森林の近くで暮らす子どもは認知能力やメンタルヘルスが向上するとの研究結果

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近年では、自然との触れ合いがメンタルヘルスや健康に与える影響が注目されており、「緑の少ない場所で育った子どもは精神疾患のリスクが高い」「自然と触れ合うことで免疫力向上やストレス軽減といった効果が得られる」「1日10分ほど自然の中で過ごすだけで精神状態が改善される可能性がある」といった研究結果が相次いで発表されています。新たにイギリスの研究チームが発表した論文では、「森林の近くに住む子どもは、認知能力やメンタルヘルスが優れている」との研究結果が報告されました。

Benefit of woodland and other natural environments for adolescents’ cognition and mental health | Nature Sustainability
https://www.nature.com/articles/s41893-021-00751-1

Living near woodlands is good for children and young people’s mental health | Imperial News | Imperial College London
https://www.imperial.ac.uk/news/226853/living-near-woodlands-good-children-young/

City children have better mental health and cognition if they live near woodlands – CNN
https://edition.cnn.com/2021/07/20/health/woodland-children-wellness-scn-intl-scli-gbr/index.html

インペリアル・カレッジ・ロンドンとユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの合同研究チームは、自然との触れ合いが子どもに与える影響を調べるため、「Study of Cognition, Adolescents, and Mobile Phones(認知・青年・携帯電話の研究/SCAMP)」で2014~2018年にかけて収集された縦断的なデータセットを分析しました。このデータセットはロンドンに住む9~15歳の子どもたち3568人を対象に、住んでいる場所や認知能力、感情および行動的な問題、メンタルヘルス、幸福感などを調査したものだったとのこと。

まず、それぞれの子どもたちが自然と触れ合う頻度を推定するため、研究チームは衛星データを基にして、自宅や学校の半径50m・100m・250m・500m以内にある自然環境を調査。自然環境のうち森や牧草地、公園などを「グリーンスペース」、川や池、海などを「ブルースペース」に分類し、グリーンスペースをさらに「草地」と「森林地帯」に分けました。そして、それぞれの自然に子どもたちが触れ合う頻度を推定し、年齢・民族・性別・親の職業・学校の種類・空気汚染といった変数を調整してから分析しました。

その結果、日常生活の中で森林地帯と触れ合う頻度が高い子どもほど認知発達のスコアが高く、2年後に感情や行動の問題を起こす割合が16~17%も低い傾向があると判明。一方、草地との触れ合いも同様の効果をもたらしましたが森林地帯より影響は小さく、ブルースペースは効果がみられなかったと研究チームは述べています。なお、グリーンスペースに比べてブルースペースとの触れ合いは、全体的に少ない傾向が確認されました。


論文の筆頭著者であり、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの博士課程に在籍するMikaël Maes氏は、「今回の研究結果は、青年の認知発達やメンタルヘルスにおける重要な予防要因の中でも自然環境に関する理解に貢献し、あらゆる環境タイプが等しい健康上の利点を示すわけではないことを示唆しています」とコメント。

しかし、森林地帯の近くに住むことが認知能力やメンタルヘルスの向上に関連している可能性が示された一方、2つの間にある因果関係については不明なままです。この点についてMaes氏は海外メディアのCNNに対し、森林の植生や動物の豊富さによってもたらされる視聴覚的な刺激にさらされることが、心理学的な効果をもたらすかもしれないと述べました。

論文の共同執筆者であるインペリアル・カレッジ・ロンドンのMireille Toledano教授は、「これまでの研究では、自然環境がメンタルヘルスに与える影響は周囲の都市化の度合いよりも大きく家族構成や親の年齢に匹敵する一方、親の社会経済的地位よりは弱いことが示唆されてきました」「自然環境が生涯を通じて私たちのメンタルヘルスにとって重要なのかや、その恩恵は自然環境の中で行う運動から得られるのか、それとも社会的交流から得られるのか、あるいは動植物との触れ合いから得られるのか、あるいはこれらの組み合わせから得られるのかを明らかにすることが重要です」と述べました。


なお、今回の研究では、子どもたちと自然の触れ合いを住んでいる場所に基づいて推定しており、実際に子どもたちがどれほど自然に触れ合ったかどうかは不明です。また、地域の犯罪率については考慮していないほか、対象となった子どもの親のうち半数以上が管理職または専門職に就いており、社会経済的に不利なグループの子どもたちが過小評価されている可能性もあると、研究チームは指摘しています。

レディング大学の心理学者であるStella Chan氏も、実際に子どもたちが自然の近くに住んでいるからといって、実際に自然にアクセスできるかどうかは別の話だとCNNへの電子メールで指摘。その一方で、今回の研究は若者の知的発達や健康、幸福をサポートする上で役立つ可能性がある「新しい洞察」を提供したと述べました。

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