建造物に植物があると街になじむ~樹木の専門家と街を歩く

デイリーポータルZ

樹木医であり植裁の専門家の赤尾さんと渋谷の植裁を見て歩く

街を専門家と歩くシリーズとして鉄板であり大本命である樹木の回、後編です。知ってましたか、木の寿命って何年って決まってるわけではなく、葉っぱの量と幹の太さのバランスで決まることを。木が枯れてる原因探しが推理小説みたいなことを。

今回は街に緑があるその理由とあり方を中心に渋谷の植裁を見て歩きます。へぇが多すぎて切れなかった1万字超、公開です。

前編「木の寿命は葉の量と幹の太さで決まる~樹木の専門家と街を歩く」

前回に引き続き小岩井農牧の赤尾正俊さんと渋谷を歩く。

大北:赤尾さんの仕事はどういう業務が多いんですか? 
赤尾:監督業ですよね。業者さんに指示したり、お客さんと折衝したり。
大北:樹木の健康状態も診てまわりますか?
赤尾:まわります。樹木の調査もしますし。木がいっぱいある場所をまわって、木の名前とか大きさを測ったり、一本一本の健康状態を。危ないやつは切りましょうとか。そういう調査もありますね。メインは木を切ったりきれいにするのが仕事ですね。メンテナンスですね。
大北:自分で切るわけではないんですね
赤尾:そうですね。協力業者さんにお願いして。

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こういうのは下に土が1mくらいあるらしい

植物があるところには土がある

林 :ミヤシタパークは屋上に植物が生えてますね。ビルの上でも木が生えてたりするじゃないですか。あれは根が浅くても平気なんですか?
赤尾:大きい木が生えていたらしっかり土を入れてる。たぶん掘ると1mぐらいあると思います。ここはそもそも公園にするつもりの場所なので。
大北:思ったより土をたくさん置いてるんですね。
林 :木って照明で照らしたりしますけど照らすのは特に木は問題ないんですか?
赤尾:葉っぱに24時間当たると本当はよくないですね。植物は夜の時間の長さを感じて季節を感じるので、落葉する時期や開花の時期がずれたりとかはありますね。 

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屋上にやってきました。どういう景観を作ろうとしてるのだろう?

都市の緑はどこから来たの?

大北:屋上は緑が多いですね。
林 :ランドスケープというか、木を植えて景色を作るという発想は明治以降に入ってくるヨーロッパからのものなんですか。
赤尾:ランドスケープという考えはアメリカから来ていると思います。(※1899年にアメリカでランドスケープアーキテクツ協会ができた。木を植える庭園文化自体は古くからヨーロッパにある)
大北:都市化の問題にともなうものですか。
赤尾:そうだと思います。
林 :やりすぎちゃったから、そういう。
赤尾:都市の景観のために大きい公園を作らなきゃとかそういう発想から来てる。

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できて一年くらいの施設。つる植物の根本には水をやる装置があるようだ

屋上は水が足りない

林 :これどうするつもりなんですかね。
赤尾:つる植物を植えて、いつかは壁にしようということでしょうね。上まで届いているのもありますね。
林 :プランターみたいなところにつるの根っこがあるんですけど、水をあげてるんですかね
赤尾:水をあげないと無理ですね。おそらくこっちの低木の植栽も自動で水をあげてると思います。
大北:あっちの高い木はあげなくてもいい?
赤尾:背の低いもののほうが根が浅いので早めに乾燥して死んじゃう。乾燥は上から来ます。でも屋上だと地下から伝わる水が少ないので全部あげないと厳しいですね。
大北:なるほど、屋上は早く乾きそうですね。

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アケビっぽいものが植えられているそうだ。実もそのうちできるだろうと

植物の壁にも色々ある

赤尾:これもけっこういろんな種類を入れて、どれかがうまくいくだろうという感じですよね。アケビとか実がなるやつとかも入ってますね。ムベも同じ仲間ですけど。
大北:アケビの実がここでとれるんだ。朝顔とかゴーヤとかのやつじゃないんですね。
赤尾:緑のカーテンと言われるやつですね。あれは夏場だけなんですよね。
大北:それとは違う?
赤尾:これは常緑のを選んでますね。あとずっと成長するもの。
大北:一年中伸びてるんですか?
赤尾: 4、5月に伸び始めて、今いったん止まってるときだと思います。
林 :クズがこういうふうに育つのが問題になってるんでしたっけ。
赤尾:クズは寒くなると葉っぱがなくなるんじゃないかな。常緑より落葉する連中のほうが育つスピードが早いですよね。期間が短いので。短期勝負で。
大北:ガーッといくんだ。ここは時間をかけて増やしてる。

