犬は「人のウソ」を見破ってウソつきの指示を無視するという研究結果

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犬は「お手」や「おすわり」といったさまざまな芸を覚えたり、介助犬や警察犬として人間をサポートしたりと、賢い動物であることが知られています。ウィーン大学の研究チームが発表した新たな論文では、犬は単に人間の指示に従うだけでなく、「人のウソを見破って指示を無視する」ことがわかりました。

Dogs follow human misleading suggestions more often when the informant has a false belief | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2021.0906

Dogs will ignore you if they know you are lying, unlike young children | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2284611-dogs-will-ignore-you-if-they-know-you-are-lying-unlike-young-children/

Dogs can tell when people are lying to them, study finds
https://phys.org/news/2021-07-dogs-people-lying.html

複雑な社会生活を営む人間は、他者がどのような心や目的、知識、信念を持っているのかを推測する「心の理論」と呼ばれる機能を持っています。そのため、人間は単に自分が持っている知識だけでなく、他者が持っている知識や意図を手がかりにして、その人物の言っていることが真実かどうかを判断することができます。そこで研究チームは、「指示を出す人間が誤っている、またはウソをついている」状況で犬がどのように行動するのかを調べました。

研究チームはさまざまな品種の犬を260匹集め、「2つのひっくり返されたバケツの下に隠されたエサを探させる」という実験を行いました。実験に参加する人間は飼い主、エサを隠す人(ハイダー)、エサの場所を指示する人(コミュニケーター)の3人であり、このうちハイダーとコミュニケーターは犬と初対面でした。

今回の実験では、飼い主が目隠しをした状態で犬をなでてリラックスさせる役割を担っており、特に重要なのはハイダーとコミュニケーター、そして犬自身でした。まず、研究チームは「コミュニケーターの指示に従うとエサが手に入る」ことを犬に教え込むため、3回のトレーニングセッションを実施しました。トレーニングセッションでは、犬とコミュニケーターが見ている前でハイダーが「バケツA」にエサを入れて……


その後でハイダーが、バケツAから「バケツB」にエサを移し替えます。この際、犬とコミュニケーターは向かい合っており、コミュニケーターはしっかりとエサの移動を監視しました。また、犬はハイダーの動きと共に、コミュニケーターの様子も観察することができました。


ハイダーはエサを移し替えた後に部屋から出て行きます。最後に、部屋に残ったコミュニケーターが「エサが入っているバケツB」を示し、犬にエサが入っていることを教えた上で、中のエサを取るよう指示します。この指示に従うと、犬はバケツの中にあるエサを得ることができました。研究チームはこのトレーニングセッションを3回繰り返し、犬にコミュニケーターを信頼させたとのこと。


次に研究チームは、犬を混乱させる実験セッションを行いました。実験セッションでは、犬を「False Beliefs(誤りの信念/FB)」グループ、「True Beliefs(真の信念/TB)」グループ、「Control True Belief(対照群の真の信念/CTB)」グループの3つに割り当てて、どのグループにも1回だけセッションを実施しました。

FBグループでは、まずハイダーがバケツAにエサを入れた後で、コミュニケーターが部屋を離れます。そして、コミュニケーター不在の状況で、犬に見られながらハイダーがエサをバケツBに移し替えて、それから部屋を離れます。最後にコミュニケーターが部屋に戻ってきて犬にバケツを指し示しますが、このセッションでは実際にエサが入っているバケツBではなく、バケツAを指し示したとのこと。コミュニケーターの視点から見ると、ハイダーがエサを移し替える様子を目撃していない以上、バケツAを指し示すのは理にかなっているといえます。

TBグループでも、同様にハイダーによるエサの移し替えが行われますが、コミュニケーターは部屋を離れずに移し替えを犬と一緒に見ていました。その上で、実際にエサが入っているバケツBではなく、間違っているバケツAを指し示したとのこと。この場合、犬から見るとコミュニケーターは「ウソをついている」ことになります。

CTBグループは基本的にTBグループと同じセッションが行われましたが、エサを移し替えたハイダーが部屋を出る際にコミュニケーターも一緒に部屋を出て、その後すぐに部屋へ戻ってバケツAを指し示したとのこと。TBグループとの違いは、「コミュニケーターが一時的に部屋を出た」という点のみであり、コミュニケーターはエサの移し替えもしっかり目撃していました。


同様の実験を5歳未満の子どもやニホンザル、チンパンジーを対象に行った過去の研究では、エサの入れ替え時に不在だったコミュニケーターの指示を無視する傾向が見られた一方、エサの入れ替えを目撃していたコミュニケーターの指示には従う傾向があったとのこと。論文の共著者であるルートヴィヒ・フーバー教授は、子どもたちやサルがコミュニケーターを信頼したために、このような結果になった可能性があると述べています。

こうした結果から、研究チームは犬を対象にした実験を行う前に、「犬も子どもやサルと同様に、エサの入れ替え時に不在だったコミュニケーターの指示には従わず、エサの入れ替え時に同席していたコミュニケーターには従う傾向が高くなるだろう」と予測しました。

ところが、実際には犬が「ウソをついているコミュニケーター」を信頼する割合は、エサの入れ替えを見ていなかったコミュニケーターを信頼する割合よりも低いという結果になりました。以下のグラフが、FBグループ、TBグループ、CTBグループにおける「誤った、あるいはウソの指示に犬が従って、エサの入っていないバケツAを探した割合」を示したもの。コミュニケーターがエサの入れ替えを目撃していなかった場合は、約半数の犬が誤った指示に従いましたが、コミュニケーターがエサの入れ替えを目撃していた場合は、約3分の2がコミュニケーターの指示を無視してエサの入っているバケツBを探したことがわかります。フーバー教授は、「犬はもはやコミュニケーターに依存していませんでした」と述べています。


今回の研究に関与しなかったオレゴン州立大学のモニーク・ユダル准教授は、半数の犬が自分の目でエサの入れ替えを見ていたにもかかわらず、入れ替えを目撃していなかったコミュニケーターの誤った指示に従って理由について、犬は社会的な合図を無視するのが困難なのではないかと指摘。「この研究は犬が私たちを注意深く見守っていて、私たちの社会的信号を拾い上げており、正式なトレーニングの場以外でも常に私たちから学んでいることを教えてくれます」と述べました。

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