「まだ生きているのは奇跡」サルデーニャ島で発生した山火事の爪痕

GIZMODO

先月末、イタリアのサルデーニャ島では大規模な山火事が発生しました。Sara Perria記者が島にもたらされた被害、そして住民の嘆きをまとめています。


低木や昔からあるオリーブの木々にルビー色のブドウ畑が広がっていた地中海の景色は、今や素朴なサルデーニャ海の丘に黒焦げた残骸がしがみついている無残な光景へと変わってしまいました。

オリスターノ県西部にあるクーリエリの町へと続く道路は、焼け焦げた木々と牧草地に囲まれています。前例のない、ものすごい火災は少なくとも森林4万9000エーカー、サッカー場にして2万8000面分を焼き払いました。何千頭もの野生動物や家畜が死に、1500人が避難する羽目に。

消火活動のために水を運ぶカナディア製の航空機は、オリーブオイルで知られている歴史的な村落が散在する120平方kmの山岳地帯モンティフェッルの上空を4日間絶えず飛び続け、イタリアの森林警察、赤十字、そして救急車が行き交いました。

近年、気候危機が悪化するとともにアメリカ西部シベリアオーストラリアと、世界各地が山火事の多発に見舞われています。そういった山火事が燃え広がる、暑くて乾燥した気候に突風が加わるという条件が地中海で2番目に大きい島、サルデーニャにやってきたのです。観光事業と農業に強く依存した地域にとって、今回の火事は壊滅的な打撃であると同時に、気候危機から安全な場所はないという注意喚起でもあります。

とある市民保護部隊の一員は「まだ完全には終わっていません」と述べていました。

いつもは夏の観光客で溢れる海岸からはそう遠くはないクーリエリは、ボナルカドとサントゥ・ルッスルジュとともに被害が甚大だった村の1つです。NASAの衛星写真はその地域に点在する火事を示しています。灰の中を歩く住民2600人にとって煙を含んだ空気は呼吸しづらいものでした。歴史的な価値があり、同地のシンボルで太い幹を持つ樹齢1100年のオリーブの木Sa Tanca Mannaでさえ、その大部分が焼かれてしまったのです。

村の公務員であるGianniさんは、「クーリエリはもはや存在しない」と述べていました。彼は子供のビニールプールの水を使って間一髪で自宅を守ったと説明。「子供たちは泣き叫び、火の手は玄関先まで来ていて、隣はガソリンスタンド。私たちは家屋を守れたが、何が残っている?村はオリーブとブドウ畑で成り立っているのに、全部なくなってしまった」

3代続く地元のオリーブオイル会社PeddioのマネージャーLaura Coccoさんは、丘から炎が迫ってくるのを見たと言います。

「私たちは四方を完全に囲まれていて村を去るのは不可能でしたから、怖かったです。すべてが焼き尽くされると思いましたし、消防士はここに来るには忙しすぎたので、私たちの優先事項は事業を守ることでした。ウォータータンクをトラクターに載せて全力を尽くしたんです」と改修したばかりのオリーブ搾油機の近くにある黒くなったオリーブの木の残骸の隣に立ちながら語っていました。「まだ被害を評価しなくてはなりませんが、数世紀の歴史を持つオリーブの木々の40%が失われてしまいました。何とか海に近いものは守れましたが、それ以外はそれほど幸運ではなかったのです」

損失を見積もるには数カ月とはいかないまでも数週間はかかるでしょう。しかし、今回の火事はこれまで島が体験したことのないようなものでした。

Lauraさんの母親Carmelaさんは「ここでは誰もが全てを失いました。1983年や1994年のように過去にも火事はありましたが、今回ほどの規模ではありません」と回想。「私たちがまだ生きているのは奇跡です」と言いました。

サルデーニャは気候変動の著しい影響を受けました。夏の気温はさらに上昇、冬の降雨量は増加し、それが原因で数カ月前にはビッティという村で3人が亡くなっています。経済は観光と農業に高く依存していて、気候危機が環境的な問題であると同時に経済的な問題になったことがますます明らかになりました。

欧州森林火災情報システム(EFFIS)の2019年データによれば、2018年と2019年のイタリアは過去60年間において最も暑かった年で、1961年から1990年にかけての平均気温と比べると1.56℃上昇していたとか。この上昇は特に夏の月に顕著でした。EFFISの報告書には降雨量が12%増加したとも記されています。しかし降雨量の大部分は、この冬の使者を出した雨のように極端な気象から生じています。サルデーニャのような地域は近年、頻繁な干ばつのせいで連続100日間も雨が降らず、その後大きな洪水に見舞われているということです。

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クーリエリ近くの樹齢1100年のオリーブの木の残骸
Photo: Valeria Murgia

しかしこういった気候変動の明らかな兆候には、緊急事態に備える一層の努力が伴われていません。ヨーロッパどころか世界中で共通する傾向のように見えるのは、ますます頻繫に起きるようになった熱波山火事洪水によって引き起こされるダメージの甚大さに政治家たちがショックを受けていたことです。眼前の問題に取り組む準備が本当に整っているようにみえる為政者たちは少ないようです。

Carmela Coccoさんは「予防に注力する必要があります」と言います。「以前にも火事が起きましたが、私が覚えている中でも最も大きかったものでさえこれほどではなかった。もし高い気温がこの規模の火事を燃え上がらせるなら、森林と畑を完全にきれいにして森林には防火バリアを置く必要があります」とのこと。

40℃超の気温がと何日間も続いた風が相まったことを考えると、なぜ防止モニタリングメカニズムが整っておらず、十分なインフラがなかったのか不思議に思う人たちもいます。

20件の火事のうち1件は車が原因かもしれないものの、放火による出火もあるとして調査官たちは証拠を探しており、世間は厳しい説明責任と重罰化を要求しています。しかし、とても乾燥した状況と異常に暑い日々が要因なら、意図しない火花が手に負えない火炎のきっかけとなるかもしれないのです。

Christian Solinas知事は、火事が「前例のない」ものだとして非常事態を宣言しました。ギリシャとフランスは消火活動を行う航空機を送ることで、サルデーニャ島を支援。アメリカ西部でも同じように、オーストラリアがリソースを共有する協定の一環として航空機を派遣していました。地球の温暖化が進んで火事がもっと激しく破壊的になるにつれて、そのようなリソースがさらに酷使されていくことを世界各地の火事は示しています。(アメリカ合衆国森林局は先月初めに支給物と消防士が減るなかで「全国的な山火事の危機」を警告しています)

火事自体は近いうちに消火されるかもしれませんが、失われた木々と動物層が元に戻るには数十年かかり、失われた数世紀ものの樹木は元に戻りません。生き残った動物に与える草が残っておらず、Peddio社の駐車場は支援を申し出たり、羊と牛のために干し草を持ってきたりする村人たちですぐにいっぱいになりました。「ほら、もっと人が来ますよ」Carmelaさん。「彼らは結束を示すため、牧草ロール1つだろうと持って来るんです。素晴らしいでしょう」

生活と事業を取り戻すための公的な援助を受け取るチャンスについて人々は未だ懐疑的です。「支援ですか? 見て、ここにそろっていますから」と32歳の羊飼いMarioさん。「私たちを助けてくれるのは、同じような貧しい人たちなんです」と付け加えています。彼の犬の1匹は未だ行方不明です。

Source: NASA, BBC, EFFIS,

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