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けっこう壁になっているところも

赤尾:ここはけっこううまくいってますね。
林 :管理の人はやったったって思ってるんでしょうね(笑)。
赤尾:植物は光合成が目的なので、上の方にばかり葉をつける傾向があるんですよね。

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日光を求めてどんどん上まで伸びている。中間はどうでもいいみたい

大北:ほんとだ。中間がスカスカになっちゃうんだ。
赤尾:途中はなんかいいやってなっちゃってる。あそこをまた新たなやつが来て埋めてくればいいですけどね。
林 :植物って全部が合理的ですね。水を吸って、あの上のほうに持ってきて、あそこで光合成をして。

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ニシキギの翼(ヨク)を見ます。縞模様なのでニシキ

赤尾:これはヤツデ。これはニシキギと言って、茎にある翼が面白い形で紅葉が錦のようにきれいだからニシキギ。
大北:みんなひとつひとつ特徴があるんですね。
赤尾:そうですね。葉っぱの大きさも違えば色も違うし。
林 :昔の人はよく見て名前をつけてますね。
赤尾:そうですね、一個一個名前を。他にやることがなかったのかなっていうぐらいに(笑)。みんな「木」でよかったのかもしれないですけど。いつの時代もマニアックな人がいるもんですね。
林 :全部木で良かったのかもって(笑)

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写真右側にあるのがアオキ。ちょっと元気がなさそう。左はイヌツゲ。

テカテカした葉っぱはUVコート

赤尾:アオキ。葉っぱが青いからアオキ。これはイヌツゲ。イヌシリーズ。ツゲっていうのがあってそれより劣る。葉っぱが小さいんですかね。これはさっきもあったマサキ。ちっちゃく切られていて、これがトベラですね。千葉の海のほうに行くといっぱい生えてて暑いところに強い。アオキは日陰でよく育つ木なので、この環境はつらい。
林 :つらそうですね。
赤尾:得意分野ではないなという状況ですよね。ヤツデなんかもちょっとつらそう。
林 :つらそうなのがわかるのはこの辺の葉ですか?
赤尾:葉焼けをしてる。こういうのって紫外線が直撃しないように、表面にテカテカしているもので守っているんですよ。
大北:てかっとしてるやつは日に強いんだ。

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紫外線に強い葉はテカテカしている

林 :印刷物にUVコートってありますけど、それみたいなツルツルの。
赤尾:そうかもしれないですね。
林 :UVコートなんだ
赤尾:ワックスとクチクラ層っていう層があるんですけど、ツバキとかもテカテカしてる。あとはアントシアニンという色素でブロックしています。 

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シャガ

赤尾:これはシャガといって、日陰でしかも水がいっぱいあるところに生えるやつなのでちょっと苦しそうですね。誰が見ても調子悪そうだなっていうのは、相当苦しいんですよね。元気そうだなって誰でも思うのは元気だし。
大北:我々が見てわかってるようじゃもうダメなんだ。

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ここが緑でもさもさになるのだろうか
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公園は50年100年先を考えて作る

林 :まだランドスケープ的には未完成ですかね?
赤尾:そうですね。雑木林みたいなふうにもしたいでしょうし。ただ、屋上だからそこまで大きくさせないだろうなとは思いますね。
林 :新宿西口ができたばかりの頃の写真を見ると本当に木がなくて未来都市みたいな感じですけど。今のほうがむしろワサワサになってますよね。新宿中央公園もすごいですよね。
赤尾:地面のある公園だと50年100年先を見て作ると思いますね。ここは建築の上なので建て替えというのがありますけど。

大北:ヤバそうな木を探して渋谷の街路樹を見ていきましょうか。

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ヤバい(イル的な意味で)木を探そう、と渋谷の街を歩きます

