ただのメッシュじゃない! AIや中継専用アンテナで武装、賢く進化するTP-Link「Deco X90」 2.5GbEにもWi-Fi 6にも対応で近距離で1.44Gbpsを実現【イニシャルB】

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 メッシュWi-Fiでお馴染みの「Deco」シリーズの新モデル「Deco X90」がTP-Linkから発売された。トライバンドに対応したWi-Fi 6製品だが、AIの採用や中継専用アンテナの搭載など、「メッシュ」の性能をとことん突き詰めた意欲作で、しかも、毎度のことながら値段も安い。その実力を検証してみた。

5万円以下で最新のトライバンドメッシュ2台セットが手に入る

 TP-Linkから登場したDeco X90は、非常に意欲的な製品だ。

 4804+1201+574Mbpsという、現在販売されているトライバンドメッシュWi-Fiルーターの競合モデルの中でもトップレベルの速度を実現しながら、価格は2台セットが実売で4万7791円と、さほど高くない。

TP-Link「Deco X90」。トライバンド対応メッシュでAI技術も採用した意欲作

 しかも、新たな取り組みとして、AIによってメッシュネットワークの最適化する「AIメッシュ」機能を搭載していたり、2台のDeco X90間を結ぶバックホールをつなぐために専用の「スマートアンテナ」を2本搭載していたりと、プラスαの機能強化までなされている。

 つまり、スペックは最高でありながら、価格は下位モデル並み、しかも、競合にはない新機能まで搭載されているという、強烈な製品になっている。

 個人的には、メッシュWi-Fiを構築するなら、バックホールで1帯域を占有できる「トライバンド」が最適だと思っているが、その最新モデルがこの価格で手に入るのだから、驚きだ。

Deco X90
実売価格 4万7791円(2パック)
CPU クアッドコア、1.5GHz
メモリ
Wi-Fiチップ(5GHz)
Wi-Fi対応規格 IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b
バンド数 3
160MHz対応
最大速度(2.4GHz) 574Mbps
最大速度(5GHz-1) 4804Mbps
最大速度(5GHz-2) 1201Mbps
チャネル(2.4GHz) 1~13
チャネル(5GHz-1)
チャネル(5GHz-2)
新電波法(144ch)
ストリーム数 8(5GHz帯4、2.4GHz帯4)
アンテナ 6本(内蔵)
WPA3
IPv6
DS-Lite
MAP-E
WAN 2.5Gbps×1
LAN 1Gbps×1
USB ×
動作モード RT/BR
ファームウェア自動更新
サイズ(幅×奥行×高さ) 130×123×210mm

2.5GbEポートはWAN/LAN自動認識Wi-Fi 6かつトライバンド対応の強力モデル

 それでは実機を見ていこう。

 本体は上から下に絞り込まれたような円筒形のデザインで、外周が上部に盛り上がるように半回転する独特の形状となっている。Decoシリーズは初代から、この渦巻のようなモチーフが採用されてきたが、本製品にもそれが踏襲されている。

 個人的には、Decoシリーズというとシンプルで「かわいらしい」イメージがあるのだが、本製品から、スマートというより、力強い印象を受けるのは、おそらくその大きさからだろう。本体サイズは130×123×210mmとなっており、従来のコンパクトな印象はなくなった。

 Wi-Fi 6でかつトライバンドとなると、内部の構成が複雑で排熱にも考慮する必要があるため、ある程度の大型化は仕方ないところだ。

正面

背面

底面

 インターフェースは、背面下部に用意され、下側が2.5Gbps、その上に1Gbps×1が配されている。有線ポートはLAN/WAN自動認識となっているのはDecoシリーズならではの伝統で、初期設定時に回線を接続した方がWANポートとなり、他方が自動的にLANポートとして構成されるようになっている。

 つまり、10Gbpsの回線用に2.5Gbpsを使いたい場合は初期設定時にONUと2.5Gbpsポートをつないでおけばいいし、2.5Gbps対応NASなどLAN側に2.5Gbpsを使いたい場合は、初期設定時に1Gbpsポートを回線につないでおけばいい。

 設定画面などからの切り替えは不要で、自動的に認識してくれるのは、他社にも真似て欲しい美点と言える。

 最近は、10Gbps対応のインターネット回線や、2.5Gbps対応NASなど、1Gbps以上に対応する機器が増えてきたが、こうした高速なWAN/LAN環境にも対応が可能となっている。

メッシュWi-Fi性能が賢く進化

 本製品で特徴的なのは、やはりメッシュWi-Fiの機能だ。

 前述したように、本製品は4804Mbps(5GHz/4ストリームで160MHz幅)、1201Mbps(5GHz/2ストリームで80MHz幅)、574Mbps(2.4GHz/2ストリーム)のトライバンドに対応している。

