テスラ→ポルシェ? EV市場に異変 – PRESIDENT Online

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EV化が叫ばれても実態は…

現在自動車のEV化の話題が盛んである。とくにヨーロッパは急進的であり、2035年までにHVを含む内燃機関車の販売を禁止する方針を打ち出している。そのためには消費者に買ってもらわないといけないため、各国はさまざまなインセンティブをつけてプラグイン車(EVおよびPHEV:プラグインハイブリッド車)の販売を伸ばそうとしている。

その結果、ヨーロッパでは今年に入って販売の約16%がプラグイン車となっており、純粋なEV(以下BEV)だけで見ると7.6%となっている。ブランド別で見るとフォルクスワーゲン、BMW、メルセデスベンツがプラグイン車販売トップ3だが、BMWとメルセデスベンツは現状ではPHEVが多い。

資料① Are cars cleaner today?
資料② Plugin Vehicles Hit 19% Market Share In Europe In June! Tesla Model 3 Has Best Month Ever!

BEV市場で強さを見せるテスラはもちろん生産台数のすべてがBEVであるが、テスラに次いでBEV比率の高い主要ブランドはどこか。

BEV化を積極的に進めているフォルクスワーゲンでも、世界販売に占めるBEV比率は3%をわずかに超える程度(2021年上半期)である。ヨーロッパに限っても7.4%である。現在、伝統的自動車メーカーでBEV比率が最も高いブランドは、非常に意外性のあるブランドである。それはなんとポルシェなのだ。

走行中のポルシェ・タイカン

※写真はイメージです – 写真=iStock.com/supergenijalac

アメリカでテスラ・モデルSより売れるポルシェ・タイカン

ポルシェのBEVはタイカンという1車種のみ(ボディタイプは2つある)だが、2021年上半期で1万9822台を売り上げた。タイカンの目標販売台数は年2万台なので、半年でそれを達成している。2021年後半も同じ程度の販売を見込んでいるため、年計では4万台に達するはずだ。

同時期のポルシェのアイコンといえる911の販売台数は2万611台なので、タイカンはすでに911と同等の販売台数になっている。この調子でいくと911を超える販売台数になる可能性が高い。するとSUV(カイエン、マカン)以外のモデルでは、タイカンが最も売れるモデルということになる。

ポルシェ販売に占めるタイカンの比率は12.9%に達している(2021年上半期)。この数字がすごいのは、EV販売支援策が手厚いヨーロッパの数字ではなく、全世界の販売に占める比率であるということだ。

ヨーロッパでは2021年上半期に6991台を販売、ポルシェ全体に占める割合は17.3%である。ポルシェはタイカン以外の電動車としてカイエンとパナメーラにPHEVモデルがあるが、ヨーロッパではこのプラグイン車3車種で約1万6000台を売り、ポルシェ販売の4割を占めるに至っているという。

資料③ Porsche Sold Almost 20,000 Taycan In H1 2021

アメリカでもタイカンはよく売れており、2021年上半期は5367台を売り、911の5108台、テスラ・モデルSの5155台をもしのぐ数字だ。

資料④ Porsche Reports Q2 2021 U.S. Retail Sales

ポルシェは、販売台数の多いマカンの次期モデルでBEVとPHEVを導入するとしており、そうなると電動化率はさらに高まるであろう。

ポルシェBEV成功要因①:商品企画

さて、高性能スポーツカーブランドであるポルシェのBEV、タイカンがなぜこんなに売れるのか。まず、第一の成功要因と考えられるのはその商品企画だ。

アウディのe-tronやメルセデスベンツのEQシリーズなどは、まずSUV的なプロポーションのモデルから導入した。SUV人気の高まりに加え、バッテリーを床下に搭載する関係からその車高の高さでSUVはBEVとして成立させやすく、合理的な判断だ。

しかしSUVでデザインの差別化を図るのは難しく、e-tronもEQシリーズ初のEQCもガソリンモデルのSUVとの差が一目ではわかりにくいモデルとなっている。

ポルシェ初BEVに課せられたブランドミッション

ポルシェは初のBEVを開発するにあたり、おそらくスポーツカーにこだわったと思われる。ポルシェのブランドアイコンは純スポーツカーの911だが、近年はSUV(カイエンとマカン)の販売が好調すぎて販売の3分の2を占めるに至っており、実質的にはスポーツカーメーカーというよりSUVメーカーとなってしまっているためだ。

911はリアオーバーハングに水平対向エンジンを搭載するというメカニズム上のユニークネスを持っており、それこそが911ファンがこだわるポイントである。それゆえ911をBEVとすることは困難である。

今後CO2排出量を減らすためにBEV化を進めざるを得ないポルシェとしては、将来的には911をブランドアイコンとして使い続けることができなくなるかもしれない。だとすれば、最初のBEVは新たなポルシェイメージを牽引(けんいん)できる車種とならなければならないと考えたはずだ。

そうなると、それがSUVというわけにはいかない。これ以上SUVメーカーイメージを高めるわけにはいかないからだ。新BEVは911とイメージが重なるようなスポーツカーでなければならない。

「ポルシェブランド」「先進・環境」イメージの融合を実現

ただし、新BEVにはもう1つ重要な役割がある。ブランド全体のCO2排出量を下げるというミッションである。そのためにはある程度以上の量を売る必要がある。2ドアのスポーツカーでは販売量は期待できない。

そこで選択されたボディタイプが、スポーツカーらしい低く構えたプロポーションながら4枚のドアを備えるという4ドアクーペである。そしてポルシェの4ドアモデルとしては最も911に近い、非常にポルシェらしいスタイリングを与えた。つまり、このようにして誕生したタイカンは4ドアながらいかにもポルシェ、という佇(たたず)まいのモデルとなった。

スタイリング的に他モデルとの差別化も十分で、一目で「ポルシェのBEV」ということがはっきりわかるモデルとなった。ポルシェというイメージに憧れつつBEVによる先進・環境派イメージも合わせて表現したい人のニーズと合致したのである。

ポルシェBEV成功要因②:テスラの成功

第2の成功要因として考えられるのは、テスラの爆発的増加という外部要因である。近年テスラはアメリカで最もステータス性の高い(=自慢できる)ブランドとして君臨しており、テスラ・モデルSはラージ・ラグジュアリー・カーという最上位セグメントで最も売れる車種となっている。

しかしここ数年アメリカにおけるテスラの販売は、ミドルクラスのモデル3とモデルYにシフトしており、テスラの販売は今年上半期だけで14万台に達している(モデル3発売前の2017年は年計で5万台程度)。

モデルSはセグメントトップの地位は維持しているものの、アメリカでの販売は大きく低下している(2018年の3分1の水準)。つまり、今やテスラのブランドイメージの中核はモデル3とモデルYであり、ステータスイメージは低下していると考えられるのだ。

この絶妙なタイミングで投入されたのがタイカンだった。それゆえか、ポルシェオーナー以外で最もタイカンに興味を持っているのはテスラユーザーだという。

資料⑤ Porsche attracting Tesla owners with all-electric Taycan sports car

ポルシェ タイカン

ポルシェ タイカン – 写真=Porsche-AG

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