赤尾:あそこの並びにヤバそうなのがいますね。そういえばさっきコナラって木がありましたけど、今この関東界隈はナラ枯れという病気が流行っていて、太く育ったナラ類の幹にキクイムシというちっちゃい虫が入って大木が枯れちゃうという病気。
大北:病気といっても虫?
赤尾:虫が背負ってきた菌が木の中で育って、大げさな言い方ですけど、木がびっくりしちゃって水のやりとりを止めちゃうんです。それが樹体のいろんなところで起きるので、全体が死んじゃう。
大北:へー、そういう病気。
赤尾:ナラ枯れ病。最近すごく被害が多いんですけど、都心ではコナラの大木が少ないのであまり見ないですけど。

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枯れた葉っぱがついたままの枝。葉を落とさずに枯れているのは何かあった状態というのは前回の記事で

赤尾:これはヤナギでしたね。
林 :枯れてますね。
赤尾:ギリギリ生きてますけどかなりヤバい。
林 :これはまたどうしたんですかね。
赤尾:原因って経過を追ってないと意外と難しいんですけど、あそこの枝は最近枯れたんですよね。落葉樹なので今年の春には(芽が)吹いて、そこまでは生きていたはずなので。上の方は葉っぱがついてないので、ひょっとしたら去年から枯れていたのかもしれませんし。なんでしょうね…。根本に大きいきのこが出ていると根っこが腐っちゃって、ということも考えられるんですけど、そういうのもないので。
大北:きのこが木を枯らすというパターンもあるんですか?
赤尾:あります。木材を腐らせるんですけど、生きてるところまで徐々に腐らせて枯らしちゃうというのはありますね。

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本人はやり直すつもりかもしれないという樹木医の視点

赤尾:ただこの木はここがけっこう元気なので、ひょっとするとここまで枯れるけどここからまた本人はやり直すつもりかもしれないですね。あと、上から枯れる時は僕らは水が上まで上がらなかったんだろうねって基本的には思います。

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水が上まで上がっていないのだという。下はけっこう元気

林 :これも水が上まで上がってなかったんだ。
赤尾:そうでしょうね。なにかしらの下のトラブルがあったんじゃないかなと。
大北:葉が付いたまま枯れてるということは。
赤尾:急にあそこまで水が行かなくなったんだと思いますね。
林 :ここに何かあるんですね。

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大きなキズがある。どうやらここになにかありそうだ…

赤尾:ここに大きなキズがありますけど、この辺も影響しているのかな。こんなところどうやって傷をつけたんだろう。
大北:推理小説みたいですね。
林 :皮が全部めくれてますもんね。
赤尾:トラブルがあったような気がしますね。遠くから見て枯れてるなと思ったんですけど。
大北:これから枯れそうなものっていうのはさすがにわからないですか? 
赤尾:そうですね。さっきのアオキみたいなケースは、本来もっと日陰のものなのに長くはもたないかもと思いますね。街路樹は特に強い種類を植えてあるので、なかなかあそこまでは。

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公園のわさわさ生えている木

木のメンテナンスって何をするの?

大北:公園に生えてる木も植栽にあたりますか?
赤尾:都市に植えてある木は植栽でいいと思います。山そのものが自然公園になったりしてるのは植栽とは言わないですけど。
林 :この公園は最近整備したから植えたのかな。いや、植えてないよな。
赤尾:放置されてる感じがしますね。手入れをやってない感じ。
林 :どういうところが?
赤尾:中がすごい混雑していて、狭い感じですね。剪定してしばらくたつと、剪定したところから吹く(芽が出る)ので放っておけば混雑しちゃう。 
大北:混雑するとあまりよくないんですか?
赤尾:勝手に自分で枯らして落ちてくるんです。枯れ枝として出ちゃう。あと見かけがうっとおしい。
林 :どのへんが混んでる?