 メッシュWi-Fiでは、メッシュのノード間を結ぶ基幹となるバックホールが命と言っても過言ではない。

 バックホールの帯域をクライアント接続用と共有するデュアルバンドとは異なり、バックホール専用に1帯域を確保できるトライバンドは、それだけでもメッシュWi-Fiとして優秀なのだが、本製品では、このメッシュをさらに快適化する2つの技術を搭載している(有線バックホールにも対応)。

自分の使い方に合わせてくれる賢い「AIメッシュ」

 その1つが「AIメッシュ(AIドリブンメッシュ)」と呼ばれる技術だ。

 メッシュWi-Fiは、複数のノードで複数の帯域を使って複雑に絡み合うネットワークを構成するため、以下のような複雑な要素を考慮してネットワークを最適化する必要がある。

  1. どの帯域をバックホールとして使うか
  2. バックホールに使う帯域でどのチャネルを選ぶか
  3. どのような形態(トポロジー)でノード間を接続するか
  4. クライアントをどの帯域に接続させるか
  5. クライアントをどのタイミングで別のノードにつなぎ換えるか

 従来のメッシュ製品は、こうした構成がメーカー独自の設計による「ベストプラクティス」で構成されるケースが多かった。例えば、バックホールは5GHz帯のW56のチャネルで固定、移動中のクライアントが切断されたら別のノードに切り替える、というのがそうだ。これは、平均的な環境を想定したもので、悪いわけではないが、実際の設置現場の状況に最適化されているとは言い難かった。

 そもそもメッシュは、こうした面倒な構成をユーザーが考慮せず、機器側にお任せできるのがメリットではあるのだが、それが最適解では必ずしもなかったわけだ。

 本製品は、こうした状況を改善するために、AIによる学習機能を活用している。設置後、Deco X90は、ネットワーク内の電波干渉元や、ネットワーク内のDecoユニットの数や性能、ユニット同士の電波強度やユニットごとの負荷の傾向などを学習する。

 そこから、無線チャネル、バックホール帯域、Deco同士のトポロジー、クライアント端末の接続先ユニットおよび帯域などのパラメーターを自動的に調整し、最もパフォーマンスを発揮できる構成を自分で構成する。

 これにより、例えば、近隣で5GHz帯のWi-Fiが使われていればバックホールの帯域やチャネルを切り替えたり、家の中を歩きながら使うようなケースが多ければ、クライアントがどの場所まで移動したら切断されてしまうのかを学習し、切断される前に別のノードへと接続先を切り替えたりするように、学習させることができる。

 従来製品では、「切れる」「遅い」があっても自ら設定を変更しないと対処できなかったが、本製品は、こうした状況を自動的に調査し、学習し、改善することができる。要するに、ユーザーの使い方に合わせて、「遅くならない」工夫を常に繰り返してくれる賢いメッシュというわけだ。

AIメッシュの図

バックホールを最適化するスマートアンテナ

 もう1つは、スマートアンテナと呼ばれる内蔵された2本のアンテナだ。

 前述したように、メッシュWi-Fiはバックホールが命、と言っても過言ではない。特に日本国内で最も多いであろう2台構成のメッシュでは、バックホールは基本的に1本となるため、ここに各ノードへ接続したクライアントの通信が流れ込むことになる。この幹線道路のようなバックホールは、なるべく太く、安定した通信が不可欠だ。

 Deco X90では、内部に合計6本のアンテナを搭載しているが、このうちの2本をスマートアンテナと呼ばれるバックホール専用の通信に割り当てている。

 バックホール用の帯域は、2.4GHz、5GHz-1、5GHz-2の3バンド全てのうちから、状況に合わせて動的に割り当てられるが、1201Mbpsの5GHz-2に関してはバックホール専用となる。通常は、この1Gbpsオーバーの帯域を使って、メッシュのノード間が接続されることになるだろう。

 これにより、Deco X90はメッシュ構成時に対抗となるノードを自動的に検出し、その設置場所や周囲の電波状況から、対抗ノードと自らの間で最も高速になる組み合わせの帯域を使い、バックホールを構成することができる。

 例えば、筆者は経験上、バックホールとして周囲での利用頻度が低い100chを選択することが多いが、これがほかの環境でも最適とは限らない。もしかすると、W52のチャネルを選んだ方が安定するかもしれないし、ノード間の距離が長いケースでは160MHz幅ではなく80MHz幅を選んだ方が速いかもしれない。さらに、建物の構造によっては、あえて2.4GHzを選んだ方が速いといったことも考えられる。

 こうした例はケースバイケースなので、初心者でなくても、ユーザー自らが判断するのは困難だ(もしくは相当な調査の時間がかかる)。しかし、Deco X90では、ほかのノードでサポートされている帯域などを自動的に検出し、そこから最適なパフォーマンスが得られるバックホールを自動的に構成する。

