東京五輪 掌返しが早かった理由 – WEDGE Infinity

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想像よりも早い急展開で日本が「五輪一色」に染まろうとしている。23日から東京五輪が開会式を迎え、それと同時にメダルラッシュも始まった。24日にはまず柔道女子48キロ級で初出場の渡名喜風南が先陣を切って銀メダルを獲得。そして同じ24日、今度は柔道男子60キロ級で高藤直寿が今大会日本選手団第1号となる金メダルに輝いた。

25日には一気に4人の日本人金メダリストが誕生。競泳女子400メートル個人メドレーで大橋悠依が、この日最初の金メダルを手にした。今大会からの新種目スケートボード・ストリート男子では22歳の堀米雄斗が初の五輪王者となった。また柔道では男子66キロ級の阿部一二三、女子52キロ級の阿部詩の兄妹が2人揃って優勝。柔道五輪史上初の快挙となる兄妹同日金メダルを成し遂げ、日本列島は大いに沸いた。

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この流れに飲み込まれるようにしてSNSやツイッターでも開会式当日から五輪関連のワードが続々とトレンド上位を連日独占するようになっている。

開会式前に一足早く始まった団体競技のソフトボールと男子サッカーもいざ五輪初戦を迎えてみれば、それぞれの日本代表チームは予想をはるかに超える注目を集めている。国民の大声援を受けつつ25日にはソフトボール日本代表がカナダを撃破し、27日の決勝進出を決め銀メダル以上が確定。男子サッカーも日本は強豪メキシコを下して2連勝し、決勝トーナメント進出に王手をかけた。

開会式を迎えるまでは間違いなく国民の圧倒的大多数の人たちが、新型コロナウイルス感染拡大を招きかねない東京五輪に対して嫌悪感を抱いていた。実際に筆者も今大会のメディアパスを取得し、それとなく周囲に五輪取材へ行くことを伝えると露骨に嫌な顔をされ、かつ強い拒否反応も示されたことが幾度となくあった。だからそんな背景もあって多くの国民から理解を得られない以上、今大会の取材に行く直前までは「東京五輪は盛り上がらないだろう」と踏んでいた。

それを象徴するかのように東京五輪・パラリンピック大会組織委員会には開会直前まで猛烈な逆風がふきつけていた。東京五輪・パラリンピックの開会式の作曲担当となっていたミュージシャンの小山田圭吾氏は過去の雑誌インタビューで障害がある同級生らに対して目を背けたくなる陰湿ないじめや差別行為を行っていたことを笑いながら告白していた詳細が明らかになり、19日に自身のSNSで辞任を発表。森喜朗前組織委会長の女性蔑視発言、開会式で女性タレントの〝ブタ扱い演出〟を考案していたことが明るみに出て開閉会式の演出担当から辞任したクリエーティブディレクターの一件など組織委絡みの不祥事は後を絶たなかった。組織委内部から「今大会は呪われている」「とても開催支持を得られるような状況ではない」などと次々に諦めムードが漂うようになっていたのも無理はあるまい。

「東京五輪フィーバー」

ところが、いざフタを開けてみたら今や日本全体がすっかり「東京五輪フィーバー」である。開会式の内容そのものには賛否両論あって未だに大きく評価が分かれるところだが、肝心のアスリートたちの「熱き闘い」と「感動の嵐」がテレビの視聴者やネットユーザーたちの心を奪い、虜にしてしまった感がある。

実際、組織委関係者も「まさか、ここまでいい意味で早い段階から急に東京五輪がヒートアップするとは想像できなかった」と本音を吐露し「初日からハイペースで日本人メダリストが続々と誕生し、26日時点で日本は金メダル獲得数で中国に次いで2位につけている。そんな日本の躍進に引き寄せられ、国全体で応援しようというムードに拍車がかかっていることは言うまでもない。その上ほぼ無観客となり、東京を中心に緊急事態宣言が出される中、外出を避けて東京五輪をテレビ観戦する人もかなり多いようだ」と続け、嬉しい誤算も明かした。

旧知の間柄で日本滞在歴が長く、日本語も堪能な米メディア関係者は開会式の取材を終えた翌日、次のようなことをいみじくも電話で話していた。「日本国内の大半が東京五輪開催反対のムードに包まれていることは無論知っていた。ただ一旦、五輪が開会すれば、開幕前の開催反対が蜃気楼のように沈静化していくことも想像できていた。この大会はアスリートたちが主役だ。開催を取り止めるか、強行するのかに関しては政府や運営側の問題であり、代表選手団とは無関係。だからたとえ自分自身が開催反対派であったとしても、シンプルに考えてアスリートと大会運営側への思いは切り離して考えなければいけない。少なくとも自国代表選手団については応援するべきだ。多くの日本人もそう思っているからこそ、このように東京五輪関連のニュースに一喜一憂する日々を過ごしているのだろう」

あくまでも、これは海外メディアに携わる1人の関係者の見解だ。しかしながら、このまま東京五輪は代表選手アスリートたちの熱き闘いによって日本国内全体からの「手のひら返し」を受けることとなり、来月8日の閉会まで連日空前絶後の注目度を高めることになりそうだ。

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