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細い枝がわさわさ混雑している

赤尾:あのへんですね。細い枝がわーって。枝と枝がぶつかることがないように切るので、ああいうのが残っているということはずいぶん切ってないのかなと。
林 :剪定する人も何を切るかというのは理解してないといけないんですよね。
赤尾:忌み枝という、忌み嫌う枝というのがあって。重なり枝とか、こういう枝を除くっていうのが常識としてあるんですよね。
大北:そういう枝を切る意味ってなんですか?
赤尾:見かけですね。見かけがすっきりする。美しい木になる。

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公園の木も樹齢500年の大木になったりするのだろうか

大北:こういう木ってほったらかしにしてたら何十年ってそのままになるんですか?
赤尾:なりますね。何十年何百年と。水と栄養のバランスが続く限りは。
大北:樹齢500年とか看板が立ってますけどああいうのってざらにあるんですか?
赤尾:ざらにはないですね。何かしら山だったらがけ崩れが起きたりとか雷が落ちたりとか、大風が吹いたりとかありますので。そういうのに耐えられる環境にたまたまあったりとかしないと、なかなかないですよね。
大北:大木でなくても、人の背ぐらいの高さしかないのに500年ぐらいもってるとかもあります?
赤尾:そういうのもあると思いますよ。特に盆栽なんかはそういう世界観があるので。切って年輪をみないと正確な年齢かはわからないですけどね。ただ、のびのび、普通に育っていれば直径が1m超えたあたりがだいたい100年ぐらいかなとか。
林 :1mが100年ぐらい。
赤尾:という感覚ですね。5〜60cmぐらいだと50歳かな。

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ざっくり目安ですが幹の1センチが1年くらいではと

林 :これなんかまだまだ。20年ぐらい。
赤尾:20年ぐらいかな〜って感じですね。カツラって木は面白くて、葉っぱが地面に落ちると葉っぱの中の物質と分解する微生物が反応してあまい匂いがするんです。スイーツのような匂いがする。こういう石畳の上に落ちても匂わないですけど。ときどき急にいい匂いがしていたと思うと、カツラが生えてるって。

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ここも新しい商業施設の植裁。クロマツがあった

林 :急にマツが生えてますね。
赤尾:今は珍しいですね。昔日本庭園と言えばマツだった。そういう常識があるから日本庭園のイメージに縛られちゃうのであまり植えなくなりましたけど、そこまで仕立てない自然な感じでビルの周りに植えるのが今っぽい。
林 :「仕立てない」とは?
赤尾:ひと枝ひと枝がモゴモゴ曲げられて、じゃなくてスーッと伸びた状態。自然な形です。

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巻いてるのあるがあれはなんなんだろうか

木を巻いてるものってなに?

林 :巻いてるのやらないといけないんですよね。
赤尾:幹巻きなんですけど、移植した時に幹から水が少しでも出ないようにとか、日があたって焼けないようにとか。僕はあまりやらない、もしくはすぐとる。汚らしいのと、傷がついててもわからないし。
大北:携帯電話買った時に貼られてるビニールみたいなものですかね。
赤尾:幹も微妙に光合成しているんですよ。呼吸もしてるし。幹をはぐと緑色の組織が見えてくるんです。そういうことを考えると塞がないほうがいいのかな。

大北:たまに木にワラが巻いてあるのありますよね。
赤尾:それは冬囲いで、薬がない時代の話で。こも巻きっていうんですけど、腹巻きみたいにワラを巻いておくと、冬眠したい虫が入ってくるんです。それを春になる前に取って燃やせば虫を一網打尽にできるよっていう。ゴキブリホイホイ的な。
林 :薬がある今はやらないんですか?
赤尾:今は飾りでやります。実用じゃなくて風情を。でもやっぱりあけるといろんな虫がいます。
大北:あれ飾りでやってたのか~

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先程のクロマツのマツボックリ

赤尾:マツボックリがちゃんとできてますね。マツボックリは去年受粉したやつなんですね。2年かかる。最初ちっこいのが徐々に大きくなって、2年目にようやく。あのへんが今年のもの。かわいいですよね。
林 :先っちょに。

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小さいのができている

赤尾:完全にできあがると乾燥してパッとひらいて、中にプロペラがついてる種が入ってるので、乾燥した日に風でバッと。いわゆる松の実が入っているんです。
大北:プロペラ!
林 :プロペラとか飛ぶとか、いろいろありますね。遠くへ行く方法。
赤尾:運ばせる、転がるとか。流されるとか。
林 :植物的には遠くに行ったほうがよいんですか?
赤尾:種類によって戦略が違いますね。自分の下に必ず落ちるようにするタイプもありますし、遠くに飛ばすタイプもあります。
林 :遠くに飛ばすのはまだ見ぬ良い土地があるかもしれないから?
赤尾:荒れたところにバッと出てきて、早めに寿命を終える木は遠くに飛ばす。消耗戦というか。
大北:戦略があるんだ
林 :安定したところに育ってるやつはその場に。
赤尾:わりと。ドングリとか重い実を落として近くで終わるように。

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こういうのって一本いくらくらいするのだろう?

