日本に接近の台風 20年で1.5倍に – 清水駿貴

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映画『天気の子』の気象監修を務めた雲研究者の荒木健太郎さんが今年4月、空や雲といった身近な天気の楽しみ方から、台風をはじめとした気象災害などに関する防災知識まで幅広く伝える著書『すごすぎる天気の図鑑』(KADOKAWA)を上梓した。

地球温暖化が台風の日本接近に及ぼす影響や、高確率で虹に出会う方法。そして空の知識を通じて科学リテラシーを養う意義まで気象のプロ・荒木さんに天気のアレコレを聞いた。

この20年で台風の接近数が1.5倍に

ーー『すごすぎる天気の図鑑』は荒木さんの著書では初めて子どもを対象とした内容となっています。執筆のきっかけは何でしょうか。

講演活動などを通して、子どもたちが天気や雲に高い関心を持ってくれていることを感じていました。

温暖化などで異常気象や災害が増えるなか、次の世代を担っていく人たちに向けて、天気の面白さや気象・防災の知識などをもっと伝えたい。そんな思いから執筆を決めました。

ーー今の親世代が子どもの頃と現在では、気象をめぐる状況はどのように変化しているのでしょう。

例えば台風の接近数は、この20年で1.5倍になったという研究報告があります。

写真はイメージ=Getty Images

過去40年のうち、前半の20年と後半の20年で台風の接近数の比を取ってみると、東京を含めた太平洋側では増加していることがわかりました。

これは温暖化を含めた気候変動によるもので、太平洋高気圧の勢力の変化や海面水温の上昇などが要因と考えられています。

ーー台風の数が増加しているのは太平洋側のみでしょうか。

場所によります。沖縄県など日本の南海上では台風の接近数自体の変化は少ないと報告されています。

ーー接近数以外に地球温暖化の影響はありますか。

日本付近を通る台風の移動速度が今世紀末には今よりも10%ほど遅くなるという研究報告があり、台風の影響が長時間続く可能性が指摘されています。

ーー10%遅くなると、今と比べてどれくらいの変化があるのでしょう。

移動速度が時速にして5〜6kmくらい遅くなり、数時間ほど台風の影響が長期化するという可能性があります。

天気のプロが教える虹の見つけ方

提供:荒木健太郎さん

ーー気候危機や災害などの一方、”天気”の世界にはさまざまな魅力があります。これまでもSNSで天気の魅力発信に力を入れてきた荒木さんですが、今回の『すごすぎる天気の図鑑』では、どのような楽しみ方を伝えていますか。

例えば虹に出会える方法があります。

虹は太陽と反対側の空で雨が降っている時に起こる現象です。

そのため、レーダーの雨雲情報を使い、雨雲が通り抜けるタイミングを見計って太陽と反対側の空を見上げることで、高確率で出会うことができます。

提供:荒木健太郎さん

小学生のお子さんが親御さんと一緒にスマホの雨雲レーダーを見ながら、今どこに雨雲があり、どこに虹がでそうかなどを予測するのはとても面白いですし、そういった雨雲の動きに注意を向けるといった普段の行動が、いざという時の防災行動につながります。

雲の種類は何種類?

提供:荒木健太郎さん

ーー空や雲の観察や天気の変化を楽しむことが、防災の一歩になるのですね。荒木さんは雲の研究者としてご活躍されていますが、「雲の観察」を楽しむために知っておくと良い知識はありますか。

雲は大きく10種類に分けられます。

これを「十種雲形」と呼ぶのですが、『すごすぎる天気の図鑑』では、どのように雲が分類され、どうやって見分けるのかをフローチャートで示しています。

スマートフォンで雨雲レーダーを使って虹を追うのも面白いですが、本を片手に、空に浮かんでいる雲が何という名前なのかを観察すると、これまで見過ごしていた雲の面白さや綺麗な空模様に出会えると思います。

提供:荒木健太郎さん

ーー10種類というのは世界共通なのでしょうか?

そうです。世界気象機関が発行する「国際雲図帳」によって定められています。

読者の方からは「もう少し多いと思っていた」という感想もいただきました(笑)

しかし、大きく分けると10種類ですが、細かい分類を行うとその数は100種類以上にのぼります。

ーー100種類以上! 急に数が増えましたね。

空に浮かんでいる雲が何という種類なのかを調べるのも楽しいですが、お子さんと一緒に観察する時は、「何に似ているか」「どんな形か」など、オリジナルの”雲の名前”をつけるところから始めるのもいいですね。

また、例えば、お味噌汁などの湯気も雲といえるので、「お茶雲」や「ラーメン雲」、「コーヒー雲」など身近な雲を探して観察すると天気の事象への理解が深まると思います。

提供:荒木健太郎さん

ーー湯気と雲は同じものなのですか?

味噌汁の熱さで、表面付近の空気が水蒸気を含んだ状態で上昇した後、周囲の空気と混ざって温度が下がった結果、水蒸気が水の粒としてあふれたものが湯気です。

これは空で雲が生まれる仕組みと全く同じで、物理的には湯気=雲といえます。

このように、少しでも気象の知識を生活の中に当てはめて理解していくことができれば、物事の見方が広がります。

そうした体験の積み重ねが最終的に科学リテラシーの向上につながっていくと考えています。

ネットで出回る「地震雲」という迷信

ーーインターネットやSNSが普及した現代では誤った情報に触れる機会も急増しました。情報を見極めるための科学的なリテラシーは今後、ますます重要になりそうです。

地震の前兆などとして「地震雲」という言葉がSNSなどで使われることがありますが、雲の状態から地震の予測をすることは不可能。まさに「誤った情報」です。

今回、小学生の読者から「親から地震雲が怖いという話を聞いていたけれど、本を読んで雲が地震の前兆にならないことを知った」といった感想もいただきました。

正しい知識を知ることで、今よりももっと綺麗な空に出会いやすくなりますし、同時に災害から自分や大切な人の命を守ることにもつながります。

本を読んで、面白かったことや気になったことをなんでもいいので、友達や家族一緒に話し、空や雲、天気への理解を深めていっていただければいいなと思います。

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