ワクチンは「原則接種」化すべき – 石戸 諭

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急激に増えた若年層のコロナ感染

新型コロナウイルスが過去最大の流行を見せている。デルタ株の影響はかなり大きい。どうにも収束させるための現実的な手段は、ワクチン接種くらいしかない。20代〜30代の感染者が多いのはある意味では当たり前のことで、若年層は低リスクだからという理由で、アクティブに動くにもかかわらずワクチン接種が後回しになったのだから責めても仕方がない。

ワクチンと若年層については、インターネットに蔓延する「ワクチンに関する誤った情報に若者が触れる」ことによって、ワクチンを忌避する人が多いという前提に立った発信が目立っている。「正しい知識」を届けようという取り組みもかつてないほどに多く、インターネットで発信を続ける医師たちも奮闘している。

大手メディアもそうした前提に立ち、過去の報道に比べれば、テレビも含めてワクチンの成果を伝える情報や、ワクチンデマを検証するニュースを多く流している。医師や科学者がまだまだ不十分だという声を上げたくなる気持ちもわかるが、メディアの現場、現実を知っている私からすると、想定以上にワクチン、それも効果についてはポジティブな報道が続いている。それ自体は歓迎すべきことだ。

では、実際にワクチンを忌避する人々はどの程度いるのか。ひとつ参考になるデータがある。国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)トランスレーショナル・メディカルセンター大久保亮室長らの研究グループの大規模調査によれば(https://www.ncnp.go.jp/topics/2021/20210625p.html)、確かに高齢層よりも若年層のほうがワクチン忌避者の割合は高いが、一番高い若年女性層でも15・6%程度だ。言い換えれば、8割以上の大多数の若者はワクチンを忌避してはいない。

人間は正しい情報を伝えられれば、望ましい(この場合はワクチン接種)行動を取るわけではない。高齢者はとにかく早く打ちたいという人が多かったし、家族や周囲が望んだため打つという人もいた。当然の帰結だ。1年以上、ずっとハイリスクと言われ、「感染したらいかに危険か。どれだけ命にかかわるか」という情報ばかりを浴びせられれば、危機感は強まるだろう。若年層はどうだろうか。最初からリスクは低いとされ、だからこそ多くの自治体のワクチン接種で、若者を後回しにすることが正当化されたはずだ。

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「予防に勝る治療なし」だが・・・

政治や専門家が強く発信したメッセージは、最初から「高齢者の重症化リスクが高い」だった。若者の危機感が薄いと見るや、「若くても重症化する人々もいる」と繰り返されるようになったが、人間の認知は都合よくアップデートされるようにはできていない。

私のように仕事上も制限がかかった生活は嫌で、多くの人と接する可能性がある仕事である以上、早くワクチンを打ちたいという人もいれば、そうではない人もでてくる。これまでのメッセージを踏まえれば、感染のリスクよりも、副反応のリスクのほうを恐れるという人たちが出るのもまた合理的な判断と言える。

ここから先に必要なのは、目標の共有だ。ロジスティクスや、会場や打ち手の確保に難点があるという問題はすべて改善されたとしても、特に若年層の接種率が上がらないという問題に直面することがありうる。今後は、コミュニケーションの問題や、ワクチンに不安を持つ人たちへ「理解」をどう促すかという問題への備えが必要だ。

これまで積み上がっている知見を踏まえる限り、副反応というリスクは避けられないにしても、それを上回るメリットが十二分にある。ざっとあげられるだけでも、感染リスクが軽減され、感染させるリスクも低くなり、さらに仮に感染したとしても軽症で済むという効果も期待できる。ワクチンが作れない感染症もある中で、これだけのスピードで実用化が進んだというのは、朗報である。

「予防に勝る治療なし」というのは医学界の格言だが、メディアや記者によっては、ワクチンの副反応にばかり注目してしまい、不必要なまでに不安を煽ることを仕事だと思っているフシがある。だが、それでは感染症対策は進まない。現状、打ちたくない人が打たなかったとしても、広くかつ早くワクチン接種が進むことで、感染症の流行を今よりも抑えることができる。

現実的な目標はここにある。100%の人が接種することも、新型コロナウイルスをゼロにすることもありえない目標だが、ワクチン接種を広げていくことで、流行の波を最小限に抑えること。それは現実的かつ目指せる目標だ。

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「ワクチン原則接種」化が接種率向上の切り札か

目標に向けて忘れてはいけないのは、多くの若者はワクチンを忌避していないという現実を忘れないことだ。インターネットの極端なデマは社会の一側面をあらわしているが、そこに振り回されると現実の若者を見失う。

ワクチンの接種率を高めるために必要な知恵は現場にいくつもあるだろう。実際に私が自治体で接種予約をして感じたのは、予約の手間だ。

私の手元にも、自治体から届いたワクチンの接種券がある。年齢別に解禁される日時にあわせて予約を取るように指示されていたが、このやり方ではこれ以上、接種率向上は見込めない。人間はよほどの危機感がない限り、自ら行動することをコストがかかると感じてしまう。言い換えれば、面倒なことを積極的にやりたがらないのが人間である。

鍵となるのは「ワクチンを拒否するほどではないが、さほど危機感も抱いていない」層をどう取り込むかだ。

少なくとも、接種のコストを下げる工夫はいる。例えば、職域接種も含めて、「希望する人に手を挙げてもらって接種をする」ではなく、「原則は接種、ただし打ちたくない人は手を挙げてもらう」といったようにデフォルトを切り替えることだ。

予約の手間を簡素にするために、例えば、接種券発送の時点であらかじめ全員に日時と場所を指定しておく。最後に接種予約確定のボタンだけ押してもうらという手間は残るが、現状よりは簡素化される。その際に、どうしても日程の調整がつかないとか、接種を強く希望しないという人に限り日時と場所の変更、拒否を認める。

職域接種も同じようにあらかじめ日時等を指定する。一定期間、反応がなかった社員らに「予約が確定」したという通知を送るというのも一案だろう。無論、そこで予約を取り消したい人は取り消せばいい。これによって、拒否したい人の権利も尊重できる。

今のままでは「ワクチンを拒否するほどではないが、さほど危機感も抱いていない」という層には届かなくなる。「原則接種」にデフォルトを切り替えることによって、より効率的なアイディアも出てくるだろう。

大人のワクチン接種は個人を守るだけでなく、家庭や職場といった自分が所属するコミュニティや、さまざまな価値観の人々が共存する社会を守るためのものであり、次世代を守るためのものだ。それは何らかの理由で、ワクチン接種を受けられない人々を守ることにもつながる。多くの人が打ちやすい仕組みを作ることは、結果的に「ワクチンを接種できない」人たちの利益にもつながるという点を忘れてはいけない。

恐怖や正論に訴えてワクチン接種を進めるよりも、原則接種ですよと言われるだけで行動が変わる人もいる。意識を高めて進んで接種するのは理想的だが、「面倒」を省くだけで行動が変わるのならばそれでも十分に成果がある。今後、議論が本格化しそうなのは、人の行動制限ができるような法整備だが、ワクチン接種もまだまだやり方はある。最後の目標は流行を最小化し、現実的に収束を目指すことなのだから、後者も議論してほしいと思うのだが……。

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