街路樹一本で数十万円

大北:木は種類によって値段は全然違うんですか?
赤尾:それよりも大きさで違いますね。育ててる農家さんのところで管理してきた年数が太さに関係してくるので。
大北:植栽に使う木ってそういう農家さんがあるんですか?
赤尾:植木農家さんが。
大北:山を持ってる?
赤尾:畑ですね。山から持ってくる人もいますけど。うちも農場の山から持ってくることもあります。
林 :一本いくらぐらいなんですか?
赤尾:わからないですけど、この大きさだと二桁万円ですよね。
林 :20万ぐらいで買えるものなんですか?
赤尾:それぐらいだと思いますね。100万はしない。1桁では厳しいかな。

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こういう細いのなら数万円で買えるのでは、と

大北:持ってくるの大変そう。
赤尾:持ってきて植えるとさらにいろいろ乗ってくる感じですね。
林 :持ってきて植えるだけで20万ぐらいかかりそうですね。
大北:区が道路沿いとかにケヤキを一本植えて、維持するコストって一年間にどれぐらいのもんなんですか
赤尾:成長してきますからね。最初は微々たる何千円から始まって、こういう大きさになってくると高所作業車使わないと維持できなくなってくるので、となると年間一本何万円とかになってきますね。

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のぼっていくのではなく垂れているタイプのカーテン

赤尾:これはオオイタビカズラというツルの植物ですけど、巻き付くタイプじゃなくて下垂したりベタって張り付くタイプ。
林 :あれはどうなっているんですか?
赤尾:隙間に植え込みがある。登るより垂れるタイプなので。
大北:この壁面を覆うために?
赤尾:そうでしょうね。かなり面白いですね。
林 :あれは建築家のデザインですかね。
赤尾:狙って建てないとああならないですね。
大北:緑ありきで建築を設計するんですね。

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明治通りに出ました。ケヤキが並んでいます

林 :明治通りの街路樹は何の木ですか?
赤尾:ケヤキ。渋谷の街路樹はケヤキとプラタナス。
林 :あの幹だと100年ぐらい経っているんですか? 
赤尾: 50年は絶対に超えてると思うんですけど100年はいかないかな。
林 :じゃあ植えたのは戦後かな。
大北:前のオリンピックぐらいですかね。
赤尾:オリンピックに向けていっぱい植えたという記録はあるので、その時代の生き残りかもしれないですね。
林 :立派ですね。これは全然問題なく元気?
赤尾:この大変な場所を考えたら相当調子いいですよね。広く根を張っているんでしょうから。舗装のこういうところガタガタしているのは。

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写真ではわかりづらいですが、地面が隆起しています

林 :こいつが持ち上げてるんですか。
赤尾:ケヤキの根っこが持ち上げてますよね。

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ケヤキには番号がふられています

街に緑はなぜあるのか?

赤尾:番号が付いてますね。R-139。二建って書いてあるのは東京都の第二建設事務所の略称だと思う。明治通りってどこの道路なんだろう。
林 :都道ですね。
赤尾:街路樹は道路に付属している付帯物という扱いなので、道路管理者が管理する。
大北:ガードレールみたいなものですか?
赤尾:そうなりますね。
林 :街路樹ってなくてもいいんですよね?
赤尾:ない路線もあるので。ただ、東京都は街路樹を100万本にするっていう目標を立ててやってるので、都市計画の方針としてなければいけない。
林 :街路樹がないと殺伐とするでしょうね。

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植裁の専門家である赤尾さんによると新しいビルも緑があるとすぐ街になじむそうだ

