ウッドショック 日本がきっかけ? – 大塚耕平

BLOGOS

2020年の国内新設住宅着工戸数は81.5万戸となりました。日銀の新人時代に住宅・木材業界の産業調査を担当しており、当時は年間180万戸が好況・不況の境目と聞かされていたことを考えると、隔世の感です。その住宅・木材市場で供給不足と価格高騰が話題になっています。

1.第4次ウッドショック

今年3月の新設住宅着工戸数は21ヶ月ぶりに増加に転じました。景気回復の兆しと好感していた矢先、住宅・木材市場でウッドショックが顕現化しました。

ウッドショックは世界的な木材不足、それに伴う価格高騰を指します。木造住宅・建築市場に影響を及ぼしていますが、とくに日本での影響が大きい状況です。

日本は北米・欧州等から木材を輸入していますが、製材のみならず、原材料(原木やラミナ)も供給不足に陥っています。

需給逼迫を映じて価格も高騰。もともと過去数年、価格は上昇傾向にありましたが、ウッドショックで加速しています。

国交省算出の建築工事費デフレーターは、2001年から過去20年で最低は2002年の93.8、最高は2019年の112.4です。約2割弱上昇しています。

そこからウッドショックが発生。CME取引所(シカゴ)材木先物の指標価格は昨年6月に400ドルでしたが、今年6月は約2000ドル。1年で5倍に高騰しました。

国内でも、杉柱材価格は昨年6月が1立方メートル6.7万円、今年6月は8.7万円。1年間で2万円、約1.3倍に値上がりしました。

今年に入ってからの値上がりも顕著です。欧州材は3月に同3.5万円前後でしたが、6月には約8万円。今後の輸入分については10万円という予想も聞きます。わずか半年足らずで3倍近い異常な値上がりです。

この状況を眺め、株式市場から商品市場に投機資金が流れています。

木造住宅の主な工法には、在来工法(軸組構法)、ツーバイフォー工法(枠組壁構法)、木質プレハブ工法等があります。このうち8割近いシェアの在来工法は梁と柱を組んで家の骨組みを作ります。

供給不足と値上がりが深刻なのはその梁や柱に使う輸入材。とくに梁材は柱と柱を繋ぐ横架材であり、これが入手できないと建築が進みません。

木造住宅価格に占める木材費は約1割。3000万円の住宅の場合は300万円が木材費。それがウッドショックで倍になれば、さらに300万円。つまり、3300万円になることを意味します。これでは施主は困ります。

日本木造住宅産業協会の2019年調査によると、梁材の国産材比率は10%、柱材は42%です。合板81%に比べると、梁材と柱材の国産材比率の低さが際立っており、これが供給不足と価格高騰を助長しています。

国産材で梁に適した木材はカラマツですが、量が少ないと聞きます。梁は構造計算や強度に関係するため、設計上も代替が容易ではありません。

梁用輸入材は米松製材やレッドウッド(RW)集成材と呼ばれる木材ですが、ウッドショックは特にこれらの不足と価格高騰を呼んでいます。

柱には杉や檜が用いられますが、これは国産材でも調達できるため、梁に比べると影響は小さいようです。

因みに今回の状況を第3次ウッドショックと表現する業界関係者が多いですが、1983年頃に住宅・木材市場の産業調査を担当していた身としては、第4次という印象です。

最初は高度成長期のインフレもあって価格は高騰。同時期、輸入自由化によって国産材に比べて安く大量に調達できた輸入材が国産材に代替していきました。

第2次は1990年代。バブルによる需要増もありましたが、国連地球サミットが開催され、環境問題に対する関心の高まりが森林伐採制限につながり、供給不足が発生しました。

