by Mark Dumont
人間は他人と会話などのコミュニケーションを取る時、最初に「こんにちは」、別れ際に「さようなら」とあいさつをします。このあいさつは「他人と共通の目標に向かって協力してコミュニケーションを取るための合図」として「ジョイントコミットメント」と呼ばれ、人間特有の行動とされていました。しかし、イギリスのダラム大学の研究チームが、ボノボやチンパンジーなどの類人猿もジョイントコミットメントを行っていることがわかったと報告しています。
Assessing joint commitment as a process in great apes: iScience
https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(21)00840-3
Like humans, apes communicate to start and end social interactions
https://phys.org/news/2021-08-humans-apes-social-interactions.html
たとえば人間の子どもを対象にした実験で、実験者が子どもたちと遊んでいる途中に突然遊びをやめると、子どもたちがおもちゃを差し出して遊びを続けるようにせがんだり、声を挙げて「まだ遊んでほしい」という意思を示したという結果があり、この子どもたちの行動はジョイントコミットメントの一種だと考えられています。
ダラム大学の博士研究員であるラファエラ・ヒーセン氏はある日、2頭のボノボが毛づくろいをしている時に一旦中断したものの、何かしらのジェスチャーを示して再開する状況を目撃し、類人猿にもジョイントコミットメントが存在するのではないかと考えました。そこで、ヒーセン氏らの研究チームが動物園にいるボノボとチンパンジーのグループによる1242件のコミュニケーション例を分析した結果、ボノボやチンパンジーはコミュニケーションを取る最初と最後にジェスチャーを送り合ったりお互いを頻繁に見つめ合ったりしていることがわかりました。
たとえば、ボノボは90%の確率で、チンパンジーは69%の確率で、他人と遊ぶ前に「お互いに触れる」「手をつなぐ」「頭をぶつけ合う」などのジェスチャーを送ったり、視線を交わしたりしていたとのこと。また、遊びをやめる場合はボノボは92%の確率で、チンパンジーは86%の確率で何らかのジェスチャーを相手に見せたそうです。
実際に2頭のチンパンジーがジェスチャーをきっかけにコミュニケーションを始める様子を以下のムービーで見ることができます。
Chimps entering a grooming interaction – YouTube
[embedded content]
まず2匹のチンパンジーが視線を交わします
そのあと、体が大きい方のチンパンジー(画像右)が小さい方(画像左)の体をタッチします。
数回のタッチの後、大きい方が小さい方の毛づくろいを開始しました。
さらにボノボの場合、お互いの心理的距離が近ければ近いほど、コミュニケーション開始・終了の合図の長さが短くなっていることがわかりました。ヒーセン氏は「人間も、仲のいい友人と交流する時はあいさつを丁寧にすることはあまりありません」と述べています。つまり、ボノボのジョイントコミットメントには、個体の友情や社会的な結びつきの強さが影響しているといえます。
一方で、チンパンジーでは友情や社会的な結びつきにかかわらず、コミュニケーション開始・終了の合図の長さは変わらなかったとのこと。研究チームは、ボノボの社会は一般的に平等主義的で、女性同士の友情や同盟関係、親子関係が重視されているのに対して、チンパンジーの社会は専制的な権力階層に基づいているため、心理的距離や社会的距離があいさつに影響を与えなかったのではないかと推測しています。
ヒーセン氏は「動物の行動は化石になりません。地面から骨を発掘しても、その動物の行動がどのように進化したかを調べることはできません。しかし、私たち人間に最も近いボノボやチンパンジーを研究することはできます。この種のジョイントコミットメントが他の種にもみられるかどうかは今後の研究においても興味深いポイントです」と述べました。
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