赤尾:暑いだけじゃなくて、目も嫌ですよね。緑があると建物も街になじむんですよね。ただの四角い箱がある状態よりは威圧感が減る。
大北:なんでだろうなー、不思議ですよね。
赤尾:人間本来の本能なのか、自然に求めてる気はしますね。
林 :たしかに、幕張ができたばかりの頃木がなくて、ビルが四角いなという印象でしたね。ここのビルも四角くて最近建てたものなのに。
赤尾:やっぱり建物だけの状態よりも僕らが入って緑を植えると「完成したな」ってなるんですよね。そういう効果はあると思います。
大北:ビルを建てる人ってお商売なので無駄を省くじゃないですか。誰のために木を置くんですか?テナントさん?
赤尾:テナントさんだったりもしますし、条例で建築行為をした場合に、規模にもよりますけど空地は緑にしなければいけないというルールがあるので。マンションなら物件としての価値を上げるために植えてる場合もありますね。ランクがアップする感じがする。
林 :さっきのツタがだらーんとしているマンション、高そうな感じがありましたもんね。

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ツツジがよく植えられているが

ツツジで6月は大変

林 :これはツツジですか。
赤尾:ヒラドツツジというツツジですね。
林 :丈夫ですか?
赤尾:強いですね。花も毎年咲かせますし、ツツジの赤い花って派手なので、好んで植えますよね。刈り込みっていうんですけど、毎年毎年葉っぱを刈られてよく生きてるよなって思います。毎年花が終わったあと、種をつけますけどそのままだと来年の花つきが悪くなったりするので切る。急がないと次の芽を用意するので花終わりに急いで切らないといけない。ツツジがあっちこっちに植わっているので花が終わった後5月とか6月はすごく忙しくなります
大北:ツツジは大変なんですね。1年で一番忙しい時期は?
赤尾:業界的には6月と年末。お正月に向けてきれいにしたいよというのが多いので。
大北:6月はなんですか?
赤尾:さっきのツツジに合わせて他の木も手入れしたいから。春に花が咲く植物が多いので、終わりの手入れって感じですね。あと、ちょうど伸び始めてうっとおしくなっていたりとか。

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きのこが生えているケヤキを発見

きのこは木にとって危ない

赤尾:このケヤキはちょっと厳しいなと思うのは、根っこからキノコが出てるんですよね。コフキタケといって、根から下の部分を腐らせちゃうんですよ。
林 :そもそも地面がアスファルトで覆われているのは良いんですか?
赤尾:弱った木にこの仕打ちですよね。舗装を壊したのか、何があったのかはわからないですけど、お金かけられないので、一番安いアスファルトで人が転ばないように補修したと思うんですけど。

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アスファルトで根っこをかぶせている

林 :水は吸えるんですか?
赤尾:根っこは活発に活動してないので大丈夫ですけど。アスファルトって熱い状態でやるので。嫌だったと思います。
大北:赤尾さん、木の気持ちですね。

大北:キノコはここだけやられてるんですか?
赤尾:このキノコは幹の真ん中を腐らせて、食うものがなくなってきたときに外に出てくるので。わりと幹の中がやられていると思います。あとは中身を見るというか、音の速さとかで画像化して見る機械があるので、空洞だったら伐採する。叩いてわかるときもありますよ。そのあたりの診断が大丈夫だから残しているんだと思いますけど。

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これがコフキタケ

林 :この木が倒れたら大事故ですよね。
大北:20mが明治通りに倒れてきたらそうですよね。

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その隣の木にもベッコウタケというキノコが

赤尾:こっちの木もキノコが出てきて、これはベッコウタケという別のキノコで、腐らせるだけじゃなくて枯らしてしまうぐらい腐らせる力が強い。これが出ちゃうと伐採しないといけないかな。ちょっと傾いてるので怖いですよね。切ることは考えているかもしれないですね。このへんが去年のキノコの成れの果てで、これは今年の新しいやつですね。けっこう何年も出続けている。
林 :都のほうでやばい木リストには入ってるかも。
赤尾:かもしれないですね。街路樹は今すごく点検されているので。ましてやこんなに交通量が多いところだと。キノコはけっこうやばいサインですね。

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キノコは傷がきっかけになりやすい。ここでなにかあったのかも