 AIメッシュと同様に、バックホールについて「どうしようか?」と悩む必要がないわけだ。箱から出してセットアップして使っているだけ、これであとはDeco X90まかせで最適化されるのだから、うれしい限りだ。

2.5Gbps有線LAN+2402Mbpsの威力で近距離1.44Gbpsを実現

 気になるパフォーマンスは、やはり非常に優秀だ。以下は、木造3階建ての筆者宅の1階と3階に本製品を設置し、iPerf3による速度を計測した結果だ。2.5Gbps有線LANの実力も検証するためにLAN側として設定し、そこに計測用のPCを接続している。

1F 2F 3F入口 3F窓際
Deco X90×2 PC 上り 1140 622 294 274
下り 1440 1220 691 466
iPhone 上り 523 272 246 237
下り 819 403 384 372

 まずは近距離だが、2.5Gbps有線LAN+2402Mbps(160MHz幅)の威力を生かし、1.44Gbpsと楽々1Gbpsを越える値をマークすることができた。これなら、1Gbps以上の回線を利用して高速なインターネット接続を堪能することもできるし、2.5Gbps対応のNASなどを使って高速にデータをやり取りすることも可能だ。

 2階の中距離に関しては、ノートPCでは700Mbpsクラスの速度が実現できている。1階のノードとの接続を維持できる距離であれば、1階ほどではないにせよ、かなり高い速度での通信が可能だ。

 ただし、メッシュWi-Fiという構成の性質上、2階にいたとしても、3階のノードに接続されてしまうことがあり、こうしたケースでは中継ロスにより200Mbpsクラス(特にiPhone)となってしまうことがあった。

 しかしながら本来であれば、ここはAIメッシュの威力が生きるシーンと考えられる。2階での利用頻度が高ければそれを学習し、2階での通信速度が最適になるよう、今後は接続先として1階を選ぶように構成される可能性もある。

 こうした最適化は、比較的長期間運用しないと効果が見られないため、今回は、値として現れることはなかったのは残念だが、「メッシュWi-Fiってこんなもんだよね」という他社製品での思い込みが、本製品であれば改善される可能性も高い。このあたりは、継続的に評価してみたいポイントだ。

セキュリティ機能「HomeShield」にも対応ペアレンタルコントロールやQoSの機能も

 このほかの付加機能としては、セキュリティ機能の「HomeShield」にも対応している点が挙げられる。

 これは、ネットワークでやり取りされる通信をチェックし、不正な通信を遮断したり、子どもが意図しないコンテンツにアクセスしないように制限したりできる機能だ。

 具体的な機能は同社のウェブサイトを参照して欲しいが、無償で提供されるBasicでも、IoTデバイスの識別、ネットワークセキュリティスキャン、デバイス単位のQoS、保護者による制限(ウェブサイトブロック)、端末ごとのアクセス統計などの機能を利用できる。

 例えば、アプリからワンタップで、チャネルの混雑状況とセキュリティ対策状況をチェックできる。これにより、Wi-Fiに接続するためのパスワードがシンプル過ぎる場合などに、危険であることが表示される。

 Wi-Fiルーターのセキュリティ対策をしたいが、何をすればいいのかが分からないという人でも安心だ。

ネットワークスキャンによるセキュリティチェックが可能

 また、「娘」や「息子」などのプロファイルを追加し、そこに子どもが使う端末を一覧から選んで登録することで、プロファイルごとにアクセスできるコンテンツを制限できる。端末ごとに設定するタイプと異なり、プロファイルで設定できるため、子どもが使う端末がスマートフォン、PC、ゲーム機などと複数ある場合にも、まとめて制限できるのがメリットだ。

 このほか、テレワークのために、QoSで自分が使うPCの優先度を上げておくといった機能も利用できる。

 マルウェア対策などをするには、有料版(1カ月無料)の契約が必要だが、無料版でも十分な対策ができるので、かなりお得だ。

 なお、本製品は、海外メーカー製品としては珍しくインターネット接続方式でDS-Liteに対応しており、その点も高く評価したいのだが、残念ながらDS-Liteを選択した場合は、この機能は無効になってしまうので注意したい。

HomeShieldによる制限機能(ウェブサイトブロック)が利用可能

DS-Liteにも対応しているが、HomeShieldなどの機能はDS-Liteでは利用できない

コスト、機能、使いやすさ、完成度が高くお買い得な製品

 以上、TP-LinkのDeco X90を実際に使ってみたが、非常に完成度の高い製品となっている。設定も簡単で、スマートフォン用のアプリを使ってステップバイステップで、すぐにセットアップすることもできる。

 コスト、機能、使いやすさ、どこを取っても隙がない製品で、この性能が5万円以下で手に入るのはお得感が非常に高い。AIメッシュとスマートアンテナによる独自の機能強化も魅力で、誰にでもお勧めできる製品だ。

(協力:ティーピーリンクジャパン株式会社)

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