公的病院をコロナ専門に転換せよ – 新潮社フォーサイト

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田村憲久厚労大臣は「不作為について違法性が問われる重大な問題」だという指摘も

なぜ日本にだけ、新型コロナ感染症で「医療崩壊」が起きるのか。病床確保の責任が民間に押し付けられる一方で、法的に対応義務があるはずの国立・公的病院は空床の放置を続けている。冬の「第6波」までに、公的病院をコロナ専門病院に転換させる必要がある。

 新型コロナ第5波が拡大し、入院難民が続出している。連日、メディアは自宅療養中の死亡例を報じている。8月2日、政府は重症者の病床を確保するため、療養方針の見直しを発表した。入院の要件を重症患者や重症化リスクの高い人に限定し、中等症以下は、原則として自宅療養となった。その代わり菅義偉総理は自治体と連携して「酸素ステーション」を設置する方針を発表。首都圏や関西圏など少なくとも9都道府県に開設または設置が予定されている。緊急搬送中に受け入れる病院がなかった場合や、入院調整中の患者を引き受ける緊急避難措置だ。

 メディアは、このような方針変更を政府の窮余の一策と報じるが、私は、そうは思わない。こんなことをしていると、日本の医療は崩壊してしまう。どういうことだろうか。本稿でご紹介しよう。

他国比較では抑えられている感染者数・死者数

 私が問題視するのは、厚生労働省の主張は前提自体が間違っていることだ。医療の基本は、早期診断・早期治療だ。コロナについても、臨床研究が進み、ステロイドなどの薬剤を上手く利用することで重症化を予防できるようになった。中等症以下の感染者は自宅療養というのは、早期治療を放棄し、悪化させることに他ならない。

 問題は、これだけではない。そもそも、感染拡大に関する現状認識が、世界とはかけ離れている。第5波の世界的流行の真っ只中といえども、「医療崩壊」に見舞われている先進国は日本だけだ。ワクチン接種が進んだ先進国では感染者数、死者数が減って、医療負荷が軽減されているため、問題が生じていないとお考えの読者もおられるだろうが、実態は違う。日本の感染者数や重症者数は多くない。8月24日の日本の新規感染者数(人口100万人あたり、7日間平均)は183人で、主要先進7カ国の中で4番目だ。カナダ(68人)のように感染がコントロールされている国もあるが、英国(490人)や米国(454人)とは比較にならない。

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 さらに日本の特徴は死者数が少ないことだ。

   8月24日の死者数は0.26人(人口100万人あたり、7日間平均)で、独(0.24人)に次いで少ない。ちなみに多いのは米国(3.29人)、仏(1.92人)だ。

 入院治療が必要な重症者数は、死者数に比例するから、欧米先進国と比べて、日本の医療負荷は遙かに小さいはずだ。ところが、その日本で医療崩壊が起こっている。勿論、医師や病床が少ない訳ではない。

   日本の人口1000人あたりの医師数は2.4人で、人口あたりの死者数がはるかに多い英国(2.7人)と遜色ない。人口1000人あたりの病床数は13.1床で、英国(2.5床)の5.2倍だ。

 日本で医療が崩壊するのは、感染症対策の基本を無視しているからだ。感染症対策の基本は隔離だ。隔離が求められるのは、感染者だけでない。病院・病棟についても通用する。かつて、結核が国民病だった時代、政府は結核患者を結核療養所に病院ごと隔離した。結核患者数が減った昨今、稼動率は33%と低いものの、全国に4370床(2019年)の結核病床が存在する。これこそが、感染症対策の基本で、コロナについても同じことが通用する。世界の多くの国は「入院が必要なコロナ患者は重症は大学病院、中等症以下は公的病院で集中的に引き受けている」(英国在住医師)。

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