大北:2つ連続でキノコがあったというのは関係しているんですか?
赤尾:なんでしょうね。ひょっとしたら工事する時に根をいっぱい切ってダメージを与えたとかあるかもしれないですね。
大北:弱っているところにきのこが付きやすいんですか?
赤尾:だいたい傷がきっかけです。植えた時の最初の傷のときもありますし。街路樹は共同溝っていって、地下に配管が通っていて、メンテナンスで根を切られることもありますし。こっちの木はキノコは出てない。信号が近くて大変そうですね。あの枝ね。

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信号にかかったり看板にかかったり明治通り沿いの木のメンテナンスは大変だ

林 :信号かからないようにするには切らなければいけないんですね。
赤尾:毎年切られてると思います。

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木に支柱がある
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細いケヤキがある

赤尾:これは前のが古くなったか倒れたかわかりませんけど、倒れないように付けた支柱ですね。
大北:これは新しい木?
赤尾:わりと新しい。
林 :普通のケヤキと違って細くないですか?
赤尾:これは品種もので、横文字で言うとファスティギアータって言うんですけど、細く育つ。

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ファスティギアータという細いケヤキなんだそうだ。太いケヤキもあればこのタイプもある

大北:ケヤキなんですね。
赤尾:ケヤキの品種ですね。細いのをわざと植えてるんだと思います。看板の邪魔をしたりとか道路側にいったりしなくなるので。特に商業ビルとかだと看板が見えなくなるとか、クレームがけっこうあるんですよ。
林 :目先のことしか考えてないですね。木を植えて出来上がるのは50年後、商売の人は今日の売上で生きてるスパンが違う
赤尾:話が噛み合わないと思うんですよ
林 :まちづくりって時間が長いから違いますよね。
赤尾:そうは言ってもっていう感じに。

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水はどっから得られるのだろうか?

街路樹はがんばっている

赤尾:屋上だと水やりをバンバンしてもらってますけど、街路樹はそういう仕組みがなくて、よくこれだけのマスで生きてるなと思いますよ。
大北:1.5mぐらいのスペースで。
赤尾:道路側にはほぼ根はいかないんですよ。道路に沿った方向にだけ根がいってる。
大北:歩道側にも来ない?
赤尾:共同溝と言って、電気とかの管が入ってるんですよね。工事の時にしょっちゅう切られているのでそっちはあまり伸びれない。
林 :植物って上の話かと思ったら地下の話が多いですよね。
赤尾:上だけ見てると理解できなくなってくるので。

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暗いグレーの部分に根は伸びているのだろうと
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渋谷駅の宮益坂口の方に戻ってきました。ここはかつて木があったような…

林 :この辺も昔は木が生えてベンチがあった気がしますね。
赤尾:またシンボルツリーを植えるんじゃないですか? 
大北:前に生えていたものを植えたりするんですか?
赤尾:それはありますね。シンボリックな木だと一度どこかに持っていって戻すとか、そういうパターンはありますよね。いきなり切って持っていくことはできないので、1年前ぐらいから計画して根回しということをするんです。
林 :根回し!たとえ話じゃないんですね。
赤尾:事前に根っこを切っておいてコンパクトにしておく。
大北:本物の根回しだ。すごい!
赤尾:無事持っていけるとホッとしますね。
林 :どこに持っていくんですか?
赤尾:圃場(ほじょう)があって、畑で育ててまた戻す。
林 :東京近郊とか?
赤尾:そうですね。だいたい建築計画は2〜3年先なので2〜3年お預かりして戻す。

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ここから撮ると緑が一切ない。あると建物がなじむ。不思議な存在

なぜこんなに緑があるのか分かってきた

大北:道路が木を避けているパターンってたまにありますよね。あれは祟りがあるからですか?
赤尾:たぶん役所の人とかが木を大事にしようって思いがあったんじゃないですか? 大手町に将門の首塚ってあって、あそこに立派な木があって、いつのまにかなくなっていたので。あっさりなくなった。
大北:へえ~、あっさり!
林 :祟りとか言わないと残さないんだろうな。
赤尾:やっちゃいけないことを祟りって言っていたと思います。
大北:一回ここでしめましょうか。ありがとうございました。

緑があると建物が街になじむ。そもそもここが緑だらけだったはずだからだろうか。理由は分からないが私たちは緑を求めていて、そのあり方が分かってきた。その大変さと赤尾さんの緑に対する態度を見ていると、緑を大切にしようという言葉に重みが出てきた。これからはまじで大切にしよう。

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