その過程でローコストを売りにするハウスメーカーが台頭。安い輸入材の依存度が急速に高まりました。

第3次は2006年頃。中国を含む新興国で木材需要が急増するとともに、サブプライム危機前の米国での住宅需要増が影響しました。今回はこれに続く第4次です。

2.輸入依存率7割

日本の建物全体に占める木造率(2019年)は43.9%。木造住宅をはじめ、日本における建材としての木材需要には根強いものがあります。

日本の山林は約2505万haと国土の約67%を占め、うち1348万haが天然林、1020万haが人工林、残りが竹林や無立木地(伐採後、まだ再植林していない土地)です。

天然林と人工林で約76億立方メートルの木材資源がある計算です。それでも木材不足になるのは不思議な話ですが、理由は明白です。

第1は需給要因。海外、とくに米欧中の需要急増です。

もともと米国の住宅着工件数は堅調でした。2015年頃からミレニアル世代を中心に郊外型住宅の購入が増加。そのうえ、コロナ対策として実質ゼロ金利政策が導入され、住宅ローンを活用した着工件数増加に拍車がかかりました。

コロナ禍でテレワークが浸透し、郊外住宅需要を刺激。都市部から郊外に引っ越し、戸建て住宅を入手する動きが加速。つまり、低金利政策と在宅スタイルへの転換が理由です。

欧州諸国の木材需要も拡大。背景は米国と一緒ですが、CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー)工法等の普及も木造住宅の人気を高めています。

そして中国。世界最大の木材輸入国である中国がコロナ禍から早期に景気回復したことから、住宅建設が急増しています。

中国は産業用丸太の世界最大輸入国であり、2018年には世界の43%を輸入。2010年からの10年間で中国の針葉樹丸太輸入量は2500万立方メートルから4500万立方メートルと約1.8倍に増加。世界市場の需給逼迫と価格高騰を誘発しています。

第2は世界的な金融緩和。上述の米国で触れた要因は、多くの国に共通しています。とくに米国では、一生のうちに何度か家を買い替える習慣があり、今が絶好のタイミングになっています。

第3は日本の輸入材依存。2019年の日本の製材用材自給率は約51%、合板用材は約45%。建築用木材の半分は輸入に頼っています。木材全体の輸入依存率は約7割であり、世界市場の需給逼迫が日本における木材不足、価格高騰につながるのは当然です。

表現を変えれば、日本の木材のサプライチェーンの脆弱性が原因です。

日本は世界有数の木材輸入国です。北米からの米材が最も約15%、東南アジアからの南洋材も約15%、次いで欧州材が約8%、豪州材が約6%、ロシア材が約3%です。

高度成長期の輸入自由化前の自給率は約95%でしたが、当時の木材需要は現在の6割程度であったため、需給バランスは安定していました。しかし1980年代以降、バブル経済に向かう中で需要が高まり、輸入材への依存度が高まりました。

では、なぜ輸入材依存が高まってきたのか。それが第4の理由です。まずは国産材不足。日本の森林は戦時中と高度成長期にかなり伐採されたからです。

木材は、植林してから伐採可能になるまで30年以上要するため、急激に伐採されると供給回復は容易ではありません。そこで、海外の安価な輸入材に依存したことが、結果的に日本の林業の衰退、国産材不足につながりました。

第5は、その結果としての林業従事者の高齢化等による労働力不足。1980年に約14.6万人だった林業従事者は2015年には約4.5万人と7割減。また、林業従事者の高齢化率(65歳以上の割合)は25%。全産業平均13%の約2倍です。逆に、若年者率(35歳未満の割合)は約17%、全産業平均24%よりかなり低い状況です。

第6は付随的要因ですが、輸送問題です。コロナ禍の影響で物流需要が増し、輸送業界の人手不足も深刻。輸送コンテナや船舶も争奪戦になっており、コロナ禍の影響もあって船員や荷揚げ等の港湾労働者も不足しています。

今年3月のスエズ運河での大型コンテナ船座礁事故も影響しています。そのうえ、コンテナ、船舶、人手を中国が大量に押さえているため、他国の逼迫感を助長しています。

タイトルとURLをコピーしました