一定期間動作した後は体内で分解されるバッテリー不要のペースメーカーを研究者が開発

GIGAZINE


ペースメーカーは一定のリズムで心臓の筋肉に電気刺激を与え、心臓の収縮を人工的に発生させる医療機器です。埋め込んだペースメーカーが恒久的に必要な人もいれば、中には一時的な補助装置として利用する人も存在し、後者の場合は一定期間が過ぎると取り外す必要がありますが、手術にはリスクが伴います。そこでアメリカの研究チームは、一定期間のみ動作したらその後は自然に分解し、体内に吸収されるペースメーカーを開発しました。

Fully implantable and bioresorbable cardiac pacemakers without leads or batteries | Nature Biotechnology
https://www.nature.com/articles/s41587-021-00948-x

Scientists develop wireless pacemaker that dissolves in body | Medical research | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2021/jun/28/wireless-pacemaker-dissolves-body

1958年に始めて人間にペースメーカーが埋め込まれて以来、何百万人もの人々がペースメーカーの恩恵を受けてきました。イギリスで行われた調査によると、2018年~2019年の間だけで3万2902人もの人々が、新たにペースメーカーを埋め込んだそうです。

しかし、必ずしも全ての患者が恒久的なペースメーカーを必要とするわけではなく、手術直後などの心臓のリスクが大きい時期だけペースメーカーを必要とする患者もいます。すでに、一定期間後に取り外せるペースメーカーも存在していますが、これには皮膚を通して配線された導線(リード)を通じて感染症になったり、外部電源および制御システムが誤って外れたり、デバイスを取り外す際に心臓組織が損傷したりするリスクがあるそうです。

そこで、アメリカ・ノースウェスタン大学のジョン・A・ロジャース教授らの研究チームは、心臓に埋め込んで一定期間動作すると体に吸収される、バッテリー不要のペースメーカーを開発しました。研究チームが開発したペースメーカーはマグネシウムタングステンシリコンポリ乳酸-グリコール酸(PLGA)などで構成されており、薄くて柔軟性が高く、重さはわずか0.5mmほど。

ペースメーカーは以下のようにテニスラケットに似た形をしており、外部にある装置からワイヤレスで給電する仕組みとなっています。ペースメーカーの素材は体に害を及ぼしませんが、化学反応を起こして時間経過と共に溶解し、やがて体に吸収されるとのこと。


すでに研究チームはネズミやイヌでこのペースメーカーをテストしているほか、スライスした人間の心臓でもテストを行っています。ネズミで行った実験では、ペースメーカーは埋め込んでから4日間動作し、埋め込んでから2週間ほどで溶解し始めたそうで、7週間後にはネズミの体をスキャンしてもペースメーカーの存在がわからなくなったそうです。デバイスが動作する期間や溶解し始める時間については、部品の厚さを微調整するなどして調整可能だとのこと。

ロジャース氏は、「私たちは小動物と大型動物、そしてドナーから提供された人間の心臓でデバイスをテストしましたが、まだ生きている人間ではテストしていません」とコメント。開発したペースメーカーが規制プロセスを通過して臨床試験の認可が下りるまでには、さらに数年かかる可能性があると述べました。

今回の研究には携わっていない、イギリス心臓財団で医療ディレクターを務めるサー・ニーレシュ・サマニ教授は、「これは刺激的かつ革新的な開発です。心臓手術の後、心拍の電気伝達に一時的な問題が発生する患者で役に立つ可能性があります。ペースメーカーが安全で効果的であることを確認するにはさらなるテストが必要ですが、これが事実であることが証明されれば、患者に不必要なペースメーカーを恒久的に埋め込んでしまうことを防ぐことができます」と述べ、分解されるペースメーカーの登場を歓迎しました。


この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
体内で分解する、人体に無害な「生分解性小型バッテリー」の開発に成功 – GIGAZINE

血管の主要な機能を模倣&血管の修復を促すことが可能な「電子血管」が開発される – GIGAZINE

デンキウナギを参考に体内で発電してコンタンクトレンズ型ディスプレイや心臓ペースメーカーを動かそうという研究 – GIGAZINE

「心臓のペースメーカーはハッキング可能でいまだに対処されていない」とセキュリティ研究者が警告 – GIGAZINE

金属製ナノフィルムの上に塩水が流れるだけで発電可能なシステムが開発される – GIGAZINE

・関連コンテンツ

2021年08月08日 09時00分00秒 in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.

Source

タイトルとURLをコピーしました