで、それが終わるとついに秋競馬へ突入する。

来年へ向け加速する2歳馬たちの戦いや、クラシックの残り1冠を賭けた3歳馬たちの戦い、そして有馬記念へと続いていく華やかなGⅠの季節。

毎年思うのだが、秋競馬に突入してから有馬記念を迎えるまでが本当にあっという間だ。ティファールの沸騰速度よりあっという間かもしれない。いや、ミルコ・クロコップのハイキックが命中してから失神するまでの速度よりもあっという間かもしれない。

だからこそ、2021年競馬の後半戦もしっかり見つめていきたいと思うのだ。そしてその中で生まれる人馬の物語やかけがえのないワンシーンを大切に書き残していくことが、私のやるべきことなのだと誠に勝手ながら信じている。

それでは最後に、一つだけ。

猛暑の中、大雨の中、夏競馬を精一杯走り抜いたすべての馬たち。本当にお疲れさま。

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