反ワクチン派 注意でより過激に? – 御田寺圭

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SNSで広がった、「反ワクチン」の奇説・珍説

SNSなどで「反ワクチン」とされる人びとが散見される。根拠不明な説をさまざまに唱えてワクチンの有害性を主張しているかれらだが、なかでも一時期とくに目についたのが「ワクチン接種によって5Gに接続される」という、いわゆる「5G説」である。

この「5G説」は、「新型コロナワクチンを接種すると5GやBluetoothに接続され(影の世界政府によって自身の生命維持を恣意的に操作され)てしまう」とする説のことであり「反ワクチン」派の人びと間でいつのまにか信ぴょう性の高い筋書きとして拡散していった。

傍からみればあまりに奇異であるように見えるため、SNSのごく一部の界隈でのみ局所的に流通している怪文書であり、多くの人は相手にもしていないと思われるかもしれない。だが実際はそうではない。この説をテーマにした書籍などもすでに出版されている。

そうした書籍の読者からのレビューを見てみるとも「勉強になった」「真実を知ることができた」といった感動や賞賛の声が相次いでいる。個人的には驚きではあるが、しかしながらこの「5G説」は「反ワクチン」系の言説を支持する人にとっては「ワクチン接種を断乎として拒否するべき十分な理由」のひとつなのである。

「世界を支配する闇の真実に目覚めた!」と感嘆する彼らは、けっして冷やかしでそんなことを言っているわけではなく、嘘偽りなく、まぎれもない本心の本心で賛同しているのだ。「反ワクチン」はネットの世迷言として片づけられるものではなく、すでに大きなマーケットを形成したひとつの「言論圏」にまで規模を拡大しているという認識を持たなければならない。

実際、新型コロナワクチンにかんする誤情報を拡散させようと暗躍するマーケティング会社の存在が確認されているほか、「反ワクチン」の主要なオピニオンリーダー十数名は40億円規模の収益をあげており、すでに一定の経済圏を獲得した「産業」になろうとしている。

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「大喜利」のネタとして消費される反ワクチン

「5G説」を筆頭とする「反ワクチン」系の論説はその内容があまりに奇異であったことは否めなかったため、「反ワクチン」をとくに支持しているわけでもない一般の人びとにとっては「面白おかしい」話として受け止められることは不可避だった。とりわけSNSで、「反ワクチン」系の説は「大喜利」的なネタとして消費されていった。たとえばツイッターの検索機能で「5G ワクチン」と入力して実行すれば、「反ワクチン」系の人びとの主張とならび「5Gワクチン説をネタにしたバズツイート」がヒットする。

「まだ生体通信機能を注入されていないの?」
「ワクチン接種のたび『自分もこれで5Gに接続できますね』と言われる医者の身にもなってくれ」

と、「反ワクチン」派の言説を茶化しながら否定する流れが大きなトレンドとなっていった。5Gにかぎらず「ワクチン《解毒》のために硬貨を足のツボに貼ろう!」といった反ワクチン派の呼びかけなども紹介され、そのたびにオーディエンスは面白がっていた。

正直なところ、これら「反ワクチン大喜利」のテクストはユーモアと皮肉が巧みに織り交ぜられ、たしかに笑える内容のものが多い。私自身も思わず吹き出してしまったことが何度かある。数千、数万単位のバズを獲得するのも納得できる。

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「ネタ化」を「説得の手段」として見たとき

しかしながら、これを「反ワクチン派の人びとを《説得》し、新型コロナウイルスに対する集団免疫を達成するための方略」として考えた場合、「反ワクチン派の説をネタとして茶化し否定していく」のは、あまり好ましい方法論とは言い難い。

というのも、SNSのコミュニケーションにおいて、特定の主張をする人の言説の誤りを「茶化し」を含みながら嘲笑的に指摘するのは、その人に自説の誤りを認めて改めさせる説得的な効果はほとんどないどころか、むしろ往々にして逆効果であるからだ。

残念なことに「茶化しを含んだ批判・否定」の言説はもっぱら「すでに反ワクチン系の言説を否定的に見ている人」にしか肯定的に響かない。したがって「身内」との結束や共感や連帯を高める役割を果たせるかもしれないが、しかし対立する「反ワクチン」の側の人びととの不和や分断はますます広がってしまう。

たとえ多くの人からは荒唐無稽で論ずるに値しない珍説であろうが、これを信じる人としてはこれまでずっと大事にしてきた価値観や思想を「嘲笑まじりに」否定する人びとの方が、論理的にも社会的にも「ただしい」と認めることは――よしんば科学的に正確であると理解・納得できたとしても――感情的に折り合いがつけられなくなってしまう。

2010年代後半から「ファクトチェック」というタームが世界的にも大きな流行となった。SNSによって伝播する、いわゆる「フェイクニュース」の拡散を食い止めるために、報道機関や専門家が先頭に立って行ってきたムーブメントである。しかしながら、世界各国で行われてきた「ファクトチェック」ムーブメントの果てには、「フェイクが駆逐されファクトが大衆社会に信じられ支持される理想的な世界」はやってこなかった。

「フェイクニュース」に関して、このたび興味深い研究結果が示された。

なんとフェイクニュースを拡散する人に対して、正論を突きつけることは、かえってその人物のツイートの質が低下し、偏りや有害性が強まるというのだ。

「エクセター大学」のMohsen Mosleh氏が率いるチームは、研究において、あるフェイクニュース11件を拡散しているTwitterユーザー約2000人を特定。

そして、用意したフェイクニュース訂正用アカウントから、ファクトチェックサイト「Snopes.com」のURLを貼り付けて、そのニュースが虚偽のものであるとリプライしたのだとか。

その後、内容を訂正されたユーザーのツイートを追跡し、分析をおこなうと、彼らの新たなリツイートの精度がさらに悪化。また、使用する言葉も、より過激な内容になる傾向がみられたという。

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TABI LABO『【研究結果】Twitterでのフェイクニュースに対する「正しい指摘」は逆効果?』(2021年6月2日)より引用
https://tabi-labo.com/300605/wt-twitter-fakenews-correcting-matters-worse

「フェイク」が駆逐された理想的世界はやってこなかったばかりか、むしろ両者の対立はより一層深くなっていった。2020年末のアメリカ大統領選で見られたように、すでに両陣営は相容れることない敵対関係となっていたことだけが可視化されたのだった。

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