日本的チャレンジ

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日経ビジネス電子版に「稲盛和夫氏創業の京セラも悩む、『社風』ってそもそも何だ?」と銘打って京セラがチャレンジしなくなった現状、そしてその打破にむけた方策が記されています。稲盛氏のフィロソフィとアメーバ経営の発祥であった京セラも巨大企業となり、アメーバの単位が大きくなり、100人規模になっているアメーバ単位では意見が通らないといった風通しの悪さが生じていると指摘されています。

京セラ本社

高く評価されている稲盛氏のアメーバ方式ですが、極めて日本的なこのやり方が必ずしも万全ではない例として企業内不祥事があります。記事では「社風」をその悪役にしていますが、私はアメーバ化することで悪玉コレステロールのような悪の温床の原因になりかねないと考えています。三菱電機など長きにわたり、改ざんを維持してきた話は枚挙にいとまがありません。欧米企業でも悪事はありますが、どちらかといえばトップが関与したものが多いのに対して日本のそれは現場ベースで行われ、長年気がつかなかったというケースが多いように思えます。

私なりの解釈は欧米は個人主義で人も代わりやすく悪玉(=隠し事)を何年もキャリーする組織や思想がそもそも存在しえないのだろうと考えています。一方、日本は社長といえども非常にフラットな組織で企業によっては何百もあるアメーバ組織と内部昇格の人事制度によりメスが入りにくいとも言えます。前述の京セラの社長、谷本秀夫氏は10-20人単位アメーバと1回あたり2時間も割いて対話をして、風通しを良くしようと心がけているそうです。

北米に長い私にはその手法は理解しがたいものがありますが、極めて日本的な集団においては「降臨」という発想があると考えています。つまり「社長がやってきた」です。北米では「社長のところに行く」ですが、日本では来ていただくことに高い価値を持っているのです。日本の歴史が好例で天皇陛下をはじめ、偉い方が遠路はるばるとなれば感謝感激で同胞心と絆がより強くなります。

その京セラではスタートアップのアイディアを募集したら820件集まった、とあります。同じようなスタートアップ方式は三井物産など多くの大手企業もこぞって取り入れています。しかし、これも不思議でこれでは経営者が経営の審査員に成り代わっているのです。つまり、経営のアイディアを下から上げさせ、良いものを資金を付けて実行に移すというわけです。

もっと言ってしまえば80年代のQCサークルと同じだと思います。

これ、成功するでしょうか?日本的には小粒な改良型成功があるかもしれませんが、潮流を変えるほどの大きなものにはなりません。せっかく何千人という社員がいるなら一丸となった大きな目標とそのベクトルに沿った付随的アイディアを出していきながら、不退転の覚悟を持たねばならないはずです。

例えば昨日アメリカの映画館会社AMCが映画のチケットの購入にビットコイン決済ができるようにする、と発表しました。これなどは大掛かりで時代に挑戦しています。チャレンジとは今まで人がやったことないこと、どの企業もなしえていないことをやり、ディファクトスタンダードを作ることだと思っています。一方、日本にニッチビジネス(隙間ビジネス)はもうないともいわれています。ないのではなくて斬新なアイディアが生まれず、せっかくよいアイディアがあっても足を引っ張る既存勢力に潰される悪しき傾向がみられるのです。

北米ではスタートアップを高く評価し、大手が買収するなどしてそのアイディアを生かす一方、日本では大手による弱小企業への圧力となれば今、スタートアップが流行語であっても伸ばしようがないとも思えるのです。日経ビジネスによるとグーグルが日本のスマホ決済の小さな企業、Pring社(従業員12名、売り上げ1億円足らず)を100億円で買収しました。一方、スマホ決済の先駆者、オリガミは同業からの激しい「チャレンジ」で実質経営破綻に追い込まれています。

私は日本企業を応援したいし、ニュービジネスがどんどん生まれ、世界を席巻してもらいたいと思っています。その中で日本的経営において海外のトレンディな経営スタイルをうまく取り込めない点は留意すべき点でしょう。チャレンジ一つとっても奥深いものだと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年8月11日の記事より転載させていただきました。

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