コロナ発生源調査の報告期限迫る!

アゴラ 言論プラットフォーム

バイデン米大統領は5月26日、新型コロナウイルスの発生源について、「情報を収集して、新型コロナウイルスが動物から人に感染したのか、それとも武漢ウイルス研究所(WIV)から流出したのかを調査し、90日以内に報告を提出するように」と情報機関に通達した。その報告期限が迫ってきた。

アフガニスタン問題で国家安全問題担当関係者と協議するバイデン大統領(ホワイトハウス公式ツイッターから、2021年8月13日)

トランプ前大統領はコロナ発生源問題では明確な立場を示してきた。トランプ氏が主張する「WIV流出説」は当時、根拠のない陰謀説と受け取られ、メディアからは冷たく扱われた。それがバイデン大統領の5月26日の発表前後から状況が激変した。WIV流出説が注目されてきたのだ。それを支える新たな状況証拠もメディアで報じられた。

①2019年11月、3人のWIV研究員がコロナに感染していた可能性があること、②19年9月12日、WIVで保管してきた膨大なウイルス関連情報のデータベースが突然、オフラインとなった、③WIV周辺の5カ所の病院の駐車場に同時期、普段より多い車両が駐車していたことが人工衛星の写真分析で判明、④WIVは19年9月以降、P2、P3の研究所の安全管理が不十分であることを認め、メンテナンスを頻繁に行っていた。以上は、米共和党が米議会に提出した「新型コロナウイルスの発生源調査」に関する追加報告書の中に記述されている。

もちろん、その前にも2、3の状況証拠が報じられた。①19年10月中国武漢で行われた第7回世界軍人運動会(武漢軍運動会)に参加した選手たちが帰国後、新型コロナの症状の疑いが出たことが発覚。4カ国から同様の報告が出ている、②イタリア高等衛生研究所によると、同国北部の2都市に新型コロナウイルスが19年12月に存在していたことが、同研究所が行った下水調査で判明した。ミラノやトリノの下水から19年12月18日に採取されたサンプルに新型コロナウイルス「Sars-Cov-2」の遺伝子の痕跡が発見された。

以上の報告から、新型コロナウイルスは「2019年9月12日前」にWIVから流出していた可能性が考えられるわけだ。このコラム欄でも「ダザック氏よ、議会召喚に応じよ」(2021年8月12日)で詳細に書いたばかりだ。

問題は、米共和党の報告書などで明らかになった内容は「WIV流出説」を支持する状況証拠であって、新型コロナウイルスがWIVから流出したことを証明しているわけではないし、中国共産党政権が新型コロナウイルスのWIV流出を隠蔽してきたことを証明するものではない。殺人容疑者が限りなく「黒」に近くても、決定的な証拠、証言がない限り、容疑者を「黒」と判決を下すことはできないのだ。

看過できない事実は、欧米メディアから「コウモリ女」と呼ばれ、新型コロナウイルス研究の第一人者、石正麗氏がウイルス遺伝子工作の痕跡を消滅する技術を遅くとも18年にはマスターしていた可能性があることだ。欧米のウイルス研究者の中には、「新型コロナウイルスには遺伝子工作の痕跡があった」と指摘する声があるが、石正麗氏は、「それは有り得ない」と一蹴して譲らないのは、ウイルス遺伝子工作の痕跡を消滅させる技術を取得しているからではないか。

ちなみに、同技術は米ノースカロライナ大学のラルフ・バリック教授が開発したものだ。石正麗氏は「コロナウイルスの父」と呼ばれるバリック教授やペーター・ダザック氏(英国人動物学者で、米国の非営利組織、エコ・ヘルス・アライアンス会長)と共同研究をしている。そのプロセスで遺伝子工作の痕跡削除技術を取得したはずだ。バリック教授は、「痕跡を残さずウイルスを編集できる」と述べている。

果たして、米情報機関は8月26日までにバイデン氏に中国共産党政権を「黒」と断言できる証拠を提示できるだろうか。米情報機関がWIVから膨大なウイルス関連のデータベースを獲得したというニュースが流れている。米国側がそのデータベースを分析し、ウイルスの遺伝子工作時の情報を獲得できれば、WIVでコロナウイルスの遺伝子操作が行われていたことが実証できる。そうなれば、石正麗氏や中国共産党政権のこれまでの主張が嘘だったことが判明し、WIV流出説をもはや否定できなくなる。

一方、WIV流出説を証明する証拠を提示できなかった場合だ。バイデン政権は新型コロナウイルスはウイルスに感染した動物から人に感染したという説を否定できないため、WIV流出説と自然発生説の2つの説を列挙するだけに留まり、ウイルス発生源問題を棚上げすることになるだろう。

米国側は国際世論の要請を受けて新型コロナ発生源問題を追及したことで一応メンツを維持できる。その結果、「残念ながら決定的な証拠が見つからなかった」と説明し、ウイルス発生源問題で対立してきた中国側と妥協する道を模索し出すのではないか。

バイデン政権は対中政策ではトランプ前政権の強硬路線を継承している、といったメディアの報道があるが、穿った見方をすれば、バイデン氏は対中政策で強硬姿勢を見せることで国内の保守派世論を宥める一方、トランプ政権下で険悪な関係となった中国との関係正常化を模索するために、「3カ月間」という調査期限を設定してWIV起源説問題の幕引きを巧みに図った、と受け取ることもできる。

コロナ発生源問題を解決する方法は、バリック教授とダザック氏を議会に呼び、石正麗氏との共同研究の内容を証言させることだ。可能ならば、司法取引をし、真実を語らせるべきだ。武漢発新型コロナウイルスの感染で世界で400万人以上の人間の命が失われ、それ以上の数の人が後遺症に悩まされているのだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年8月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。